授業を通じて得られた確かな手応え|2022飯塚高校×とびゼミコラボ授業②
ついに7月。3学期制を取る高校では期末テストが終了し,いよいよ夏休みに向けたソワソワ感ですかね。大学生も来たるべき定期試験を目の前にして,講義が終盤に差し掛かってきました。そんな忙しい中,今週も学生を引き連れて高校に出向いてはアントレプレナーシップを教える授業に取り組んでいます。
今週のスケジュールは,今日(7/4)が飯塚高校,明日(7/5)が壱岐商業高校,そして金曜日(7/8)が福岡女子商業高校(女子商)と3つの授業。特に女子商は今年度初回授業であるとともに7クラス対応のためにバタバタ。さらには,壱岐商業高校との授業では勝本浦での出店準備も同時並行で進めなければなりません。
そうした中で,今日の飯塚高校では総合学科トータルライセンスコースの生徒を対象とした授業が,前回の2年生に引き続き,新たに1年生でも始まります。取り組み初年度ということもあるので,2年生への授業を先行させ,1年生はそのトレースをする計画。ただし,前回は6名の学生とOGが参加し,全員で1クラスを見ていれば良かったのですが,今回はメンバーの入れ替わりもありつつの6名,各クラス3名ずつという配置になったのもあって,学生も不安そう。果たしてどのような授業になるのでしょうか。
前回の授業の模様はこちら。
ということで,今回の授業を見てみましょう。
1年生は初回授業:いつものアントレとコレジニ
というわけで,まずは今回初回となった1年生の授業から。
先生役の学生は2年生から4年生まで各学年1名ずつで構成。本来であれば今回は欠席した4年生と合わせて2人の4年生がクラスリーダーとなるが,今回はゼミ内におけるアントレ教育プロジェクトの全体リーダーになっている3年生が授業を仕切ることに。これまで彼女は壱岐商業高校でも授業を進める立場になっているが,あちらはオンライン授業ということもあり,本格的に教壇に立って授業をする経験がない。しかも,金曜日には女子商での授業を控えていることもあり,自ら授業を行うことを願い出たそうだ。
2年生向けの前回授業では,飯塚高校での初めての授業ということで私が話をしたが,これが逆に緊張感をもたらしてしまったようだった。しかも,そのために高校生と大学生た対話をゆっくりできる時間を設けることができず,その後のグループワークもぎこちないものになってしまった。
その反省を活かして,今回はアイスブレイクをしっかり入れて,暖機運転をしてから授業を進めることにした。アイスブレイクは自己紹介をシつつ,夏休みにやりたいことについて話すというもの。
また,今回は用意周到で,1年生に対して「なぜ大学生が高校生に授業をするのか」を説明するために,コラボ授業の目的についても懇切丁寧に説明していた。
ここでは今年創立60周年を迎える飯塚高校において,その創立の地であり,深い関係がある商店街での出店を行うこと,単なる出店ではなく,トータルライセンスコース(商業コース)としてこれを学びの場にすること,そのために机上で学ぶ学習と,街に出て実際に販売活動を行う実践を通じて学ぶ機会を創るのだと。そして,そうし学びの場を創出することで,高校生にはアントレプレナーシップ(起業家精神)とコレクティブ・ジーニアス(集合天才)を学ぶのだと伝えた。
1コマ目
記念すべき第1回講義のテーマは,毎度おなじみの「アントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアス」という概念を知ること。今回は昨年の女子商で使い始めたケース「桃太郎に学ぶアントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアス」と題して,誰もが知っている昔話に見られるヒーローとそれを支える仲間たちの物語を考察することにした。
この教育プログラムの大きな特徴として,反転学習を取り入れていることが挙げられる。つまり,大学生が授業前に高校生に対して事前課題を課すようにしている。その際,単にレジュメを配布するだけでなく,動画配信(多くの場合はYoutube)を用い,動画を見ながら学習できるようになっている。それもこのコロナ禍で進められたGIGAスクール構想で,生徒が全員タブレット(iPad)を持っていることでできていること。
そこで,今回は欠席している4年生の元気ハツラツとした声の動画と桃太郎の物語から構成されている事前予習動画を見て高校生たちは授業に望んでいる。とは言え,そのままサラッと授業を進めては味気ないので,高校生がそれぞれどんなところをポイントに感じたのかをまとめるためにグループワークを実施。そして,話し合いのあと,各グループからプレゼンを行った。
ひとしきりプレゼンを終えた後は大学生による解説。まずは桃太郎が鬼ヶ島に鬼退治に行こうと思った理由が大事。自分自身の名誉のためだけでなく,困った人を助けようと思って鬼退治に行く決意をする。
そして,おばあさんが作ってくれた吉備団子を持って航海に出かけようとするが,そこでイヌ,サル,キジを仲間に引き入れる。この動物たちが大活躍。お供をした動物はそれぞれが強みを発揮し,鬼退治に成功。
つまり,この物語の中に一歩踏み出す勇気であるアントレプレナーシップと個人が持つそれぞれの能力を用いて組織的に成果を導くコレクティブ・ジーニアスという考え方が反映されているのだと。
