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高校生が経営理念を考える過程でわが街・わが島への愛を語る|2022壱岐商業高校×とびゼミコラボ授業④

みなさん、ゴールデンウィークはいかがお過ごしでしたか?

最近はアントレ教育noteみたいになってきましたが、今回も懲りずに今日行われた壱岐商業高校とのコラボ授業の記録。

これまでの授業の記録はこちらから。

今日で第4回を迎え、学生側も高校生側もルーティンができあがってきた模様。回数を重ねるたびに落ち着きも出てきて,双方の息も合ってきた感じがします(雑)。

さて、今日の授業テーマは「経営理念」。それで2コマ100分も授業すんのかと思われるかもしれませんが、創業体験プログラムがそうであるように、本プログラムでも経営理念は最重要レベルで大事にする内容です。部活動やクラスマッチなどで組織的な活動を行う機会はあれど、普段「組織」を意識して活動することが少ないであろう高校生に対して、わたしたちの生活に身近で,将来多くの人が働く場所となるであろう「企業」の存在意義を問うことは極めて重要。

それは単に商売をするだけでない、目的≒社会課題の解決を図り、人々に価値をもたらす存在であるからこそ、その存在表明たる経営理念は絶対に外せないテーマです。つまり,何か目的があるからなされるべきことを行う。それを人からお金を頂きながら行う。それが企業活動の根幹にあることを理解しよう。これが今回のテーマです。

果たして学生たちはどのようにしてこのテーマを講じたのでしょうか。その様子を覗いてみましょう。

経営理念を学ぶ|組織目的の設定

前回までの講義で、学生は高校生に対して①一歩踏み出す勇気としての「アントレプレナーシップ」②目的を達成するために個人の創造性を発揮させる環境を作る「コレクティブ・ジーニアス」、そして③近年「心理的安全性」で注目されている即興的なチームで個人の創造性を活かす環境づくりに着目した「チーミング」について話をしてきた。

これは私は他大学で授業する「組織論」でもそうであるように、企業という組織とわたしたち個人を対置させつつ、その組織の中でいかに自らの能力を発揮できる環境を創っていくか、他者との関係性をどう構築していくかという視点を反映させている。

本来はこれに理念を具体的な戦略,戦術に落とし込み,その実行を担保する仕組みであるManagement Control System(MCS)の話が加わるが、高校生向けの授業ではまず組織と個人の関わり合いについて理解することを優先している。

そこで,毎回そうであるように,高校生には事前動画を配布し、今回のテーマである経営理念の概要を伝え、コンビニ大手3社の経営理念を調べてきてもらうという課題に取り組んでもらった。

今回の授業では2週間空いたことを考慮して「組織ってなんだったっけ?」を起点とし、改めて組織というもののイメージを置きながら,自分との関わりを整理するところからスタート。

もう学生は空でこの定義言えるんちゃうやろかw

そして、その組織、今回私たちが対象としている企業(ビジネスを営む組織)の存在意義を表明するものが経営理念であるという説明。さらにはグループワークで「自分たちが会社を創るとしたら,どんな経営理念を掲げるか」を議論し、それを言葉にしていくことを獲得目標と定めた。

だんだん講義資料も洗練されてきた

その経営理念を定めるためには、変化の主体変化させる要素変化の対象変化後の理想状況という4つの要素が必要だと説き、ここで1回目のワークに入る。

1回目のワークは事前課題で指定したコンビニ大手3社の経営理念をこの要素に当てはめ,実際の企業活動を紐付けながら理解するというもの。約20分程のワーク。前回は私もワークの中に入らせてもらったが,今回は外れて沈黙の時間が過ぎる。

ワーク終了。生徒によるプレゼン。

4要素に分解することももちろんだが,それをもとに壱岐島内にあるローソンとファミリーマートに足を運んでみたり,Webで経営理念を調べながらそれぞれがどのような活動をしているのか,実際の店舗運営の中に経営理念のようなものがどう反映されているのかを検証するような生徒も出てきたり。

VTRの内容をもとに理解を深めるために必要な行動が取れる。

こちらの想定を超えてくる感じ。気持ちいい(笑)

会社名,綴り間違えてない?(笑)

