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目的と手段を繋げていかに形にするか|2022上智福岡高校×とびゼミコラボ授業①

「また新しい高校に入ってるんかい!」

そんなツッコミが入りそうですが、9月から新たな高校に伺うことになりました。上智福岡高校です。

7月に友人から福岡県のこの仕事代わってくれないかと打診があり、審査員として関わったことがことの始まり。

福岡県が今年度から始めた高校生のプロジェクト支援で、県内の高校で行われる3つのプロジェクトに資金援助をするというもの。審査には10校ほどが参加し、喧々諤々の議論の末、3つのプロジェクトが選ばれました。

それでおしまいと思っていたら、県側からアドバイザーとして入って頂きたいという打診を頂戴し、希望のあった2校に大学生とともに携わっています。そのうちの1校がすでにここでも紹介している博多工業高校であり、もう1校が上智福岡高校。

上智福岡のプロジェクトは、ロスフラワーを減らす、そういうものがあるということを知ってもらうための「フラワーアレンジメントイベントの開催」。近隣の花卉業者から花を仕入れ、市内でも集客力があるスペースを借りてイベントを開催するというもの。プレゼンでは家賃、体験料、花の仕入れについて説明があったけれども、どこまで実現可能性があるのか。高校生の真意はどこにあるのか,どうすれば良いのかをともに考えていくプロジェクトになりました。

他の高校とは異なり,上智福岡では高校生の話を聞き,コンサルテーションのようなことをしながら進めています。毎回1時間ほどのミーティングを繰り返していく中で課題を抽出し,次回までに解決するという方法。今回は9月から10月の文化祭までの取り組みの様子をまとめてご紹介します。。

1回目(9月22日):フラワーアレンジメントイベント開催の意図は?

緊張しながらの高校訪問。この日は2人の学生が同行してくれた。高大連携プロジェクトのリーダー2人で、今やプロジェクトを進める上でのノウハウを持った信頼できるメンバー。それに今回のプロジェクトを主催している福岡県庁の担当者お2人,上智福岡高校からは今回のプロジェクト「フルーレット」のメンバー5人と担当されている先生が参加。自己紹介はそこそこに、プロジェクトの概要について尋ねた。

先に述べたように,プレゼンテーションではロスフラワーの削減をテーマにしたいということだったが,その裏側にある目的は何かと尋ねた。会社経営で言えば,経営理念あるいはミッション・ビジョンとも言うべきか。すると高校生からは「花を大切にして欲しいことはもちろんだが,使えるものを使わないまま捨てられてしまうことはもったいないし,もっとモノを大切にするってことを考えて欲しい」というメッセージが出てきた。そう,彼・彼女たちはこのプロジェクトの目的を単に花を使った何かをするということだけでなく,目的が明確に設定されていた。

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プロジェクト「フルーレット」の生徒さんと先生,県庁職員の皆さんと

そのためにはできるだけ多くの人が集まる場所で,彼・彼女たちの活動を知ってもらう必要がある。そこで,プレゼンテーションでは高校からほど近く,近年マンションや商業施設,公共施設ができて人が集まる場所になりつつある地域にフォーカスしてイベントを開催するという提案をしていた。しかし,スペース利用料は1時間で数万円,1組あたり500円で実施し,花の仕入れはJAから仕入れることを検討したいというざっくりとしたものだった。

そのような感じだったので,担当されている先生も「このプロジェクトは通るはずがない」と思われていたよう。が,生徒主導で動いてプレゼンしてみたら合格。見事県から支援金を得て活動することになったのだそうだ。

また,イベント開催の場所も12月で,なるべく利用料が安いところを探すべきだという審査員の意見を受けて代替案が提示されていたが,イベントが外で行われる(だから手がかじかんでアレンジメントできるのか?),そもそも花の輸送と保管を考えたら実現可能なのかどうかをよく検証できていなかったようなので,そのあたりの検証をよく考えてみましょうという話に。

すでに10月中旬に実施される文化祭でもフラワーアレンジメントイベントの開催は決めていたというので,そこで課題を検証し,できそうなこととできなさそうなことを峻別していきましょうと提案。また,そこで来場してくる保護者の皆さんの反応を見て,出店時期,場所,金額を決めようということになった。

