アントレプレナーシップ教育の効用と弊害?|2024スプラウト&kAIware飯塚高校③
※ 記事の更新が遅れてしまいました。下書きから編集したものをそのまま公開します。
11月も後半。ようやく季節らしい気候になってきましたが,この寒暖差に体調がおかしくなりそうですよね。福岡ではインフルエンザが猛威をふるい始めているようで,大学で不特定多数の人と交わることはもちろん,中学校・高校に入る立場でもあるので体調管理は重要。今年の冬も何事もないように,無事乗り切りたいところ。
さて,高大連携アントレ教育プログラム『スプラウト』は2024年度に入り他地域展開が一気に広がり,10プログラム13地域の中高生の皆さんと活動を進めてきました。すでにいくつかのプログラムは終了,あるいは出店,ふりかえりを残すのみというところも出てきています。10月や11月は学校行事シーズンということもあり,大忙し。
今回は11月23日(土)に「街なか学園祭」を開催する飯塚高校での授業の様子をお伝えします。「街なか学園祭」は2022年から同校60周年を記念して始まった取り組みで,飯塚高校を設立した嶋田家が元々商店街内の商家だったこともあり,地域貢献の一環として始められたものです。今年で3回目を迎えますが,年々規模や関わる人が多くなっています。
飯塚高校では『スプラウト』の他に,昨年からプログラム化した『kAIware』の展開をも行っています。『kAIware』は生成型AIを活用してビジネスプランを作るという授業。生成型AIを壁打ち相手として使いながら,課題発見,事業機会の探索,課題解決のためのビジネスプランの構築を行う授業。まだプログラムとしては不十分だし,学生も勉強しながら授業を進めるので精度を上げるのは難しいところですが,よりよい授業をしようと準備に取り組んでいます。
今回は飯塚高校での授業の様子とそこで少し話をしたことを共有しつつ,アントレ教育の効用と弊害といったものを考えてみましょう。
これまでの飯塚高校での授業の様子はこちらのマガジンをご参照ください。
それぞれの授業の様子をざっと紹介
第3回の授業の様子を写真とともにざっと紹介しましょう。
kAIware:価値提案(Value Proposition)を定める
今回のkAIwareの授業は前回までに作成した課題設定,ペルソナをもとに価値提案を定めるという内容。高校生からすれば初めて聞く言葉ばかりで戸惑うだろうが,これを彼らに近い年の近い考え方を持っている大学生が授業をする,大学生も一緒に考えながら「あなただけが知っている真実」を突き詰めようということがこの講義の狙い。
が、これが簡単ではない。「なんかモヤモヤしているけどこんなイメージ」を言葉にしてペルソナのような具体的な人物像の設定には進める。なぜなら、それは抽象から具体への展開であり、そこには(ボキャブラリーが不十分であっても)言葉を与えることさえできればワークは前に進むからだ。しかし、その逆は難しい。自分が表現しようとしている事象を抽象的に何と表現するかというトレーニングが必ずしも十分ではないからだ。
それを少しでも進みやすいようにと図案化できるバリュープロポジションキャンバス(VPC)を作成しようと試みるが、これもなかなか難しい。どういう製品・サービスにするか、その調子と短所はなにか、顧客が何を求めているのかを結びつけていくのは大人でも難しいし、実際社会人でも難しい。それを高校1年生ならなおさら。
そこでChatGPTの登場なのだが、ここにリテラシーの壁が立ちはだかる。何を問えば良いかは学生が授業中に伝えているが、今度はその情報をどう読み取り、整理するかが難しく感じられる。サポートしている大学生も自分のアイデアであればコメントしようがあるが、この授業はある種ChatGPTに振り回されながら高校生も大学生もその文面を構造化していかねばならない。知らないテクノロジーだから使えない、使わないではなく、いかにして生成型AIをうまく活用して課題を解決していくか。
担当の学生がその時々の授業の様子を見ながら授業内容を更新したり,説明の仕方を変えてみたりはしているが,このワークはもう少し設計を検討しなければいけないのかもしれない。課題。
