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どちらが得か?雇用契約vs業務委託

様々な働き方が広がる中で、従来型の雇用契約ではなく業務委託という形で仕事をする人が増えています。働く時間や場所に縛られないのが業務委託の良い点ですが、雇用契約のように法律で保護されるわけではないので収入の安定性は下がります。

このように、どちらが良いのかはいろいろと議論すべき点があるのですが、今回は単純に手元に残るお金の損得だけで両者を比較してみたいと思います。なお、以下では40歳未満の方が、令和元年度に東京都千代田区の会社で働いていることを前提とします。

雇用契約は給与所得

まず、雇用契約で働く場合には、会社からもらう金額は「給与所得」という分類になります。給与所得は、収入額から給与所得控除を差し引いて計算されます。

また、雇用契約の場合には、通常は、その会社で健康保険や厚生年金といった社会保険に加入することなります。社会保険料の負担は会社と従業員で半分ずつです。従業員の負担は給与額の14.1%です。

業務委託は事業所得

一方、業務委託で働く場合には、会社からもらう金額は「事業所得」という分類になります。事業所得は、収入額からその事業のために必要な経費を差し引いて計算されます。また、複式簿記を使用して青色申告を行えば、65万円の青色申告特別控除という額を上記からさらに差し引くことができます。

業務委託の場合には、会社の従業員ではないので、その会社の社会保険には加入できません。そのため、国民健康保険に入るとともに、国民年金の掛金を自ら支払う必要があります。国民健康保険は前年度の算定基礎額(事業所得等-33万円)の9.07%+48,300円で、国民年金は16,410円です。

所得額の比較

年収600万円として給与所得と事業所得(青色申告特別控除65万円あり)を比較してみます。給与所得は給与所得控除が174万円なので、426万円となります。事業所得の経費は変動するので、ひとまず給与所得と同額になる経費の金額を求めてみると109万円となります(600万円-109万円-65万円=426万円)。

ということは、計算上は経費が109万円以上あるなら事業所得の方が所得税が小さくなります。しかし、経費を使うということはその分だけお金が出ていくことを意味します。給与所得の場合には、お金を払わなくても174万円を自動的に差し引くことができるので、そう考えると給与所得の方が有利です。

ただし、事業の内容によっては普段の生活費の一部が経費になることも考えられます。例えば、保険の外交員のように接待交際が多いような業種であれば、お客さんと一緒に食事をすることで、生活費の中の食費が経費となります。雇用でも業務委託でも、どちらであっても使うお金が経費になるのであれが、業務委託の方が有利になってきます。結局、給与所得と事業所得のどちらが良いかは単純には比較できないことになります。

社会保険料と国民健康保険・国民年金掛金額の比較

上記の例で給与所得者の社会保険料と事業所得者の国民健康保険・国民年金掛金額を計算してみましょう。経費は109万円とします。

給与所得者の場合には、給与額の14.1%ですので、84.6万円となります。事業所得者の場合には、(事業所得-33万円)×9.07%+48,300円+16,410円なので42.1万円となります。仮に事業所得の経費が0円であった場合でも52万円なので、年度の負担額では間違いなく事業所得者の方が有利になります。

ただし、厚生年金の方が掛金が多いので、老後については給与所得者の方が年金が多くなります。したがって、これも一概に事業所得者の方が有利だとはいえません。

終わりに

ここまで読んでくれた方、申し訳ありません。雇用と業務委託、どちらが良いか結論付けようと思っても、変数が多すぎて一般的な結論は出せませんでした。

ちなみに、仕事柄、このような比較検討を依頼されることがあります。その場合には、生活費がいくらか、そのうちどれくらいが経費として認められるのかということを集計(もしくは仮定)してシミュレーションを行いますのできちんと結論がでます。

ちょっと大変な部分もありますが、気になる方はぜひご自身で計算してみるか、専門家に依頼してみてください。

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