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中学生にいかにして「アントレプレナーシップ」を伝えるか|2024スプラウト苓北中学校③

いよいよ新プロジェクト始動になりました。6月から仕込んできた天草・苓北での『スプラウト』。中学生にアントレプレナーシップを教え,町のお祭りで思い思いの商品を販売するという教育プログラムが立ち上がります。

苓北町は天草下島の北西に位置する人口6,200人ほどの町。人口減少が加速度的に進み、主要産業は農業、漁業と火力発電。高校はありますが、その先の進学となるとほとんどの若者が町を出て行きます。そうした中で、かねてより同町出身の大仁田 英貴さんから高大連携アントレ教育プログラム『スプラウト』の手法を苓北にも導入したいとご相談を頂き、町役場吉村 俊彦さんのご協力を得て、本年度から実施することになりました。

今回の参加者無事全員揃ったことを確認する写真

全5回の授業のうち,第1回と祭り当日は学生が天草へ訪問して現地で授業。ということで,今回は11人の学生とともに天草に向かいました。合宿ではコスパと現地の移動手段を考えて福岡から自動車での移動になりますが,今回は諸々お力添えを頂いて,飛行機+レンタカーという贅沢なツアーに。

今回は記念すべき苓北中学校での第1回『スプラウト』の模様を報告します。苓北でのこれまでの経緯についてはこちらのマガジンを御覧ください。

11人の学生とともに,一路天草へ!

7:30に福岡空港に到着してチェックイン,8:50のフライトで天草に向かいました。

ここで1つハプニング。荷物検査で外したAppleWatchを忘れてくるという失態。搭乗前にグランドスタッフにその旨伝えたところ,出発前にこちらが指定した場所にあることが確認できた。冷や汗をかいた(笑)。

天草空港に到着

約30分のフライト後,天草に到着し,レンタカーを借りて各自移動。私だけ個別行動で天草市中心部本渡に向かい,パララボ天草でスタッフと近況についてディスカッション。

その間,学生たちは今回も先日の出雲同様に『地元で稼いだお金を地元に落とせ』をテーマにしているので,ランチも天草だから食べられるものを選択したようだ。

2週間前にも来た苓北町役場で打ち合わせ

12時20分から苓北町役場に集合して授業前の打ち合わせ。2年生からすれば2週間前にゼミ合宿で来た同じ場所。合宿といい,今回の『スプラウト』といい,苓北町役場の皆さんに本当に良くして頂いている。本当に感謝です。

なお,今回授業の対象となるのは苓北中学校の3年生50名。クラスは2つ。こちらは学生11名を以下のように配置。1組にはゼミにおける『スプラウト』リーダーを筆頭に,4年生2名(うち1名は昨年度のリーダー),3年生(リーダーを含めて)2名,2年生1名という合計5名で,2組には4年生1名(一昨年の本プロジェクトリーダー),3年生2名,2年生3名という構成に。

プロジェクトリーダーがどのようにメンバー配置をするかに腐心したあとが見える。果たして授業はどのように進んだのでしょうか。

1コマ目:事前ワークの確認と「アントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアス」

13:55にいよいよ授業がスタート。

どんな授業でも第1回はとても大事。今年から始まる新しい取り組みだから,ここに関わっている誰もが不安。学生はもちろん,授業を聞いている中学生も,周りでサポート頂いている先生方もだ。これから何が起きるか不安。その不安を振り払うのは教壇に立つ学生の1つ1つのアクションだ。

クラス全員を対象にする『スプラウト』は昨年の女子商最終回以来。

九州各地で行っている『スプラウト』だが,クラス単位でプログラムを走らせているのは福岡女子商業高校と飯塚高校の2つだけ。残りは高校生の募集をしたり,探究や総合的学習の時間でコースごとに分けられた数名の生徒に対する授業だったりする。

2024年に入り,壱岐商業,ひとよし球磨,出雲と各地でプログラムを実施しているが,対面といっても少人数で学生がハンドリングしやすい状況を作っている。しかし,5-6人の学生で30名弱の生徒をハンドリングする授業は今年初めてと言って良い。

だから,1組はリーダーが担当しているとは言え,ほとんどオンライン授業だたったし,2組もひとよし球磨でオンラインを経験したけれども,対面で話すは初めてだ。2組は2人の3年生で担当しているが,もう1人は完全に初めて授業を行う。

そうした状況下で授業が始まる。次回以降はオンラインで授業が行われるため,大学生と中学生が教室において対面で話をするのはこれが最初で最後。だから,大学生は今日のミッションに「まず仲良くなること」を挙げていて,そのためのコミュニケーションの時間を割いていた。しかし,大学生と中学生の初めての交流。大学生が緊張していると中学生にそのまま伝わる。なので,担当者によってぎこちないコミュニケーションになったりしている。