ふーむ,なるほど。以前,この例を出したときには「え?桃太郎でしょ?」という感想を持たれてしまったのだけれども,今回は動画を探して有効にそれを用いるようなワークに転用することで,見事に講義目的を達した。
そして,鬼退治を目的とした「チーム桃太郎」をもう少し細かく分析をしていくと,リーダーたる桃太郎とそれを支えるフォロワーとしての動物たちという役割分担が描かれている。そこで,学生からは「組織にはそれぞれ役割がある」として,リーダーシップとフォロワーシップについての説明が。
そして,こうした伏線を回収して,桃太郎と動物たちの関係を改めて整理することに。一見すれば,桃太郎がカリスマ的存在でリーダーシップを発揮し,動物たちはそれにただついていくだけに見えるが,実は動画の中ではそれぞれの特徴を生かして鬼退治に貢献しており,それが自発的にチームの成果実現のために貢献しようという意欲=リーダーシップの発揚なんだという解釈も提示された。
こうしてリーダーだからリーダーシップを発揮するべきだ,リーダーは貧乏くじを引いた人間がやるものだという考え方から,組織目的の実現のために自分のもてる能力を発揮する,その能力の貸し借り(発揚)こそがリーダーシップやフォロワーシップであり,アントレプレナーシップやコレクティブ・ジーニアスというマインドセットの発揮なのだとリーダー像を切り替え、リーダーシップがいかなるものかを理解できるようになっていく(いって欲しい)という講義であった。
2コマ目
続く2コマ目は,前回の2年生向けの授業と同様に大手コンビニチェーン3社の経営比較を「経営理念」という切り口から行うもの。ここでも生徒が1人1台持っているタブレットを使って,一見(高校生から見れば)同じように見えるコンビニが実は異なる思想を持って運営されていることを学ぶ時間。
グループワークの前に経営理念の定義が提示される。「方針」としてしまうとどうなんだろうという部分はあるが,ここでは経営理念=企業活動における方針であり,その存在目的や価値観を表明するものとして説明される。
あとは,それぞれのグループワーク。グループで役割分担をしながら,各社の経営理念や経営上の特徴について整理していく。2コマ目はこうして和気あいあいとしながら授業が終わっていった。
そして,今日の授業のまとめ。今回の授業は本プログラムを貫く「アントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアス」という概念をしっかりと理解することを目的としていたため,そこの説明に丁寧に行いつつ,時間を使っていく。また,組織目的としての経営理念の意義を理解することで,組織に属する個々人の能力最大化だけでなく,組織成員としてのコミットメントを高め(という言葉の使い方はしていないが),組織的に成果を実現するために関わっていくことがポイントになると伝えることに。
こうして1年生の初回授業は無事終了。丁寧に時間を使いながら授業内容を着実に進めていったことで,大学生と生徒の間には信頼感が高まったのではないだろうか。いずれにせよ,(1回目にしては)素晴らしい授業となった。
2年生は2回目の授業:いつもとはちょっと違ったチャレンジを
続いては2年生の授業の様子について。
今回はメンバーの入れ替わりがあったものの,こちらのクラスは4年生3人が担当。これまで各地で活躍してくれた学生をサブリーダー的に置きつつ,昨年度の創業体験プログラムで社長を務めた学生がクラスリーダーとして授業に。その彼が今回は1つ大きなチャレンジをしてくれた。
2回目の授業から損益分岐点分析の話をし,そこから戦略や計画,組織的活動の意義について授業をしたいと言ってきたのだ。
通常,他校の授業では経営理念のあとに戦略であったり,それを遂行する組織,あるいばマネジメント・コントロール・システム(MCS)を話してから損益分岐点分析を話す。これは高校生への配慮もある。つまり,(簿記をやっているのだから数字とは切っても切れないんだけれども)計算や数理的処理を好まない生徒が多くいることで,まずは概念的に理解でき,本人にとっても部活動やクラス活動などに置き換えやすい話を先にしようとしている。でも,企業活動は最終的に貨幣的価値で測定され,それによって成果の分配が行われるのだということを理解するために,損益分岐点分析を教えている。
そこで彼はそれを理解した上で,高校生に戦略を貨幣的価値に落とし込んで抽象的に考えることを今回の授業テーマに据えたわけだ。残念ながら損益分岐点分析の説明は的を得たものではなく,補足説明をせざるを得ない状況になったが,こういうチャレンジをシてくれた結果,高校生はまだ学習していない損益分岐点分析の意味をよく理解したようだった。
よくよく先生から話を聞くと,すでに日商簿記検定3級に高得点で合格している生徒もいるし,クラスの大半が数を用いて説明されることにあまり抵抗感が無いような感じ。日頃の先生方のご指導の成果もあるのだろうが,(ここは会計のゼミらしく)戦略実行のための計画を貨幣的価値で表現する損益分岐点の意義は十分に伝わったのではないか。これが高校生の力量評価につながっているし,今後の授業の参考になる。非常に良い取り組みだった。
