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アントレ教育プログラム『スプラウト』未来への試金石?|2024飯塚高校スプラウト&kAIWare①

飯塚高校での3年目の『スプラウト』が始まりました。

今年も2つのコースを3つのクラスで展開します。まず、探究クラスではChatGPTを使ってビジネスプランを作成するプログラム『kAIware』(カイワレ)を提供します。昨年は複数実施できましたが、今年はここだけ。昨年出た課題をどうブラッシュアップするかがテーマ。

もう1つは、トータルライセンスコースの1-2年生にはアントレプレナーシップ教育プログラム『スプラウト』。これは1年生に他地域でも展開している基礎編、2年生には昨年の授業を踏まえたさらに深い学びを進める応用編となっています。とりわけ、後者は昨年の学びの上に応用的な論点を積み重ねることが目標になっています。

なお、昨年までの調査を通じて面白い事実が明らかになっています。それは学生が解説し、講義と実践を通じてアントレプレナーシップを学ぶ『スプラウト』と、講義とChatGPTを使ってビジネスプランを作るプログラムである『kAIware』とでは、アントレプレナーシップ教育を通じて得た志向性の変化において創造性などの主要な指標で、いずれの講義で高校生の志向性に変化が認められるとともに、2つのプログラムの変化量の平均差があるかを検証したところ、差は見られませんでした。すなわち、どちらも学生が講義し、片方は模擬店出店による実践、もう一方はChatGPTを使い座学中心に学ぶカリキュラムではありますが、その教育効果には大きな差がないという結果になりました。

こうした分析結果を持って今年の授業に取り組む学生たち。果たして今年の授業ではどんな結果になるでしょうか。研究と教育を重層的に作り込んでいるプログラムの運営は大変ですが、こうしていろんなことがわかっていく楽しさがありますね。さて、今年度第1回はどんな授業だったのでしょうか。

過去2年間の飯塚高校での取り組みは下記リンクからお読みください。

午前:探究クラスkAIwareの授業

授業が11時スタートであることから,当日は10:30に集合。これがこの日の混乱を生み出す要因の1つになった。

加えて事前確認を怠った私にも問題があるが,打ち合わせをスタートした時点で初めて当日の受講者数が60人程度になることがわかった。昨年までは1クラスだけの探究授業であったが,今年からは複数クラス合同で実施することになっていたのだという。ここで短い打ち合わせ時間で授業の方針を示し,グループ数と1グループのメンバー数を決めざるを得なかった。

次に教室。音楽室で行うという話だったが,平面ではなく微妙な階段教室になっており,机を動かすにも制限がある。どうグループワークを進めるか。これを今回初めて教室で授業をする学生がハンドリングするには難しいかもしれない。

が,授業がスタート。最初から混乱。

教室の様子。

まず,グループ編成からスタート。昨年のふりかえりを踏まえて控室で出した方針は,①6-7人のグループ②3つの異なるバックグラウンドを持つグループ(部活、クラス、出身地など)③異なる性別を少なくとも2人以上入れるというものだった。これがなかなか進まない。欠席者がいること,正確な受講者数がここで判明したこともあって,グループ分けで100分の授業のうち,30分を使わざるを得なくなってしまった。

が,授業を担当する学生は落ち着いている。短い時間で限られたメッセージを伝えるために授業内容を再編成。こうして授業が始まった。

グループワークの結果を高校生から報告。

続いて授業がスタート。

この授業の意義、事前学習動画の内容をふりかえって,これまでの生活で発揮したアントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアスについてのグループワークを実施。サッカー部や吹奏楽部など,団体で何かを行う経験を持っている生徒が割と多いので,このテーマのディスカッションは高校生たちも大学生のサポートを得ながら進めることができたようだ。

そして、今回のプログラムで高校生がお付き合いすることになるChatGPTを実際に使ってみることに。高校生の中にも数人だけChatGPTを使ったことがある生徒がいたが、ほとんどが初めて。昨年との違いは、今年からChatGPTのアップデートで音声入力ができるようになったこと。そこで共同研究者と話をして、高校生9チームのうち4つを音声入力、5チームをキーボード入力で質問することにした。

同じ質問をするにしても、音声とキーボードとでは思考回路が違うんじゃないかとは直感的に感じている。キーボードは文面を作る、作文をするイメージ。一方で、音声入力は普段娘氏が遊んでいることから推察するに、ChatGPTと対話をするイメージ。もしこれで発話内容や質問のプロセスが異なり、アウトプットも異なるような結果が出るとそれはそれで面白いんちゃうかと勝手に考えている。

