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アカデミー賞2022 反省会

 TV番組としての第94回アカデミー賞授賞式の感想、および受賞予想の反省会。

・はじめる前に

 日本でも話題になっているウィル・スミスのクリス・ロック平手打ち騒動に関しては、一旦「Red Table Talk」待ち。現段階の情報だと、ジェイダ・ピンケット・スミスが脱毛症であることを知らなかったクリス・ロックは、台本にないアドリブで彼女のヘアスタイルを侮辱するようなジョークを言ったよう。つまりリサーチ不足の酷いアドリブ(エイミー・シューマーのキルスティン・ダンスト追い出し芸も反発を受けたが、こちらは台本にあったネタで、キルスティンも了承していたらしい)。
 アメリカでも今のところ議論は二分な模様。マスメディアでは「暴力は駄目」スタンスが前提になるものの、ウィル擁護派のセレブリティも普通にいる。謝罪声明を出したウィルはメディア取材を断っており、妻ジェイダのFacebook番組「Red Table Talk」への出演が予想されている。日本ではあまり知られていないものの、ディープな議論を行うこの番組にはインフルエンスがある。カーダシアン&ジェンナー家の不倫騒動において追放処置に遭ったジョーディン・ウッズに手を差し伸べたのもジェイダでありこの番組。なので、本当にウィルが出るとしたらそこで色々動きや落としどころとか出るのではないか。

・バラエティ化が進むオスカー授賞式

 「Movie Lovers Unite」……がテーマだったのに、始まる前から映画ファンを引き裂いたのが第94回アカデミー賞である。最大の波乱となったのは、編集賞など8部門の受賞発表の生中継をやめ事前収録とする決定。2019年の時と同じく、多くの映画人が反対する事態に。また、19年にはポピュラー映画部門設立の計画が頓挫したりもしたが、今回はTwitter投票企画を実行。特設サイトもつくらずガバガバな投票システムだったため、ザック・スナイダーやカミラ・カベロ、ジョニー・デップのファンダムが人海戦術的に攻め込み。

https://www.hollywoodreporter.com/movies/movie-news/how-much-does-box-office-really-impact-oscars-tv-ratings-1235118769/

 何故、オスカー陣営&ABCが映画人の逆鱗に触れるような方針を打ち出していっているのか。おそらく視聴率の問題。上の黄色グラフにあるように、リモート開催した2021年はド級の歴代最低を記録してしまった。補足すると、視聴者数減少傾向はオスカーに限った話ではない。ストリーミング時代の今、多くのエンタメアワードが苦戦しているし、コロナ禍でそれが悪化した動きもある。
 ただ、オスカーが抱える問題に「イベントの"主役"たる作品賞候補作品を観ている視聴者が少ないこと」がある。上のグラフは、授賞式レーティングと作品賞ノミニー興行収入の単純比較。近年、いわゆるオスカー的アダルトドラマ映画の人気は下降、主要客とされる熟年層が映画館から遠ざかったコロナ禍で大打撃。この「視聴者が知らない作品賞候補ばかり」議論がより深刻化した前年度、若年層レーティングは(永遠の二番手とされていた)グラミー賞に負ける始末。今回だと、興行収入を稼いだ『ハウス・オブ・グッチ』レディー・ガガの主演女優部門サプライズ落選により「『DUNE /デューン砂の惑星』以外は興行収入で苦戦した作品ばかり」状態に。

 つまるところ、視聴率に困っているアカデミー賞は「"主役"である受賞者をメインにする番組構成だと視聴者を逃すパラドックス」にはまっているのではないか。では、どうするのかというと……浮上するのは「受賞者を冷遇するとしても人気者を押し出すバラエティ方式」。上記ツイートのCMからしてこの路線。落選したはずのレディー・ガガから始まり、歌曲賞候補のビヨンセ&ビリー・アイリッシュ(これはいいとして)、最大の目玉は5週間連続Billboard首位となった『ミラベルと魔法だらけの家』の「秘密のブルーノ」初パフォーマンス。『ミラベル』は長編アニメ部門候補なものの、曲自体はノミネートされていない。あと名作映画『ゴッドファーザー』リユニオンを告知するバージョンもあった。