ワークを受けて,学生は昨年の創業体験プログラムで設立した企業の経営理念をもとに「経営理念を設定することの重要性と難しさ」について説明をしていた。特に今回提示した4要素をもとに改めて自分たちの経営理念を検証し直し,何ができて,何ができていなかったのかを峻別して次の機会に活かそうとしていた。

学生たちもこうして自分たちがやってきたことをもとに,自らロールモデルとして高校生に向き合おうとする姿が素晴らしい。そう,学生も学びながら教えているのだから,自分の経験を補正しつつ,理論や言われていることを補強しながら説明していくしかない。そういう真摯な態度が高校生だけでなく,恐らく高校の先生方にも伝わっているに違いない。

そうして1コマ目が終了した。

グループワーク|自分たちが経営する会社の経営理念を考えよう

2コマ目は高校生が経営理念を創る時間。もし自分たちが壱岐を拠点とした企業を創業するとして,その企業は何を目的とするか。それをもとに経営理念を設定するワークを行った。

毎度おなじみ高校での授業風景

ここでまた私は1人ぼっちで待機。今度は30分程のワークが行われた。2つのグループのディスカッションは次の通り。

Aグループ(仮に名付けるとすると)は,壱岐には無い若者向けの洋服店を創業する。その経営理念は「服着る門には福来たる」

ネットで購入するけど,買って届いて初めて身につけることができるから,そこで「サイズが合っていない」ということに気づく。そういう想いは壱岐に住んでいる人であれば一度は経験したことがあるだろう。せっかくオシャレをしたくても気軽に楽しむこともできない。そうした困りごとを解決したいので洋服店を創業したいということだった。

Bグループは最終的に経営理念がまとまらなかったそうだ。言葉にならなかったと言うべきか。当初,彼らの議論で出た社会課題としてデリバリー(Uber Eats)が挙がり,それに基づいて話を進めようとしたそうだ。

しかし,「本当にそれって社会課題か?」,「もしうまく行かなくなったらすぐに止める。そんな企業を壱岐で創るの?」というグループメンバーからの意見が出たという。つまり,本当に壱岐で自分たちがやりたいことは何か,本当にするとしたらどういう企業にしたいのかというところに立ち返って考えていたということだ。このグループにサポートに入っていたゼミOB曰く,壱岐の現状を見据えて何を事業機会として捉えるかを議論している彼らを見て「(良くも悪くも)彼らの壱岐に対する愛情を感じることができた」とのこと。

改めて経営理念とはなにか。

以上のような議論を経て,今回の授業は終了。最後にふりかえりを行って経営理念の意義を再確認した。

次回授業へのつなぎ。こういうのは良い。

また,これまでの授業,これからの授業との接続を図るため,中間テストを挟んだ2週間後の授業で取り上げるテーマについても説明が行われた。理念とビジョンをどう分けるかというところには論点があるけれども,これも私が講義で使用した孫正義氏の理念・ビジョン,戦略,戦術の話から引用しているのだから,これでよかろう。

授業終わりにみんなでバイバイ

こうして授業が無事に終了した。初回のようなバタバタもすることなく。

授業後のふりかえり|高校生の壱岐への愛情はいかにして育まれたのか

授業終了後は即ふりかえり。今回の授業の印象を学生と語り合い,次回以降の内容確認,方針変更について議論をする。

まず,授業全体について感想を述べたあと,今日のグループワークでの議論の内容等について確認。そこで先に述べたような内容が明らかになった。学生たちは高校生たちのディスカッション内容に感心していたようで,今後の授業内容はもちろん,今すぐにでも彼らに事業を実際に体験させたいと思ったよう。

私も学生の報告を聞いていて同じように思えたので,すぐに関係各所に連絡を取り始めた。当初11月から12月に実施する予定だった販売実習を繰り上げることはできないか。今すぐ彼・彼女たちがどんなビジネスをあの島で行うのかを見てみたい。夏休みに実施する合宿に合わせて何かできないだろうか。

それほどまでに高校生の意欲の高さ,壱岐という島を大事に思う気持ちを感じることができた。しかもそれは,その愛情は熱狂的に,盲目的に注がれているのではない。彼らは自分たちが置かれている状況を,冷静に,俯瞰的に見つめながら,日々を過ごしている

