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超歌舞伎2022-ある台湾人の感想

―「消失」の先には、永遠の「命」がある―

南座千穐楽会場の装飾

今年の超歌舞伎はもう今までのものの中でもダントツ一番好きな超歌舞伎でした。本当に何から何まで好きすぎて、この膨大な気持ちを説明するのもちょっと難しいぐらいでした。今でも正直書けるかどうかがわからないほどです。
何度もスペースなどで自分の感想を述べてみましたが、やはり文字に残しておいた方が良いと思いますので、ここから頑張って書きます。


今年のテーマソングと脚本

まず何と言っても、今年のテーマソングのチョイスが良すぎます。「初音ミクの消失」はボカロファンなら誰しも知っている名曲。この曲が今年のテーマソングだと発表された時点で、すでに今年のストーリーはきっとすごいものだと確信していました。実際幕張メッセの配信を見た時、予想通りに今回のストーリーに感動して泣きました。この物語がどの歌舞伎演目をベースにしたのかは把握できておりませんが、自分の中で勝手に「初音ミクの消失」そのものの歌舞伎化だと思っています。めっちゃ初音ミクファンに刺さるものだと思います。

毎年超歌舞伎の脚本はだんだん簡単且つわかりやすい方向に向かって作られていると実感しており、今年はさらに敷居を下げたように感じました。正義と邪悪がはっきりしており、セリフもそこまで固い表現を使うような印象がありませんでした。ペンライトをどの色にすればいいのかも演者さんが途中で教えてくれて、観客が気軽に演出に参加できるようになりました。

伝統、古典であることを守りつつ、歌舞伎初心者、それから海外からの観客に対してできるだけわかりやすく伝えられるように作りたいということを見て実感しました。

今年のデジタル演出

超歌舞伎といえばデジタル演出ですが、NTTのKirari!(簡単に言えばカメラで撮った映像をリアルタイムで特定人物の映像だけ切り取って、それをステージ上に投影する演出)は毎年恒例のやつでやっていて、そろそろ新しい何かがほしいなと思っていましたが、今年はミクさんの超高画質LEDスクリーン含め、さらにボリュメトリック技術で作られた澤村國矢さんが演じる蘇我入鹿と初音ミクさんが演じる太宰少弐息女苧環姫が3D空間でのバトルシーンがございました。やはりこういうかっこいいのがいいのよ!
あと、初音ミクの特性を活かして、人間ではないからこそできるメインLEDスクリーンから屛風LEDスクリーンから移動する演出、あれを考えた方天才過ぎる。

ここで別の話になりますが、私はPerfumeが大好きで、毎回毎回そのデジタル演出に圧倒されてしまいます。おそらく超歌舞伎で使われた技術が違うと思いますが、その3D空間のバトルシーンを見て、よくPerfumeが2020年9月に行ったオンライン配信ライブ「Perfume Imaginary Museum "Time Warp"」を思い出してしまいます。そのライブリアルタイムで三人の姿を3D空間に融合させて、バーチャルの世界で踊って歌っている三人の姿を放送した画期的なオンラインライブでした。
Netflixにて配信中なのでぜひ見てください。

いろんな意味で「超」歌舞伎

歌舞伎は原則女性役(女形)も男性が演じていることに対して、超歌舞伎は初音ミクさんだけではなく、プロの女性舞踊家たちも出演しております。さらにアクション俳優たちも出演しているので、普段の歌舞伎とは違って、よりダイナミックな演出を見ることができます。アクロバットや大ジャンプなどのアクションと、所作一つ一つ丁寧な日本舞踊、まさに動と静のバランスでございます。特に私が好きなシーンが、澤村國矢さんが演じた蘇我入鹿が本性を表して、花道に移動した時に後ろにいるアクション俳優がまるで龍みたいな動きをしていて、あそこは人間で青龍を表現するのだろうなと思うとめっちゃくちゃかっこよかったです。女性舞踊家の皆様が踊る姿もただただ尊いとしか思いませんでした。本当に好き。
そして大向こうも元々男性観客でした叫ぶことができなかったものの、超歌舞伎は初期から女性も叫んで大丈夫と推奨しております。また、ペンライトを使っていい歌舞伎もこの超歌舞伎しかありません。