 授賞式本番は、想定以上に渾身の「バラエティ」構成だった。個人的に楽しみにしてきた「今年の映画」マッシュアップOP映像なし。オープナーは『ドリームプラン』関連のウィリアムズ姉妹→ビヨンセの録画パフォーマンス→DJキャレド登場、というスポーツ&音楽の人気者連発。文化現象を巻き起こした『ミラベル』はもっと凄い。20→21時の移り変わりで歌曲賞候補「2匹のオルギータス」パフォーマンス、21→22時にミーガン・ジー・スタリオンなど特別スター客演を迎えた「秘密のブルーノ」パフォーマンス、22→23時に歌曲賞発表。歌曲部門を「2匹のオルギータス」が受賞していたら、視聴率確保で重要な時間帯切り替わり3つ全てが『ミラベル』関連になっていた。視聴者間では「不思議のブルーノ」引き伸ばされすぎ、(最大オーディエンスであるはずの)子どもたちが寝てしまった、という不評も。
 目玉だった「秘密のブルーノ」ステージの終わりには、サプライズゲスト、レディー・ガガの来場がアナウンス。助演男優賞後にはキャプテン・アメリカことクリス・エヴァンスがコメントを寄せる特別映像が流れ、そのままCMとして彼が主演するディズニー映画『バズ・ライトイヤー』予告編。唐突にBTSメンバーがディズニーを語る謎トリビュートも起こった。番組側の話題狙いが明け透けなわけですが、Twitter投票システムと同じく、企画が練られていないことが問題に感じました。また『ゴッドファーザー』に加えて『JUNO /ジュノ』『パルプ・フィクション』と過去作リユニオンも多め?
 対して、受賞スピーチの扱いは批判を受けている。国際長編映画部門ウィナー、濱口竜介監督のスピーチは実質3回くらい「はやく終わらせろ」指示が入った雰囲気だった。これを批判したエドガー・ライト監督は「受賞者が祝福されず、セレブたちのバラエティ番組のおまけのように扱われている」といった感じのを苦言ツイート。今回の授賞式は3時間40分程度と近年でも長かったのに、受賞スピーチ関連は比較的冷遇された印象を拭えず。

 受賞者を最優先にしない「バラエティ」路線は成果を出した。史上二番目のワースト視聴率ながら、前年比58%増。重要なことに、TVビジネスで重要とされる18〜49歳層は73%も増えた。
 数字は出したのだから、ローストで回すコメディアン司会、人気者プッシュ、これらによる相対的な受賞者冷遇という「バラエティ」方式は次年度も続く気がする(平手打ち事件により台本がさらに厳格化される線はあるかも)。各種調査を見ていると、アダルトドラマ映画のファンが少ない若年層が重視するのは正に「バラエティ」要素。イベントをトークで回す司会は誰か、ビヨンセのような音楽スターは歌うのか、みたいな需要が多い。ちなみに、今回不評を買ったクリス・ロックは、THR調査「18〜34歳がアカデミー賞で見たいセレブ」でビヨンセやゼンデイヤを超えて3位につく人気者である。
 個人的に、スタンダップコメディアンのアワード司会と合うことが少ないので、オスカーのホストはレディー・ガガ、グラミーはアリシア・キーズでやってほしいんですが。

・予想反省会

 「会員の風評」を重んじたオスカー予想、当確は7/10に終わる。

反省点:前哨戦をベースとした上で「会員の雰囲気/風評」を判断分岐点にしたほうが良い、ただしNetflixは因子である

 アワードレースとして、今回のメイン部門はサプライズが少ないものでした。つまり、前哨戦の「データ」に従っていけば当たったわけです。自分がはずした部門は全てこのパターン。
 しかし、今回特異だったのが、作品賞の『CODA』。前哨後半戦でせりあげていたといえ、監督&編集部門ノミネーションなしの受賞は89年ぶり。ここから考えられるのはNetflix因子。『CODA』の歴史的快挙は『パワー・オブ・ザ・ドッグ』を負かしたことで起こっています。会員たちのNetflix忌避が「データ」法則を捻じ曲げた疑惑が挙がる。
 もちろん、映画の内容もあります。スタイリッシュでモダンな『パワ犬』よりも『CODA』のほうオスカー会員受けするあたたかい作風でしょう。予想記事に書きましたが、作品部門は、独走フロントランナーがいない場合『グリーンブック』のようなTOP4に入る安定した好感度作品が有利。前から思ってたんですが、Netflixって、こういう「好感度」映画をオスカーに送り込めてない気がするんですよねぇ。個人の好みは別として『ROMA /ローマ』、『アイリッシュマン』みたいな「高尚なのはわかるが単純に楽しみにくい」系がつづいているような。
 受賞結果としては歌曲賞が一番不満で、『007』が獲りすぎだと思います。ディズニー陣営が大ヒットソング「秘密のブルーノ」を出願できてれば結果は違ってたかもしれませんが、この部門のエントリー締切は『ミラベル』劇場公開前となる11月初旬でした。劇場公開時どころかストリーム配信のタイミングで火がついた&主題歌枠やバラードでもない「秘密のブルーノ」を選出する判断は難しかったでしょう。今回、作品賞のApple対Netflixが注目されましたが、もっとも「ストリーミング時代」をあらわすのは、歌曲賞における『ミラベル』紆余曲折かなと思います。

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