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『パワー・オブ・ザ・ドッグ』超モダンな嫁入り地獄

 2021年アカデミー賞レースの一主役、Netflix『パワー・オブ・ザ・ドッグ』が配信開始。名監督&名優揃い踏みの古風なTHEオスカー的作品となると鑑賞するにも気合いが要されがちですが、意外も意外、するっと観やすい一作でした。

 前半のストーリーは「嫁入り地獄」。1925年モンタナ、未亡人として息子を育てるキルスティン・ダンストが裕福な牧場主の男と再婚したら、同居してる小舅ベネディクト・カンバーバッチが性差別パワハラクソ野郎で地獄の日々がスタート。とにかくダンストとカンバーバッチの演技が自然で、逃げ場なく鬱々とする嫁、マッチョイズム掲げるくせに卑怯で精神不安定なパワハラ男、どちらも"本当にいる"と感じさせる人物像。ジェーン・カンピオン監督の言葉「丘はセクシー」そのまま、荒野の景色もセクシーで美しいです……ということで意外にもスルスル観られる。閉塞感が重苦しすぎる「嫁入り地獄」譚って日本でも見慣れてますからね(「妻」ではなく「嫁」なところがポイント)。もはや山田洋次監督のバイブスがほのかにある。

 Netflix配信作として個人的に重要だと思ったのは「前情報なしで観たほうがいい映画」であること……なのですが、言葉どおりなので、これからの内容は鑑賞後のほうがよいです。

【以下、ネタバレ】

 ということで『パワ犬』ですが、これ「二回観たほうがいい映画」ですよね。家族ドラマかと思ったらホモエロティシズムが香っていき、最後ミステリ構造だったと明かされる。最初から伏線が撒き続かれているので、再見すると、初見時に引っかかったさまざまなシーンの意味やニュアンスがわかるわけです。で、こういう「二回観た方がいい」考察喚起モノって気軽に観直せるストリーム配信向きだし、Netflixが牽引した人気ジャンルでもある。

 伏線まみれの「ジャンル」転換構造というと、インターネットを騒がせたオスカー受賞作『パラサイト 半地下の家族』にも似てるんですが……『パワ犬』の場合、「考察向き」だとなるべく気づかせずに「THEオスカー向きなUS名画の佇まい」でそれをやってるんですね。原作小説が刊行された1960年代に実写化されていてもおかしくない物語なのですが、プロットツイスト等の構造、ジェンダーイシュー等の視点、描写まで、非常にモダンで2020年代的に仕上がっていて素晴らしい。アカデミー作品賞獲得に励みつづけるNetflixですが、今回ついに「Netflix的作風」と「オスカー的名画」を両立する秀作を出してきたことは、アワードの結果どうあれ感慨深いなと。



よろこびます