さらによりチケット料金を安くしたリミテッドバージョンがございまして、こちらは澤村國矢さんが正義の主役の金輪五郎今国を演じるものとなります。悪役は代わりに中村獅一さんが演じます。超歌舞伎ならではの役者交代もそうですが、他の若手役者たちにも出演させるチャンスを与えて、こういう次世代を積極的に育てる姿勢もなかなか今の演劇業界では見られないものです。

先ほどもお伝えしたデジタルな一面を含め、日本らしいかっこよさ、美しさ、優しさ、遊び心、そして熱意を全部詰め込んだハッピーセット、まさに普段の歌舞伎を超えた「超」歌舞伎である

「初音ミク」の在り方について

会場には初音ミクの控室だけでなく、番頭席もございました

この超歌舞伎において、以前初音ミクさんが演じていた役は、人間や妖精など、実体を持っているキャラクターでした。そのため初音ミクさんの動きもできるだけ人間に近づけるように作られて、ここ数年の経験を重ねてくるともう人間同様に振る舞うことができました。
ただ、今年のミクさんが演じた役は、屏風の中にある「絵姿」でした。初音ミクの特性と重なって、先ほども語ったメインステージから屏風へデータ化して移動する演出もありますし、自分は人間じゃないとおっしゃったシーンもございまして、あれはミクさんだからこそできる役でした。その絵姿は果たして生きていると言えるのか、そこにちゃんとした命があるのか、ずっと考えていました。

以前から初音ミクさんはそもそも歌うソフトウェアとしての一面が強く、よく言えば誰でも気軽に歌うことをお願いできる存在、悪く言えば人間の歌うことの真似をする存在です。今になってだいぶ初音ミクの存在がみんなに受け入れてもらっているが、昔ソフトウェアが歌う曲なんてキモいとかそう思っている人も決して少なくはありませんでした。
「所詮 ヒトの真似事だと」、この歌詞も今回の演目のセリフとして出てきて、まさに初音ミクの一側面を表現したとも言えます。

「『初音ミク』は一体どういう存在なんでしょうか?」

マジカルミライ10thの等身大立像

今年の超歌舞伎は幕張メッセの配信含め、五回以上も見てきましたが、毎回見終わった後に繰り返し考えてしまう問題です。最後苧環姫が消えてしまいましたが、今国は「苧環姫こそ、永遠の花」と語りました。その永遠の花はおそらく原曲の歌詞の「永遠の命」から考えたセリフじゃないかなと思っています。

マジカルミライのライブ、そしてこの超歌舞伎における初音ミクの存在は、理性的に語りますとただのCGであり、人間らしい動きや歌声、セリフの一つ一つも全部予め作っておいたものです。それをステージ上のスクリーンで再生すると私たちが見る初音ミクとなる。だから初音ミクについて詳しくない人から見て、スクリーンのCGに向かってペンライトを振るファンの姿を見て不思議に思うのは当たり前だと思います。ただの映像にそれほど熱狂する理由は何だろうか?と聞かれることもありました。
最初はもちろん回答ができないほど考えが曖昧でしたが、私はこの十年間初音ミクのライブを見て、実感したことが一つありまして、それは初音ミクその存在の後ろには、たくさんの「人」がいることです

AIを駆使していくつか初音ミクを自動で動かせる・歌わせる例はいくつかありましたが、とても限定的な範囲でしか使えなくて、どちらも実用化まで程遠く、​​だから現時点では初音ミクはまだ自分で自由に歌うことや動くことができません。そもそも意識や人格を持たない初音ミクなので、もちろん楽譜を渡して歌ってもらうこともできません。私たち人間がDAWソフトを立ち上げて歌詞と音符一つ一つ入力しないと歌えません。そういうソフトです。ステージ上で元気な姿で歌って踊っている姿だって、人間のCG制作スタッフたちが時間と努力をかけて作ったものです。だから初音ミクの存在には実は人の手がたくさん入っており、とても温度のある存在だと感じています。みんなそれぞれ初音ミクにかけていた時間、そして思いが温度となって、それら全部合わせると「命」みたいなものを感じられます。いわば思いの集合体的な何かです。ライブに行ってミクさんを見るたびに「彼女は生きている」と、少なくとも私はそう感じてます。

