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映画の感想 『THE BATMAN-ザ・バットマン』もろもろ

 CINRAで『ザバ』キャットウーマンの記事を書いた際、旧作もチェックしたので簡単な感想。

THE BATMAN-ザ・バットマン- (2022)

 約3時間と長い。長いのですが……理由は観て納得。この作品の魅力は、ビデオゲーム的な「世界観の雰囲気/authenticity」、そこへの没入感覚。自分にとっては「ニューヨークやシカゴではなく、漠然と米国大都市を喚起させる腐敗が耐えないゴッサムシティ」こそ主役。MCU単独映画なら切ってそうな余韻的シーンも贅沢に含めており、逆に無駄がないRTA動画の感。主人公のバットマンをなるべくカメラに映し続ける志向、ナイトクラブに何度も通う展開、反復カットもビデオゲーム感を高めている。Sign Magazine年間ベストでビデオゲームの映画侵食みたいな話をしましたが、最近もっともそれを感じさせる「ゲーム的没入感」ムービーでした。
 ストーリーでは「現実の米社会事件との相似」が話題に。特に米議会襲撃事件を想起させたようですが、これについてマット・リーヴス監督は否定しており、むしろ(公開前に同事件が勃発して)困ったようです。元々2021年公開予定だった本作は2017年ごろ脚本が書かれていたよう。監督いわく、実際の事件は"ほぼ"直接的に参照しておらず「今ならSNSが凶悪事件に絡むだろう」みたいな考えだったとか。ただ、個人的に想起したのは「アメリカ国内からの大量殺人」問題。「邪悪な大敵が唐突にやってくる」ポスト9.11映画と語られた『ダークナイト』トリロジーの次の段階……つまり自国民による銃乱射事件が増えていった2010年代後半のアメリカ社会の流れを感じたのです。2016年にオーランド事件、17年ラスベガス・ストリップ事件が発生し、銃乱射事件の増加がますます深刻化していったので、時期的にも合うんじゃないかと。
 CINRA記事で書いたキャットウーマンのバイセクシャル解釈にまつわる論議。個人的な感想としては、そもそもゾーイ・クラヴィッツの演技と作品そのものが噛み合ってないところがある印象でした。ゾーイの"baby"の演技はロマンチックなニュアンスなのですが、スタジオ側は彼女の解釈に乗っていない(同性愛描写の明示は避けたかった)んじゃないか、とか。バイセクシャル解釈にしても、ゾーイが認めた一方、監督は「そう解釈できる余白もあるけど(アニカは)セリーナと母親の関係をあらわしてる」みたいな姿勢で「バットマンとキャットウーマンのロマンスが映画の絶対的中心」と言ってますし。なので、ゾーイの演技から"闘い"を勝手に感じたのでした。

バットマン リターンズ (1992)

 ティム・バートン監督の世界観によるクリスマスムービーってだけで楽しい。マイノリティの立場であるヴィランは同情を買う個性派となっていて、CINRAで紹介したようにファイファー版キャットウーマンはフェミニズム人気があります。一方、今っぽくない要素は、ペンギンの性欲描写。今作のペンギンはマスコットっぽさもあるのですが、劇中権力を与えられると女性職員を襲おうとするし、それを止められると美人とヤるために出馬を決定する。このギラギラ度合いがジメジメとリアル。キャットウーマンにしても小鳥を丸呑みするし、ダークなかわいさ、お茶目さだけではないエグさがバートンの味だなと。

キャットウーマン(2004)

 アメコミ映画の黒歴史……とされてますが、今見ると結構イケている。女性集客を重視しすぎたのか、2000sロマコメ基盤なつくり。冴えない引っ込み思案の女の変貌、気が利くニヒル系友人、突然はえてきたイケメン刑事とのロマンスetc。今観るとジャンルムービーとして楽しい。同時に、これは集客できないだろう……と腑に落ちる。スーパーヒーロージャンルとしてアクションとロマンスの両立を成功させたのがパティ・ジェンキンス版『ワンダーウーマン』ぽいですね。狂気じみていた『1984』のほうが好きですが。
 猫らしさが重視されたアクションは今見ても良かったです。ヴィランのシャロン・ストーンとの「私たち、同志になれたかもしれないのに……」または師弟バイブさえあればカルト作品としてもっと愛されていそう。なによりキャットウーマン観がDIVAで良い。

「キャットウーマンは社会の掟に縛られない 欲望のままに生きる
それは祝福であり災い 
孤独で誤解もされるけど ほかの女にはない自由を得られる」

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よろこびます