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『エミリー、パリへ行く』馬鹿アメリカ人と傲慢フランス人

 バズってツッコまれまくってアメリカのNetflixでナンバーワン獲得、リリー・コリンズ主演ドラマ #EmilyInParis 。『ビバリーヒルズ高校白書』『セックス・アンド・ザ・シティ』でお馴染みの大御所ダーレン・スター制作ですが、内容はパリを舞台にした『ゴシップガール』×『プラダを着た悪魔』。つまり、きらびやかなファッション、美しき街を取り巻くお仕事サクセスストーリーです。

 ただ、この2020年ヒット作が面白いのは、まったく2020年らしくない、もはや10年前くらいの作品と思えてくるベタっぷり。たとえばVoxは「おじさんおばさん世代が抱く"若者の怠惰な人生"ファンタジー」みたいに言ってます(原文は"boomer","millennial"なので「若者」どころか「アラサー」ですが……)。

 このドラマ、2007年から2012年に放送された『ゴシップガール』みたいなテンションなのです(作中でもこのシリーズの名前およびネタバレが登場する)。ファッションにしてもコンサバかつ一昔前のポップ感。シカゴ女子がパリに行って馬鹿にされつつ試行錯誤、恋も大変!っていう王道ストーリーですが、登場人物は裕福な美形が多く、格差やマイノリティ問題みたいな「ここ5年のアメリカドラマ」が取り扱いがちなトピックも影を潜めている。加えて、パリの同僚から「田舎者」とバカにされる主人公はInstagramインフルエンサーとして仕事のピンチを乗り越えていって大成功をつづけるお気楽さ。TikTokではなく一昔前のInstagram、というあたりもポイントで、2015年くらいの時空です。ちなみに最終話のファッションウィーク(パリコレ)で出てくるドレスはViktor and Rolf Spring 2019そのまんま。

 なにより強いのは、1話時点で「馬鹿なアメリカ人と傲慢なフランス人」という2000年代的ステレオタイプをジョークにしたコメディだと明確にさせるような点。シカゴ出身のエミリーは、ノルマンディー出身の男性と出会って「『プライベート・ライアン』で観た!」とか言っちゃうミーハーおバカUS女子として設計されています。あと「アメリカン・スウィートハート」とされるハリウッド女優はドラッグ大好きの不良だったり。『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』にも出てくる定番ネタ「不味いシカゴピザ」も登場します。

(人気作になったため、作中名指しで叩かれたLouMalnati'sも反応)

 エミリーを見下すパリの同僚たちにしても、米国人と違って仕事に熱意を燃やさず、性に奔放、英語は話してやらない、などなど、ステレオタイプでかなりわかりやすい造形。フランスのセクシーな香水CMに対して、アメリカ人のエミリーが「性差別だ!」と訴えるあたりもベタ中のベタ。

 要するに、中高年も馴染めるベタっぷりゆえ気楽に楽しめるのが強みです。パリの景色だけで楽しめるし、コメディ調で30分終わるし、現実逃避にはもってこい。バイラル人気も納得の「さいきん無かったし案外求められていた」枠かなと思いました。Netflixって米国でも「ダイバーシティな作品」取り揃えているイメージ持たれてますけど、こういう「馬鹿にされがちなお気楽ベタドラマ」でヒット出せるところが何だかんだ強いですね。ついでに、「10年前の価値観」だとしても、登場キャラクターはアメリカ&フランス人ともに裕福でやや滑稽な美形白人ばかりなので、アメリカの左派政治コード的に大きな炎上もしなそうな気がします。むしろ気楽にジョークにできるから話題になった怪作ポジション。まぁ、だからこそ、フランスメディアから怒りの蔑称酷評食らうまでがお約束なのですが。


よろこびます