『スプラウト』ベテランの4年生(右)と初めての2年生(左)のコンビ

そして,事前学習動画のふりかえりと本プログラムで最も抽象的な概念を取り扱う「アントレプレナーシップ」と「コレクティブ・ジーニアス」の話に移る。これまでも何度もゼミで議論したり,高校生に向けて話をしてきたとしても,授業をする経験に乏しい学生にはちょっとした内容変更が負担になる。用意した内容どおりに授業は進まないし,中学生も難しい話だから顔が少し曇る。重たい空気が流れ始める。それでも授業が始まれば彼・彼女たちも「先生」だ。余程のことがない限りはジッと堪えて話を聞く。

中学生に明確に伝えて欲しいとリクエストした考え方。

実は授業を行う直前になって学生には1つのリクエストをした。それは,昨年までは概念理解に留まっていたが,今年からは起業家の行動理論である「エフェクチュエーション」で議論されている「エフェクチュエーション」と「コーぜーション」を念頭に話して欲しいと伝えている。画像ににあるように,資料によってはエフェクチュエーションを創造的であることと行動することを合わせて"Creaction"とし,因果関係を前提に目的・目標を定めて実行する「コーぜーション」を"Prediction"としている。

簡単に言えば,Predictionは計画設定をしてその通り実現する,最短ルートをいかに辿るかという話で,(そのつもりはなくても)学校にいるとそうした考え方が良しとされてしまう部分がある(テストが最たる例)。しかし,実際の学びは目的・目標も変わる可能性があるし,実際に動き出さないとわからない部分もある。今ある手持ちの知識をアップデートしながら状況判断をして,その場その場で適切な手を打っていき,結果的にゴールに辿り着く。

ビジネスはまさにその連続だし,試行錯誤をどう行えるか,「わからない」という状況にどう向き合うかが大事だ。これを中学生にわかるように伝えて欲しいという話。

もちろん授業も同じだ。より良い説明する方法があるのであれば,それを試し,アップデートしていく。授業もビジネスと同じように,より最適な方法がないかを試行錯誤しながら進めていくものだ。こうして大学生も中学生もともに1つのプログラムを通して学んでいくんだ,そこから新しい何かを見出していくんだという姿勢は失わないということを自分の言葉で伝えることがこのプログラムの大学生での学びであり,そうした彼・彼女たちの姿を見て中学生が学ぶ機会を創りたいのだ。

さて,1コマ目が終わった大学生。特に授業を担当していた学生はゲンナリしていた。恐らく50分の授業をすることがこんなに疲れるものかということを感じたのではないだろうか。声が小さくなる,どう声をかけてよいかわからない,自信を無くすは中学生にそのまま影響する。だから,学生には休み時間中に「君たちが暗い顔をしたら中学生にそのまま影響する。失敗してもいい。中学生を導くのが君たち(大学生)の役割なのだから,『導く』ということだけは忘れないで欲しい」と。

2コマ目:「リスクを取ってチャレンジする」マインドセットを学ぶペーパータワー

2コマ目。授業再開と同時に,1コマ目のまとめと話ができなかった部分についての補足からスタート。そして,いよいよ今日の授業のメインワークセッションである「ペーパータワー」がスタートする。

これまでもこのnoteの中で「ペーパータワー」を紹介してきたので「またか」という感が否めないが,ペーパータワーはさまざまな学びをもたらすことができる教育ツールとして優れていると考えているので,ここでもその手法を使うことにした。

今回のペーパータワーを使った学びの主眼は,①アントレプレナーシップ=一歩踏み出す勇気を持ってチャレンジする,②コレクティブ・ジーニアス=組織的に目的・目標を実現するために個人の持つ能力を活かすという2つの軸を学ぶ機会とするもの。また,私個人としてはそれぞれのグループで誰がリーダーシップを取る生徒なのか,誰がフォロワーとして活動するのかといったことを見極める機会でもあった。

1回目。

写真には残していないが,中学生は皆独創的なペーパータワーを立てる。「折るしかできないよ」という説明に対して,2つ折りにした紙を組み合わせただけのタワーを建てたり,折り紙のように箱を作って組み立てるグループもある。事前に例を見せていないからそうなるのだが,これはこれで面白かった。特に制限をせずに自由にタワーを建てるように促すと,中学生は本当に自由な発想をする。

2回目。

今度はチームごとに作成会議をしてもらい,どのような計上のどれくらいの高さを目指すかをチーム内で決めてから建設に入る。そうすると,チームメンバーの中からリーダー的役割を果たす生徒,丁寧に紙を折る作業に集中する生徒,建設=リスクを取ってチャレンジしようとする生徒が現れる。不思議なものだ。

1回目ほぼ失敗終わったあとの学びでタワー建設はスムーズに。

1組の3グループのうち,1つはこんな感じで定石通りの建て方をして,ある程度の高さまで行った。しかし,終了間際で倒れてしまう。

今回の最高記録。時間制限終了後のチャレンジ。

一方,2組では3チームそれぞれがそれなりの高さのタワーを建設するようになっていて,中には写真のようなA4のコピー用紙短い方(低い方)を使って12段建てようとチャレンジするチームが現れたりもした。結局6チームで最も高いタワーを建設できたのはこのグループ。