続いて2コマ目は損益分岐点分析から戦略構築のシミュレーションに至るもの。まずは基本的な競争戦略論を理解するのに,スターバックスとドトールコーヒーの戦略分析を行うことに。
このスライドにもあるように,ここでは差別化戦略=スターバックス,コストリーダーシップ戦略=ドトールと対置させて理解を促そうとしている。そして,ワークではそうした戦略を裏付ける情報を集めることを求めた。
が,ここで高校生の手が止まる。何を調べてよいのかわからないよう。つまり,スターバックスのことを知りたければそれをそのまま入れる,ドトールのことを知りたければ同じようにするまではできるのだが,それによって得られた情報の取捨選択が十分ではない。また,組み合わせで検索するということも思いつかないようだった。
要するに,自分が知りたい言葉や知識,情報を辞書的に検索するためにデバイスを活用することはできるが,新たな知見や気づきを得るためにデバイスを使いこなすところまでには至らない。中には新聞や雑誌の記事を見つけている生徒もいたが,新しい事実を発見してワクワクするよりも,どれが正解なのか,間違えてはいないのかを確認するような印象も受けた。
その後,続いては学生が用意したシミュレーションゲームを実施。女子商や壱岐商業でも実施されている「模擬店でお店を出すとしたら,(定められた原価と自分で設定した売価をもとに)何をいくらで売るかを考えよう」というもの。
このワークは非常に楽しそうにやっていて,最初は何をすればよいのかよくわからなさそうな高校生も,大学生のフォローを受けて徐々に試行錯誤をする楽しさにハマっていく感じに。同じグループの生徒たちとも話し合いながら,損益分岐点分析と競争戦略論のフレームワーク,競合他社の分析等をして結論を導くことがビジネスを行う醍醐味だと理解してくれたのであれば幸い。
学生によるチャレンジにより,高校生の力量もある程度把握できたし,基礎の理解を深めて定着させながらも,もう少しレベルを上げた授業内容にしても良いのかもしれないという気付き。あとは答えのない問い=自ら問いと解を設定していくという楽しさ,それがビジネスを行うこととつながっていることを理解できたらなお良しなのだろう。まだまだ課題はあるが,前向きな課題が残されたように感じた。
ふりかえり:今回の授業から得られたインプリケーション
こうして2クラスの授業が無事終了。
先生方も複数授業の様子を見学に来られ,生徒のグループワーク中にはサポート頂くなどしてくださった。特に2年生のグループワークでは,高校生だけでは十分に理解できない事例(スタバに入ったことがあるけど,ドトールは知らないなど)もあったため,先生方のお力添えに学生たちは非常に勇気づけられたでしょう。こうした光景は他の高校でも見られるもの。
高校の先生方からすれば少し前まで教え子であった大学生が高校生に立派に授業をしている様子をご覧になって,いろいろと感じることもあるそうです。学生もキャリアを積めば積むほど引き出しも増えるし,高校生の反応を見ながら授業ができるようになる。しかも,教員と生徒というある程度固定化された関係からは気づけない生徒の様子というのも見えてきたりもして,未熟とは言え,教えるべきことをしっかりと教えられる大学生の存在は貴重なものとして受け入れられるようになる。
これまで多くの高校で同じような景色を見てきた。今回も失敗を肝要に受け入れてくださりつつ,新しい取り組みにトライする機会を頂くことで,生徒が楽しく学べる環境をともに創ってくださることに厚く感謝申し上げあげたい。
さて,今日の授業は夏休み前最後。次回は8月末まであいてしまう。
そこで,先生にもご協力を頂いて,学生たちは補講・補修的な課題を作成することにしたようだ。他の学校での授業があり,プロジェクトも忙しいにも関わらず,こうして生徒のためにワークの1つ,2つを作ろうという気概が素晴らしい。それも事前課題にともに取り組んで頂いている先生方,ついてきてくれている生徒のおかげであり,きっと学生からの思いが一方向的に向けられるだけでは成り立たない。こうやって互いが切磋琢磨する共創関係ができあがっていることが喜ばしい。
2022年から高校4校,中学1校で実施しているこのプロジェクト。毎回書いているように学生には大変な負担を強いているが,こうして高校生が成長し,先生方が心を開いてくださることで,学生自身が自発的に取り組むことができる環境ができている。しかも,複数の高校を見ることで,それぞれの高校,生徒の状況を把握しながら授業内容をチューニングできるようになってきた。
飯塚高校に入る大学生は4年生を主力と考えている。その4年生も就職活動でなかなか関わることが難しかったようだが,少し余裕ができてメンバーに加わってくれそうだ。ゼミに入ったばかりの2年生もすでに主力的活躍をしており,貴重な戦力となりつつある。これに学術的興味がついてくるとなお良いが,それは望みすぎかな。でも,ついこの前まで1校でやってた取り組みがここまで広がり,学生の成長の場として機能している。たまらん状況だ。
確かな手応えを感じつつ,福岡への帰路につくのでした。
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