こうして高校生の発案による「ロスフラワーを使ったフラワーアレンジメントイベントの開催」というプロジェクトはスタートした。

2回目(9月29日):持続可能な事業にするための基本的な考え方

前回の課題を踏まえて,今回はロスフラワーの実態と花卉業者からの仕入可能性,そして事業を持続可能にするための考え方として損益分岐点分析をレクチャーすることにした。

まず,ロスフラワーの実態について高校生はJAに問い合わせをし,その結果を報告してくれた。すると,「ロスフラワーというものは厳密に言えば存在しない」という回答。その理由は聞いたのかと尋ねると,「確かに新型コロナウィルスで花の需要は減ったけれども,今はその需要を見込んで生産量を調整している。もしロスフラワーが生じるのだとしたら,生産業者に近いところよりも市場かもしれないですね」という話だった。

そりゃ確かにそうだ。生産者からすれば需要量を見込んで生産量を決めるはずだし,ピークがどのあたりに来るかを最終消費者(あるいは花の販売業者)と調整して出荷量を調整しているはずだ。高校生たちも新聞記事を読んでこのプロジェクトをやろうと決めたそうだが,当初その話を聞いたときには相当がっかりしていたようだ。

それでも彼・彼女たちは諦めない。私からも「そもそもなんでこのプロジェクトをやろうとしたの?それをよく思い出してみよう」と問いかけると,「モノを大切にする心を伝えたい」という理念に立ち返り,次に何ができるかを考えようということに。

次に,文化祭で出店するにあたり,具体的にどのような形でイベントを実施していくのか,そのイメージを膨らませるために花を買ってきてプロトタイプの作成をしたものを見せてくれた。

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フラワーアレンジメントのプロトタイプ

画像はそのプロトタイプだが,これは作ってから3日ほど経過したもの。たっぷり水を含ませたスポンジを使ってできるだけ花を長持ちさせるように。制作時間は30分程度。ここでいくつかの課題が見えてきた。

まずは,初めてアレンジをする人がどれくらいの時間でできるのか。サイクルタイムの問題。次に,花の種類,色目が重要。ロスフラワーとなるとその時点でどの花がロスになるかがわからないから,自分たちで花の種類や色をコントロールできない。最後に,このイベントにお金を払ってくれる人がどれだけいるのか,果たしてそれはいくらか。値決めの問題。

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損益分岐点分析を教える

そこで,会計が大事なんだよということを理解してもらうために損益分岐点分析と価格設定の話をすることにした。大学生や他の高校でのプログラムでも話すようなありきたりな話。

ただ,ここは普通科高校。「変動費,固定費,売上はこういう関係でグラフに表せるよね」とか,「売上と変動費を販売個数で割って,移項して,カッコで括ると…」と話すと,高校生たちは「うわー数学だ」と頭を抱えている。

利益をたくさん稼ぎたいわけではないけれども,スペースの利用料(固定費)を,フラワーアレンジメントの参加料(単位あたりの売上)と花の仕入やその他資材の費用(単位あたりの費用)の差額,すなわち限界利益で固定費を回収しないといけないということには気づけたようだ。そして,だから利用料数万円の場所を借りるのが無茶だと誰もが指摘していたことの意味がようやく理解できたようだ。と同時に,販売個数=体験できる人数を何人に設定できるかが重要なポイントだということにも気づいたようだった。フラワーアレンジメントを楽しんでもらいたいけど,長時間いられると回転数が落ちる。それは費用の回収もできないことになってしまうから,どの程度の花の数量でどのくらいの時間をかけて体験をしてもらうのが良いのかを考えるという課題が次に出てきた。

後で先生はニヤニヤしながらこの様子を眺めておられる。実は担当の先生は数学科なのだそう。「ほら,数学って実際に使うでしょ?」と言いながら,笑いが絶えない時間に。

この話をする前から,高校生たちはすでに近くで開催されるイベントの様子を見に行くことを決めていた。そこで,私からは最後に「どんなオペレーションになっているのか,価格はどう設定されているのか,どんな人が来るのかをよく見てくるようにね」と伝えて第2回のミーティングは終了した。

3回目(10月11日):文化祭当日のオペレーションをどう組む?