スプラウト応用:学園祭の経営計画と組織学習・チーミング
トータルライセンスコース2年生を対象にしたスプラウト応用。こちらは昨年の経験をベースに今年は3店舗で出店する。週末のまちなか学園祭だけでなく、12/21-22は「飯福商店商い場」という販売実習を飯塚市内中心部本町商店街で行う。なので、今回の学園祭で課題を見つけ、(市場の性質が異なる)商い場でそれをさらにブラッシュアップすることを狙いにしている。
そこで今回の授業テーマは「チーミング」。あの「心理的安全性」というフレーズでよく知られた理論だ。販売実習は自分1人だけの力ではできない。周りの人と組織的な活動を行うことで課題解決を図る。自分はこの役割だからと役割を固定的に考えるのではなく、役割を起点に組織目標を実現するために自分の持つ能力をいかに発揮できるか。チーミングが状況適応型の謙虚さ、好奇心、そしてそれによって生まれる心理的安全性から構成されるように、たとえ高校内の販売実習でもそういう考え方を身につけて行動できるようにしようというお話。
しかし、学生がそこまで理解して授業に臨めたかが疑問な内容に。この内容についてはあらかじめ課題図書で学んでいたはずなのだが、そのことを忘れていたのか、関連付けができていないのか、授業担当者も周りの学生もすっぽりと内容が抜け落ちている。私の注意喚起も不十分だったのだろうが、こういうところのアンテナの感度がまだまだ=わからないことを放っておくのではなく、自分から学び取る姿勢があるとなお良いのになと。あと一歩。
授業後半は出店準備のミーティング。トータルライセンスコース2年生は計画策定の重要性、それを遂行する具体的計画の策定までをテーマにしているので、単に金勘定だけでなく、当日の動き方、狙いまで含めて細かく設計していく。昨年が大成功に終わっただけにその余力をもって今年も良い営業ができるか。単に売り切るだけでない、経営のあり方というものを実践できると良いのかもしれない。きっとできる。
スプラウト基礎:会計の基礎的知識と学園祭の経営計画
続いて,トータルライセンスコース1年生の授業。以前も書いたように思うが,トータルライセンスコースとは同校の総合学科のコース。同校には総合学科の中に自動車エンジニア,製菓,スポーツとトータルライセンス(商業系)と4つのコースがあり,今年度はクラス編成の関係でトータルライセンスコースが2クラスに分けられているとのこと。よって,この授業でしか一緒にならないし,模擬店出店も他のコースに所属する本講義を履修していない生徒と共同で行うことになっている。
それもあって授業を実施する大学生も苦労しているようだ。こちらから話しかけても反応がない。反応をもらえるように声掛けを変えてみても無反応。だんだん心が折れてくる。生徒間のコミュニケーションもどうなっているのかが見えて来ず,大学生が一歩引いてしまう。特に責任を持っている授業担当者の学生が他責的な発言をするようになっては厳しい。
(これは私自身の反省でもあるが)自分が正しいという前提で話をしているとなかなか前に進まない。問いかけをしても反応がないのは相手の事情による。こちらだけが問題ではない。もちろん年長者であり,立場上授業をリードする大学生からどう歩み寄れるかもあるが,日常的にクラスでどのように過ごしているのかも反映される。だから,できることを粛々と。自分たちの心の持ちようが変われば相手も変わる可能性があるし,クラス内のコンテクストが理由で反応をしたくてもしない生徒がいるのかもしれない。
さて,模擬店出店の打ち合わせの結果は。今年度,模擬店運営の方法が若干変わったこともあり,1年生が関わる2店舗のうち,1店舗は自主的に商材を決定。これはおばけ屋敷で価格設定を自分たちで行った。200円はちょっと安すぎるのではないか。一方,もう1つの店舗は唐揚げ店とのコラボレーション出店で,高校生に価格決定権がない。単に販売する実習になってしまう。が,それでも自分たちがどのような思いで出店するか,自分たちに何ができるかを言葉にしておくために経営理念を設定。「忘れない味で大切な人たちと小さな思い出を」とはなかなか良い文章。