さて、それは置いておいて、当の高校生はドギマギしながらChatGPTに質問していた。まず、ChatGPTから話しかけられるという経験だったり、音声だったり、会話がうまく進まないことに笑い出してしまう。

さらに設定した問いに関連する質問をなんとか絞り出すが、答えが出てくると思考停止になってしまう。質問が次から次には出てこない。1つ質問し、それっぽい回答を聞いたら、それに納得してしまう。それへの対応として授業に同席された担任の先生には対話の中で「次回の授業も同じようなことをするので、答えを教えるのではなく、その出された回答に対して次の問いを考えられるよいに導いてくださると助かるかもです」なんて話をした。

高校生は割と楽しそうに聞いたり、質問を入力していたが、果たして1ヶ月半後はどんな質問が出るかが楽しみ。

午後:スプラウトの授業

昼食後、午後の授業はトータルライセンスコースを対象に模擬店出店を目標にした通常の『スプラウト』を実施。ただし、1年生と2年生では若干カリキュラムやスケジュールの構成が異なる。

以下,学年ごとの授業の様子を見ていこう。

1年生の授業

1年生の「スプラウト基礎」は、①アントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアス、②戦略、③組織と個人、④会計、⑤出店、⑥ふりかえりという通常の「スプラウト」のカリキュラムで実施。学園祭のスケジュールによっては④と⑤を入れ替えて実施する可能性もある。

1年生は「アントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアス」の定番授業。今回は一番抽象的で概念が捉えづらい内容だ。だが、いずれのスプラウトでも学生には強調しているように、この第1回は学生が授業することに慣れていないのに、最も抽象的で難しい。イントロダクションが面白くないと、高校生はついてこなくなってしまう。

1年生の授業の様子。

そうした話を聞いていたのか、今回授業を担当する学生はさまざまな工夫を凝らしていた。例えば、事前動画ではこの概念を桃太郎を用いて説明しているが、学生はアンパンマンだったり、ハイキューだったりを例に出しながら説明していた。そうか、愛と勇気を学びアンパンマンはアントレプレナーシップを学ぶアニメでもあったのか。

今年から総合学科複数コースでクラスが作られ、2つのクラスからトータルライセンスコースに所属する34人が受講。

そのような話をしつつ、アントレプレナーシップ=「一日踏み出す勇気」が事業を創り、私たちの生活を豊かにしてきたのかを説明する。また、個人がアントレプレナーシップを発揮して、組織的に成果を実現するコレクティブ・ジーニアスという考え方が何かを実現する時に重要な考え方になるとも説明した。

こうした抽象的な話を全員が全員理解できるわけではない。高校生にジブンゴトとして考えてもらう工夫として彼・彼女たちの経験に準えて部活動や学校生活で例えてもらおうとするが、そうした経験が乏しい生徒もいるのも事実。

2クラスがこの授業で集まり、なんで集まっているかよくわからず、いきなり大学生の授業を受ける。次回以降はしっかり手を打って多くの生徒さんの興味を持ってもらえるような工夫をどうするか。学生が何を見て、どう感じて、適切な手を打てるかに期待。

2年生の授業

2年生は昨年学習した内容をベースに応用編として新たな論点を投入。1年生のカリキュラムをベースに応用的論点を抽出。(1)1年生の①②③をベースにマネジメント・コントロール・システム(MCS)、(2)②④をベースに損益分岐点分析、(3)③をベースに心理的安全性、(4)(5)で出店をしながらふりかえりを進めるというスケジュール。2年生の応用編のカリキュラムの方が授業内容と実践回数という点で負担が大きいように思われる。果たしてどんな形で進むか。

MCSについて解説する学生

この「応用編」と銘打ったプログラムは昨年も実施しようとしたが、高校生のレベル感を推し量った結果,内容を大きく変更することにした。ただ、今年は昨年度の1年生,すなわち基礎編のプログラムで学習し,企画商品で大きく売上を上げた実績が認められたので,改めてカリキュラムを整備し直すことにした。

つまり,出店までに昨年学んだ内容の復習をメインとしつつ、新たな論点を追加するという構成に。今回は企業の目的、組織の3要素、理念→戦略→計画の一連のプロセスに加えて、設定した目標を確実に遂行する仕組みとしてのマネジメント・コントロール・システム(MCS)について解説することに。ちょっと背伸びしたテーマではあるが,これはむしろ大学生がしっかりと理解しているかを試すリトマス試験紙のようなものかもしれない。

まったり午後の時間が過ぎていく感じ。

グループワークでは,戦略の相違点を理解できているかを確認する新しい設定を導入。戦略,価格,ターゲットの設定に加え,その戦略を実現するためにどのような具体的な打ち手を選択するかまでディスカッションに含まれていた。