そうした高校生にわたしたちは何を提供できるのか。彼・彼女たちのスマートさに感服しつつ,これからの授業構成の変更を検討することにした。

それにしてもだ。これまでいくつかの学校で授業を行ってきたが,自分たちの住む島を愛し,課題を冷静に見つめ,抽象的な概念を操作しながら議論できる高校生に出会えたであろうか。もちろん見えていないだけで,いるには違いない。ただそれは,進学校ではあり得るだろうグローバルな視点や天下国家を論じるものでもないし,商学を学び始めた大学1年生が知らないこと,抽象的なことを議論すると突拍子もないコトを言い出すものでもない。

どこまでも彼らは日々見ている現実と,わたしたちが提供している授業内容とをすり合わせながら,そこにある世界を理解しようとしている。そして,島の未来に可能性を見出し,事業機会を見出そうとしている。もちろん壱岐商業高校の生徒全員がそのように考えているわけではないのだろうが,参加してくれている10名の生徒の中から,わずか2コマの授業の即興的に作られたチームの中で,自分たちの世界観を共有し,議論できていることに驚きを感じている。

いったいどのようにして彼・彼女たちの視点は育まれたのだろうか?

そういう彼・彼女らにわたしたちが提供できることは,(日頃学んでいる商業高校での教育課程とは異なる目線での)ビジネスが持っている価値を伝えることかもしれない。

島の中で事業機会を見出し,アイデアを練り,他者の協力を取り入れながら,事業を行い,価値を生み出す。生み出した価値を分配し,島で自立的な経済活動を島だからできることで営めるようにしていく。

もしかしたら思っていたよりも早く,高校生が島の中で何かを始める機会が創れるかもしれない。そういう可能性を感じられた授業だった。

授業を重ねるごとに螺旋的にそれぞれが共鳴しあって,より良い授業が構築でき始めている。この様子をこのnoteではきっと十分に伝えきれていないのは承知しているけれども,ぜひ引き続きご支援頂ければ幸い。ぜひ応援してください。宜しくお願いします。

次回講義は2週間後。そして,26日には彼らと対面ができる。また楽しみが増えました。

余談|関わってくださるみなさんに感謝

壱岐でのお話

わたしたちは壱岐商業高校の先生方に大変良くして頂いているのだが,先生方も「学生に全てお任せしていて良いのかしら」と思い始めてくださっている模様。まさに3年前,とある高校で見ていた景色。「もっとわたしたちが評価等に関与できないのか」というお声も頂き始めているそうだ。そういう反応が出るというのはポジティブに受け止めてくださっているのだろう。

それはこれまでも高校では先生方と生徒との間で良好なコミュニケーションが築かれていたからこそであって,わたしたちが介在しているからだと言うつもりはさらさら無い。ただ,大学生という斜め上の関係性を導入することで,先生方も俯瞰的に生徒の状況を把握され,かつわたしたちの取り組みに理解を頂けているのではないだろうか。

わずか4回で,かつオンライン授業だけで手応えを感じることができている。ぜひこの動きをさらに高め,広げていくためにも,なされるべきことはなにか,手を正しく打っていきたい。

日田でのお話

大分県日田市を中心に取り組んでいるPOPUPコーヒーショップの"BESIDE"。今週末は今年のプロジェクトリーダーの地元である長崎県島原市で,翌週はお祭りが開催される日田で出店するのだそう。

日田では昨年から地元の実業系高校との連携を進めている。BESIDEは①高等教育機関のない地方都市で大学生がロールモデルになること,②できれば地元からの出店希望者に店を譲ることを大きな事業目的としている。高校との連携はこれを双方実現できるまたとない機会。そして,今年度からは高校生だけでも自立的に運営をしてもらえる仕掛けを作れないかというミッションを与えている。

そうしたこともあり,次回来週の出店では高校生が本格的に出店に協力し,商品開発を進めている。ゼミのSlackには高校生による可愛らしい手書きの事業計画がアップされている。しかも,高校生らしく値段も少し控えめ。それを見た大学生がどう高校生を導いていくのか,これを見守ることも楽しみ。また,今年度も6月から8月にかけて3回の授業と1回の出店をセットにしたワークショップを実施する。2年目のBESIDEもさらに進化していきそう

もっと学生にも関わって欲しいのだけどなぁ。ま,大切なことは目に見えないからね。気づいてからでは遅いのよね。うん。

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