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第64回グラミー賞 ジャンル票田最強説

 第64回グラミー賞の受賞結果と授賞式感想。「いつものグラミー」なBIG4こと主要四部門はジャンル票田セオリーしか勝たん状態に。

①ROTY/SOTY シルク・ソニック無双

 ROTY/SOTYはシルク・ソニックが制覇。というか無双。ROTYに関しては、近11回中7回をアデル、ブルーノ・マーズ、ビリー・アイリッシュ三方の勝利で回してるループものジャンルと化しています。
グラミー賞ポイント紹介記事でも触れましたが、グラミー賞会員にはスタジオミュージシャンの会員が多いです。俳優会員の多いアカデミー賞でアンサンブルが強いように、グラミーでは楽器演奏スキルが評価されやすい。年長白人やカントリー、ロック専門会員も多いため、前年SOTYサプライズ勝者H.E.R.のような「卓逸した演奏スキルで伝統的サウンドを奏でるシンガーソングライター」が「グラミーウケ」枠となるわけです。全会員が投票できるBIG4ノミニーは、知名度の高いメガスターと「グラミーウケ」メンツで埋まりがち。
 そうなると、無双モードに入れるのがブルーノ・マーズとアンダーソン・パークによるシルク・ソニック。豪華で濃密なバックバンドとともにレトロソウルを演奏するスーパースター・デュオで、ラジオ人気も強いのだから全て揃っています。今回、4ノミネーションすべて受賞。ブルーノ・マーズに至っては2016年以降すべてのノミネーションで勝利しています。
 また、この楽器演奏や伝統的ジャンル好み傾向は、オルタナティブアルバムにも適用されるかもしれません。マスメディアではホールジーが最有力とされてましたが、高評価ギタリスト&今回ブルージー作風だったセイント・ヴィンセントが女性として初の二度目受賞。

②BNA オリヴィア・ロドリゴ一部門のみ

 マスメディアではBIG4独占予想も立てられていたロドリゴですが(予想ガチ勢界隈的には)新人賞のみに終わったのはある程度想定通り。10代女性のSSW大型新人として、BIG4制覇→単独シングルでROTY受賞の無双を果たしたビリー・アイリッシュと比較されてたわけですが……この二人は結構違います。
 ビリーは「グラミーウケ」する"authenticity"作風だとよく言われるわけですが……アワード業界まわりで重要とされるのは、元来のグラミー最大級票田を成すロック&オルタナティブ会員から集票できていることです。元々、ビリーってUSだとオルタナティブラジオで新記録を達成するなど、オルタナロックアーティストの立ち位置も確立してるんですね。ビヨンセ&サム・スミスにAOTYサプライズ勝利したベックと同じく、大票田ロック村の票を固められたからこそ2021年ROTY快挙が達成できた説(ちなみに、ビリーが更新したオルタナエアプレイ記録の前回保持者はこのベック)。
 そして、このロック大票田、ノミネーションからしてロートル寄りです。今年はAC/DCやポール・マッカートニーを入れる一方、受賞予想もされていたマネスキンを落としている(一方、2017年にはグレタ・ヴァン・フリートに受賞させている)。マイリー・サイラス、そして肝心なことにマシン・ガン・ケリーのポップパンクアルバムも落選。オリヴィア・ロドリゴといえば「ポップパンク・リバイバル」のイメージが強いため、ロック要素あると言っても、現行ロック村から集票が期待できる類ではなさそう。
 そもそもオリヴィアってグラミー好みのしっとり系とはちょっとズレたガールポップ寄りなんですよねぇ。BIG3だと、王道パワーバラード「運転免許証」知名度で逃げ切れるか……という、オスカーでいう『パワ犬』ポジションと読んでたんですが、結果も『パワ犬』と同じ「最注目部門フロントランナーと予想されながら必勝とされた個人対象一部門のみ」でした。

③AOTY ジャンル票田セオリーのジョン・バティステ

 ここが本番。ビリー・アイリッシュ、トニー・ベネット&レディー・ガガ、オリヴィア・ロドリゴが本命とされたAOTYでのバティステ勝利。ただ、抜きん出たサプライズでもないです。
 まず、バティステといえば、人気番組「The Late Show」のバンドリーダーであるため、当然スタジオミュージシャンからのリスペクトは強い。ピクサー映画『ソウルフル・ワールド』によってオスカー歌曲賞も受けたりもしているため、ジャズ/ソウル業界への貢献度も高いです。
 そして今年、R&Bソウルやジャズを織り交ぜる「ジャンルを超えた」アルバムによって今年度最多となった11ノミネーションで話題になりました↓

