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"不謹慎"左翼スターの台頭

 3年ぶりに行われたコーチェラ・フェスティバル2022。ファッション方面では、ハリー・スタイルズやマネスキンがGUCCIを着用するなど、パフォーマーまわりで目立ちました。一方、2010年代に盛況だった「セレブ客」側(ファッションブランドが人気モデル等にお金を出してコーチェラに行ってもらい目玉アイテムを着用してもらう宣伝手法)は以前よりおさえめ。そんななか「客」枠として盛り上がったのが、この男、またもやGUCCI。

 名前はハサン・パイカー。1991年生まれ30歳。トルコ系としてアメリカに生まれ、トルコで育ち、大学からアメリカに戻った人気Twitchストリーマー。その彼がプライベートジェットでコーチェラにかけつけたらしく、15万円のグッチのシャツを着ていたため、いろんなネット界隈に叩かれていきました。
 なぜ人気配信主の贅沢程度で叩かれるかというと、彼が左派政治系ストリーマーとして有名で、さらに「ソーシャリスト(社会主義者)」とされるため。もともと進歩左派Facebook番組でホストをやっていたハサンは、2016年大統領選挙のころバーニー・サンダース支持のミレニアル世代政治評論家として名を上げました。たとえば、民主党左派の人気議員AOCがMet Galaにて「金持ちに課税を」ドレスを着用しましたが、これに似たスローガンTを彼も着用しています(ハサンのほうが先)。

 ハサンのコーチェラ騒動は、ソーシャリズム系インフルエンサーが贅沢/豪遊すると「資本主義と金持ちを批判してたくせに」と右派左派両方から叩かれるインターネット行事であります。"OK bommer"を流行らせたインフルエンサーが200万ドルアパート購入動画をあげて荒れたりもしましたが、ハサンも以前ウェストハリウッドの約300万ドル豪邸買って騒ぎになっています。インフルエンサーたちは自由主義的社会主義を唱えるなど言い分がありますし、叩く側の「ソーシャリズム」概念そのものが雑という事情もあるわけですが。

 イデオロギーはおいておくとして、ハサン・パイカーの特徴は「不謹慎」っぽい左派インフルエンサーということです。わかりやすいのは上の動画。ドナルド・トランプの「支持者のみんなにキスするよ、男にも女にも。あの彼にキスするよ」発言を引用して「キスされちゃう!」と嫌がって叫び、ゲイアンセム「Y.M.C.A.」を流す……というネタ動画。これ、モラル重視な米左派だとやらなそうというか「ホモフォビックだ」と批判する類でしょう。

 "Shit"主義を掲げるハサンは、まさにこの「不謹慎」ともされるブランドを強く意識しています。「右派のように若者にリーチできていない、ヒステリックなイメージになった左派」状況を問題として、若年層白人男性をターゲットにした配信を行っているのです。重視するのは「愉しさ」…言い換えれば不謹慎系ふくむ「ネタ」とか、hype styleな「キャラ」。
 これまでの問題発言として、初期の「9.11はアメリカの自業自得」的コメントがよく挙げられますが「俺は完全にミソジニストだけど正直者」とかも言っています。FOXの保守派女性アンカー、トミ・ラーレンにバトルを仕掛けた時には「彼女、ちょっとかわいいよね」と容姿に触れ「俺にDM送って、デートに誘ってくれよ」みたいなコメントを言ったりも。こういう態度が(とくにフェミニズムな)左派からも反感買うわけですね。本人も「超男らしい野郎(hyper-masculine bro-like personality)」を自称し、ドナルド・トランプは「伝統的な男らしさを持つ人物ではないパフォーマー」と批判、加えてジェンダーイシューについては喋れる勉強家感。また、2021年末には、白人に対する人種差別ワードを使ったとしてTwitch Banを喰らいました。見ての通りルックスも良いので、女子ファンが「ハサンはミソジニストでレイシスト。でも…イケてる♡」みたいなネタ動画あげたりしてます。

 ハサン人気は、民主党左派議員とのコラボレーションにまで至ります。前出AOC、その「スクワッド」仲間イルハン・オマル下院議員、そしてハサンら人気ストリーマーがつどったゲーム配信はTwitchソロ史上3位となる60万人の同時視聴者を達成しました。 

 ここ10年「逸脱を魅力とするカウンター文化が左派から右派に移った/左派はすっかり倫理説教を好むようになった」みたいに語られてきたわけですが……ハサンがこれだけ成功しているのだから通説構図が崩れてきている、あたりがポイントでしょうか。というか、完全に勝手なイメージなんですが、近10年にしても、価値観やマナーの変動あれ、日本含めてユース間「逸脱」ネタ人気は変わってない印象。いわゆる政治界隈でのマネタイズは右派が先行した、って話かもしれません。あと、コンテンツ文化領域における「キャンセルカルチャー」的現象にしても最近は「もともとのお家芸」とされた保守派が勢いを増し続けている気も……。

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