こちらがグループワークの内容。

ここにあるように,このハンバーガーチェーン点はセット販売をせず,1つ1つを個別に購入することで1,400円の客単価を実現する差別化戦略である。これに対していかなる戦略を実現するか,これを高校生に話し合ってもらった。

中には「Instagramなどで映えを強調する」という女子生徒の意見があり,それに対して具体的な方法はと尋ねると「パンをピンクにする!」という可愛らしいコメントも。さらには,ある男子生徒は「マニュアルを整備して,大量生産ができる仕組みを導入し,安く多くの人に販売する」戦略をスラスラと述べていた。私から「それってどこがやってるの?」と聞くと,「マクドナルト」と即答するので,授業の内容を理解しているんだなとよくわかった。

ただ,これだと既存のビジネスモデルがあるわけで,もう少し違う角度から考えられるように学生が促してあげられるともっと良かったわけで。ま,高校生がよくわかっていたのこう答えた可能性も否定できない。

そして,こうした戦略をもとに計画を策定するまでが昨年の内容だったのに対し,今年度はMCSについて学習し,戦略を実行するための仕組みづくりについて議論をした。ゼミでは毎年春休みにMCSの基本図書として以下の本を読むように指示している。内容は古いが,ポイントをつかみやすいし,大学生でもエッセンスは理解できるものと捉えているからだ。

授業する学生に対して言えば,内容はしっかりと説明できているのだが,あと一歩何かが足りない。行動,結果,環境という3つのコントロール要素のことを話されただけではイメージが湧かない。これをなんとなく理解してもらえるように促しつつ,高校生がマルシェで成果実現のためにチームを組織的にマネジメントできるのか。

授業内容が難しいとは言え,伝えることを伝えつつ,それを使って行動ができるように導くのが大学生の役割なのだが,これもスプラウトの授業を進めていくことでようやく理解できることでもある。そういう意味では2年生の授業の方が大学で学んでいること,自分たちが日頃聞いている話から想像がしやすいはずだが,ここで授業を聞いている高校生のようにわかった気になって聞き流してしまっている可能性がある。大学生自身がもしかしたら授業をそう聞いているかもしれない。

改めてだが,大学生は高校生の鏡であり,高校生は大学生の鏡になっているというところにこの仕掛けがあるのがポイント。果たして,大学生は高校生にどうマネジメントを教えることができるのでしょうか。

ふりかえり

授業後は全員でふりかえり。2024年度に入って初めて授業をした学生もいたが、総体的に落ち着いて話をしていたように見えた。しかし、授業の組み立て、パーツの理解が不十分であったり、ワークが思うように進まないなど不測の事態が起きるとあたふたしてしまうシーンも見られた。それは当たり前。

この第1回授業はこれから始まるプログラム全体のイントロダクションであり、このあと続くストーリーの下敷きになる大事な回である。しかし実際には,学生は授業に慣れておらず、構成も十分ではないという戦力的な難しさが常につきまとう。学生はそれぞれよく頑張っているが、1回1回の講義内容はもちろん,ゼミでここまで学んできたこと,実践,そして課題図書の内容が理解でき,自分たちなりにそれを表現できることで初めて『理解した』と言えるかもしれない。理解をもっと深めて学生同士で話す機会が増えれば、きっともっと授業は良くなるだろう。

飯塚高校の先生方からもポジティブな評価を頂くことができ、年々レベルアップしてますねというお言葉を頂くことができたのは良し。こレまでの先輩たちの貢献とそれをブラッシュアップしようという学生の意志が感じられたということでしょう。

次回は10月末。9月-10月は祝日は多い影響でしばらく授業はなし。理解を深める工夫が必要になる気がしているが、果たしてどうするか。明日の壱岐での授業を進めながら、ちょっと考えてみたい。

さて,表題の『試金石』。今年度,1つの学校で複数のプログラムが走るのは飯塚高校だけ。しかも3つのクラスでそれぞれ全く異なる講義を行うのだから,学生の負担も大きい。応用は昨年できなかったカリキュラムの改変を進めているので,事前動画から作り直しを指示している。加えて,この数年でスプラウトは各地に拡大し,時間もさることながら,物理的な移動等でも負担がある。これを乗り越える仕組みや連携先をどう作り上げていくか。もしかしたら,『スプラウト』そのものが次のフェーズに進むことを考えなければならないのかもしれない。飯塚高校はその試金石になるかもしれない。

みんなお疲れさまでした!

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