3年1組のふりかえりの様子。

本当はこれをふりかえる時間を取りたかったのだが,十分にその意味を検討する時間を取ることができなかった。

3年2組のふりかえりの様子。

ただし,1コマ目とは打って変わって,この授業に関わる誰もが笑顔になっていた。座学で話を聞きながら理解を深めることも必要だし,身体を動かしてアクティブに学ぶことも必要。そして,授業で伝えたかったことが少しでも伝わったのではないかという手応えを得られた時間になった。

3年1組のみんなと集合写真

授業終了後はクラスごとに写真撮影。今回の授業には,苓北町,地元紙が取材に来ており,何枚も何枚も写真を撮っていた。

3年2組のみんなと集合写真

1組はわりとスッと写真撮影ができたが,2組男子はワチャワチャしてなかなか写真撮影ができず。そのワチャワチャしていたクラスの方が最初は授業に苦戦したものの,ペーパータワーで盛り上がるのだから,授業をするというのは本当に予定通り,想定に通りにいかないものだ。

これにて苓北中学校での授業第1回が終了。出店機会である富岡城のお城まつり(10/27)までの3回はオンライン授業になる。

ふりかえりでは私から図を示しながらこのプログラムで考えていることを伝えた。この第1回のメッセージが今後の3回の伏線になっているというような話をした。それぞれの授業では完璧な理解ができてなくても、プログラムが終わった時に繋がりがわかっていればいい。上級生には自明だが,初めて授業する2-3年生にはどう聞こえたのだろうか。

ふりかえりを終えると時計は17時を回っていた。苓北は島の北側と西側で海に面した町。だから,サンセットが美しい。学生にはサンセットを観て帰ってきたらと伝えた。そして,カバー写真の集合写真を撮影して,その場で解散した。

ふりかえり

夏休みだと言うのに合宿、スプラウトと今年も中心期たる3年生は本当によく頑張っている。授業の形としてはできているだけに、資料作りで細かなところの配慮したり、どうすればメッセージが伝わるかだったり、しっかり作り込みができればまだまだレベルが上がるに違いない。だからこそ、1つ1つの取り組みに細心の注意を払う方がいいし、時間をどう使って準備するかを考えた方がいいかもしれない。いわゆる「段取り」をどうするかだ。

もちろん、これには学生それぞれのモチベーションが関係するし、私が学生をうまく動機づけられていない部分もあるだろう。このあたりは学生が考える学生にとって望ましい学生生活と、教員としてどういう力を身につけてもらいたいかの間にある相剋をどう乗り越えるかだろう。ただ、少なからずこうした活動に時間をかけた学生が社会に出ても自立して頑張っているのを見ると一定の意義があると信じたいよな。

そんなことを考えていた苓北から本渡の道すがら。一旦ホテルにチェックインをして、ここからは学生と別行動で会食。

念願の「かし原」!

その会場は念願の「かし原」!

この店を知ったのは、このYouTubeで観たこと。魚のボリューム、新鮮さ、金額を見て、いつも足を運ぶお店と比してもコスパが良さそうということで、行けたら行きたいとリクエストしていた。

刺盛り!

今回は苓北での『スプラウト』実現にお力添えを頂いたお2人、授業を取材してくださった地元紙の記者さん、そして地元紙の支局長と私で長い時間さまざまなお話をすることができた。

近く地元紙にこの取り組みの様子が掲載されるそうですので、熊本の皆さん、観たら記事の写真を送ってください(笑)。

翻って今日、私も学生も天草のフィールドワークに出た。その地域のことを知るには、地域の資源に触れることが大事。私は地元のコワーキング・スペースで管理人と天草の経済、企業経営環境についてヒアリングをしたり、学生はプロジェクトでお世話になっている農家さんの畑を見に行きその生育状況を確認したり、オシャレなカフェに行って何やかんやと話をしたり、それぞれの時間を過ごしていたよう。

そして、私がコワーキング・スペースで話をしていると、嬉しい知らせが入ってきた。まだ確定ではないが、一歩も二歩も進む話になりそうだし、当座の目標にしていたことが達成できるかもしれない。未だに信じられないが、ここまでやってきて良かったと言えるかもしれない。

安定のフライト遅れ(涙)

そして飛行機は1時間遅れでフライト。明日開催される「壱岐エテマルシェ」のために、4名の学生はこのままフェリーで壱岐に向かう。しかし、フライト着が19:40、フェリー出発が20:35とわずか55分しかない。

果たして彼女たちは無事船に乗れるのか。乗れなかったらどうしよう(笑)。が、それを考えても詮無い。アントレプレナーシップはできる資源を有効活用して、目的を実現する姿勢のことだから、なんとかなると期待して私も明日に備えよう。

壱岐エテマルシェの告知

このnoteの読者に壱岐ゆかりの方は少ないかもしれませんが、ぜひ勝本漁港でお会いできると嬉しいです。

というわけで、皆さん本当にありがとうございます!苓北の皆さんとは再来週会いましょう!

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