ふりかえり
こうして終わった3種類の授業。ここでは午後の「スプラウト」に関する授業のふりかえりを実施した。
いつも書いているように,大学生が高校生に対して授業をするという無茶苦茶な取り組みをしているが,その中で授業を企画し,実際に話をしてファシリテーションをするというのは本当に難しい。少しでも準備時間を少なくしようと型となる授業形式は過去5年間の蓄積で積み上げてきたが,それでもその資料で話すにしても準備は必要。どんな仕事でもその準備を怠れば,出てくる結果は目に見えている。前回までと異なり,今回特にスプラウトの2つの授業は「模擬店への出店準備,打ち合わせだからなんとかなるだろう」と油断してはいなかったか。慣れから出てくる軽さのようなものを感じることがあった。
幸い高校側は私たちの取り組みを暖かく見守ってくださっていて,無理なオーダーを出したとしてもなんとか検討しようと前向きでいてくださる。生徒に対してもチョッカイを出すわけでも,注意するわけでもなく,大学生に任せて頂けているように感じている。こちら側としても「大学生の学びの場」としてプログラムを実施しているが,大切な授業(といっても探究学習の時間)の時間を頂いているのだから,少なくともそこで何をミッションとして掲げ,何をやるのか,それに対して自分がどこまで向き合えたかをふりかえることをしましょうという話をさせてもらった。
まとめ:なぜ学校が社会との関わりを持つことが必要なのか?
こうして終わった飯塚高校での第3回授業。私自身もそうだが,慣れと疲れと諸々で今回はどうもしっくり来た感じがしなかった。大変申し訳なく思う。
そんな中で,今回は2人のOBが手伝ってくれた。
飯塚高校での「スプラウト」は月曜日に実施していることもあり,学生が授業等で参加できない確率が高い。そこで,過去2年間は4年生の協力を得てプログラムを実施してきた。彼らは飯塚高校での1年目にトータルライセンスコース向けの授業を担当し,今の活動の基礎を作ってくれた。
そもそもこの活動は2022年の冬に当時のゼミ生が九州ドラフト会議に飯塚市に指名されたことから始まり,その後飯塚高校との御縁を頂いて始まった。当時はまだ半信半疑だったであろうが,学園幹部と担当の先生とのコミュニケーションを通じて次第にアントレプレナーシップ教育を行うことの意味をご理解頂けているだろうと考えている。ちょうどこの日の授業も学園幹部とアントレプレナーシップ教育を行うことで得られた生徒の行動変容についてお話をした。
一方で,日頃同じような環境にいればなかなか変化しないものもある。「街なか学園祭」を実施する意義をいくら伝えても,現場レベルでの行動様式は変わらない。が,やることはやるので進めなければならない。実際,わたしたちが授業を実施している周りの教室では学園祭に向けた話し合いをしていると言えるのかわからないような状況もあったりして,学校全体が同じようにこのイベントを前向きに捉えているわけではないということが手に取るようにわかる。
こういうことを書くと「お前の立場で何を言ってるんだ」というご意見もあるだろうが,アントレプレナーシップ教育を行う,しかも学生を招いて行うことになれば,自然と受講している生徒,先生たちのモチベーションも変わってくるということ。学校内に温度差が出ることをいかに捉えるか,一生懸命学び,実践に取り組もうとしている生徒に対して何を提供できるか。本当は意欲があるのに環境が原因で取り組めないとか,指導する教員がそういう空気を作り出しているのではないかとか,いろんなことを考える。
もちろんわたしたちだけでそれを変えるなんて大きな事は考えていないが,学校をある方向に導きたいという強い意志を持つ経営陣となかなかそれを進められない現場との間に大きな葛藤があるのだなということを感じた。
が,経営陣からは社会に学校を開く,社会との関わりの中で学校を知ってもらう。そこに状況をより良い方向に導きたいという意志を強く感じる。わたしたちの活動がそのサポートをできるのだとしたら,それはそれで本望でもある。