レコード・オブ・ザ・イヤー/アルバム・オブ・ザ・イヤー
最優秀トラディショナル・R&Bパフォーマンス/最優秀R&Bアルバム
最優秀インプロヴァイズド・ジャズ・ソロ/最優秀ジャズ・インストゥルメンタル・アルバム
最優秀アメリカン・ルーツ・パフォーマンス/最優秀アメリカン・ルーツ・ソング
クラシック現代作品部門
最優秀ミュージック・ビデオ
最優秀サウンドトラック・アルバム作曲賞映画、テレビ、その他映像部門

 ここで重要なのは、ジャンルカテゴリの豊富さ。基本的に、グラミーにおいてノミネーション数は受賞確率ってわけでもないです。今回タイ2位となったジャスティン・ビーバーは無冠でした。しかしながら、ジャンル別サブカテゴリ数はチェックポイントになる。ジャスティンはポップとR&B、グラミーお気に入りであるH.E.R.すらR&Bとクリスチャンの2部門ですが、バティステの場合、R&B、ジャズ、アメリカンルーツ、クラシックと、またぐジャンルカテゴリが多い。ノミネーションも会員投票によって決まるので、導かれるのは「バティステが多くのジャンル票田から支持を得ていること」。さらにジャズ、クラシックはかつての大型票田……ということで、シルク・ソニック無双やロドリゴ一冠に通じる「ジャンル票田」セオリーをとれば、リスクテイクなもののAOTYバティステ予想は立てられたわけです。
 まとめるなら「大票田および複数ジャンル票田を味方につけたノミニーが強い」傾向が濃い年度と言えます。秘密委員会廃止が影響したかはわかりませんが、あるとしたら、各ジャンル畑の熱意が反映されやすくなったかも。ノミネーションジャンル振り分け会議の影響力が落ちている…?と巡ったりもしましたが、今年だってケイシー・マスグレイヴスとブランディ・カーライルのジャンルエントリー拒否で揉めたので、やはりバティステ支持包囲網が特別そう。オリヴィア・ロドリゴとリル・ナズ・エックスの二択予想だったMV部門で勝った時点で得票がものすごいことがわかります。
 まぁ、来年はアデルとシルクソニックが揃いそうなので、こういうオタク理論じゃ追跡できない怪物大戦になりそうですが。

授賞式中継の感想

 授賞式中継としては、視聴率のために重要な「EST/EDT時間帯の移り変わり」を担当したパフォーマーが以下。

20時 シルク・ソニック
21時 ビリー・アイリッシュ
22時 レディー・ガガ
23時 H.E.R.

 前から三人は「それはそう」な高視聴率スーパースター軍団。意外だったのは、22時〜23時の移り変わりがジャスティン・ビーバーではなくH.E.R.だったことです。まぁビーバーの出演は直前に決定した事情を考えれば「それはそう」かもしれませんが、重要ナイトタイムをジャム&ルイスやレニクラも参加する贅沢R&Bロック公演にしたのはグラミーらしてく良いなと。今回、バティステやNas、キャリー・アンダーウッドなど、渋めパフォーマーが流石な熟練ステージでしたね(キャリアンは存在自体は派手だが……)。
 一方、番組としてはバラエティ化で顰蹙を買ったアカデミー賞をはるかに超えるスピーディー運用。数字がとれるパフォーマンスを盛り込んでテキパキ進めていました。司会のトレヴァー・ノアは「進行運用者」の感が強く、機械的な印象すら抱きました。自分はピアノ歌唱を挟むアリシア・キーズの司会が好きなんですが、ここまでスピーディー運用だとあぁいう贅沢なつくりは無理でしょう。オスカーに比べて「アワード番組としてのauthenticityやprideはなんなのか」掴めない、システマティックな音楽パフォーマンス番組化が進んじゃった印象。
 個人的に、昨年は「音楽パフォーマンス中心」構成、つまり豪華FNS歌謡祭な方向性でいいのではないか、と思ったんですよね。しかし、今年思ったのは、ステージメイン構成にしすぎると、ステージそのものに左右されます。去年はデュア・リパ、テイラー・スウィフトなんかが超豪華ステージのメドレーをしたので華々しく楽しかったのですが、今年はやや渋め小さめ。誰を出せるかは当該年度のリリース状況、スターのやる気や授賞式運営との関係によるので、そこが難しいところだなと……。カニエ取り消し騒動はもとより、ヒット連発したドージャ・キャットも(まさか受賞すると思ってなかったのか)パフォームせず。近年アリアナ、デュア・リパが担当したメドレー枠はオリヴィア・ロドリゴかと思いましたが、オープナーのシルク・ソニックから視聴者をキープするポジションで一曲だけ。来年はアデルが出てくれることを祈りましょう〜アデル頼みEND〜

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