いよいよ文化祭直前。第3回のミーティングは文化祭当日のオペレーションと仕入数量,イベント視察の結果わかったことの共有からスタートした。

まず,花の仕入については当初予定していた業者からは仕入れることができず,プロトタイプ作成の際に現地に訪問してインタビューをしていたJA八女からの仕入ができることになった。八女周辺の筑後地域は,取扱量は大きくないものの全国的には電照菊の産地として知られている。また,ガーベラなども生産しており,時期的にも花の供給には大きな問題が生じないという話だった。八女在住のプロジェクトメンバーの交渉もあり,花は八女からご提供頂くことになった。

次に,近くで週末に行われていたフラワーアレンジメントイベントの状況報告。単価3,000円で親子連れ,花だけでなく生ける花器にも一定のこだわり。5組限定で見に行ったときには4組が行っていて,本来は子ども限定だったところを経験させてもらうことができたとのこと。自分たちから見たら3,000円は高すぎると思っていたけれども,実際に経験してみたらその金額が適正だとわかったという。と同時に,自分たちの企画はいくらなんだろうかと考えるキッカケにもなったようだ。文化祭では無料体験にしてはいるが、どこまで市場性があるのか。検証課題がどんどん出てくる。

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当日使用する教室の下見

そして,最後は当日のオペレーション。ここで高校生にとって衝撃の事実が明らかになる。この日に花が一旦送られてきたということ。その量を見た先生は「まずい」「多すぎる」「本当にさばけるのだろうか」と思ったのだそう。さすがに学校に置いておけないので後日再配送を依頼したそうだが,当日のオペレーションが重要そうだということにはすぐに気づいた模様。

1回あたり何人で,何分間で行って,花はどこまで剪定しておいて,イベントの趣旨はどこでどう伝えて,いくらであればこのイベントに参加してもらえるかというアンケートもやる。しかも文化祭は午前中の3時間。1回あたり30分のローテーションで20組分作るとすると,120組が最大の生産可能量。しかし,自分たちでやったときには30分以上かかってしまったという現実。これをどうやってできるようにするのか。

そこで学生にも見せるVTRを高校生にも見せて、ムダが生じるポイント、タイムマネジメントの重要性、どこにボトルネックができそうかの検証など、当日までやらなければならないことを指摘した。

今回はここまでで終了。あとは文化祭当日の動きをよく観察して,何ができて,何ができなかったのかを抽出しておいてねと言い残して,学校をあとにした。

文化祭当日(10月15日):2時間の営業時間で120組が来場!

そうして迎えた文化祭当日。私はあいにく娘氏の保育園の運動会のため,高校にお伺いすることはできなかった。そこで,今回の授業をサポートしてくれている学生2名が代わりに様子を見に行ってくれた。

学生たちも文化祭だから1日あるだろうと思って昼頃に行ったそうだが,そのタイミングではもう最終盤。なんとか教室の様子を見に校舎内に入ったのだそう。すると,そこはもう「あとの祭り」。120組用意した花はあっという間になくなり,2時間足らずでイベントが終了したという。

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当日の現場はこんな感じに

黒板には今回のイベントの趣旨,協力団体,そしてご提供いただいた花の花言葉を書くという工夫。容器や剪定バサミもホームセンターに行って購入し,同校の中高生はもちろん,保護者や関係者の皆さんもフラワーアレンジメントを楽しんでくださったよう。花も当初聞いていた種類よりも多く,見るからに華やかなイベントに。

JA八女のご協力を得て色とりどりの花を使ったイベントができました

ただ,その裏側では主力メンバーの高校2年生だけでなく,高校1年生や中学3年生もサポートに入って花の準備にてんわやんわの大騒ぎ。こうやって写真を見せてしまうと良くないのかもしれないが,表では華やかなイベントも裏では必死に作業をする人たちに支えられているのだということを学べたのも良かったのではないでしょうか。

その裏側は戦場(笑)

こうしてプロジェクト「フルーレット」のメンバーを中心に企画,開発,シミュレーション,当日の運営という一連のプロセスを経験し,自分たちの頭の中にあったものを形にするという経験ができた。当然ポジティブなことばかりでなく,課題もたくさん出たであろう。これを受けて彼・彼女たちが次の機会に向けてどのような判断を下すのだろうか。次は10/24に打ち合わせ。

今後の展開はどうする?

ということで,上智福岡高校での高大連携プログラムはアントレプレナーシップ云々を教えるというよりも,プロジェクトを進めながら逐次出てくる課題を解決していくという方法を採っている。

ただし,プロジェクト・マネジメントを教えていくということで言えば,他の高校よりも極めて実践的に伴走しながらプロジェクトが進むようにしていることが少し異なるところか。高校生発案の自発的なプロジェクトということもあり,こちらが提示した課題に対しても前向きに取り組んでいるように見える。

今後の展開としては,当初彼・彼女たちが描いていたようなイベントやオープンスペースでの出店を目指すか,あるいは某高校でのイベントに出店するか,そのあたりは今回のふりかえり次第ですかね。また折を見てご紹介しましょう。

ほんと高校生ってちょっとした機会で成長できる可能性を秘めているなぁと思うわけです。

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