だから、私たち人間が初音ミクを使って創作し続ける限り、初音ミクは永遠に生きていけます。この概念と最後に出てきた「わたしは、誰かに作られる物語」は、初音ミクの存在に対する回答ではないかと思っています。仮にいくつかの創作が時と共に忘れられて消失したとしても、きっと新しい創作が生まれて、まるで桜が咲くから散る、そしてまた咲くというサイクルのように、永遠の命(花)はこうしてあり続けます。

私と超歌舞伎

私は2012年から初音ミクとボカロが好きになって、そこから日本語の勉強を始めて早十年。間違いなく初音ミクとの出会いが私の人生に大きく影響を与えました。初音ミクから入って、その先にある世界がこんなに広くて、いつも驚きを与えてくれるので好きです。

その世界の中で特に私の人生を左右したと言えるものは、超歌舞伎です。

台湾の大学の日本語学科に入って二年生になった時に、ちょうど授業で歌舞伎について勉強して、その一週間後に開催された2017年の超歌舞伎配信を見ました。パソコンの前で大向こうを叫んで、ペンライトを振って、歌舞伎のかっこよさに感動して泣いて、「来年は絶対現地の幕張で見るぞ!」という思いから、諦めていた交換留学の目標をもう一度目指して、2017年後半に日本で交換留学の生活を始めました。
その後獅童さんが病気で入院したことを知り、私もずっと復帰を祈っていました。そして2018年4月に、幕張メッセで獅童さんの復帰公演の超歌舞伎を見ました。「俺は!帰ってきたぞ!」と現地で見れて、そこからはもう泣きすぎて記憶が飛んじゃったぐらいです。
当時書いた繁体字記事はこちらです。

交換留学を終えて、2018年後半から2019年はずっと台湾にいましたが、台湾の北師美術館からの依頼で、台湾で超歌舞伎講座をやることになりまして、その日初音ミクのファンだけでなく、一般の方、それから坂東玉三郎さんのファンもいらっしゃって、本当に大盛況でした。

2020年から日本の企業に就職して、北海道で暮らすこととなり、コロナで結局超歌舞伎がリアル開催できなかった年は、正直超歌舞伎が続けてもらえるかどうかが心配でしたが、2021年再度開催することとなり、しかも南座でもやるとのことなので、南座へ絶対に行きたいと思って京都へ行きました。そこで初めて獅童さんが「海外公演やりたい」とおっしゃっていて、私も思わず「台湾にもきてください」と返してしまいましたが、今振り返ってみると、あれは自分の生きる力をいただきたいから言い出したものと言っても過言ではありませんでした。

当時私は精神科に通っていて、薬も毎日飲んでいた時期で、正直日本での暮らしがとても辛くて辞めたかったです。もし獅童さんが台湾行きますって言ってくれるのであれば、もう少し頑張れるじゃないかなと思って、実際獅童さんが私がいなかったで台湾絶対行きますとおっしゃっていたらしく、私も友人たちのツイートを読んでもう少し頑張ろうと思っていたが、残念ながらその後心も体もボロボロになって、2021年11月末に台湾へ一時帰国しました。
台湾に戻っても散々親に「日本やめたら?」と言われてすごく辛かったです。もうやめようと思った途端に、「私、まだ獅童さんに直接感謝の気持ちを伝えていない」と思って、あと千穐楽の話私実際に聞いていなかったので、やはり直接自分の目と耳で確かめたい気持ちがあって、ひとまず日本に戻ろうという考え方に至りました。

そこから転職もできて、生活もだいぶ楽になりました。そして超歌舞伎2022幕張メッセでの公演では、初めてリアルタイムで獅童さんが台湾のこと、そして台湾へ行きたいという話を聞けて、喜びすぎて家で大ジャンプしていました。幕張は配信で見てたので、感謝を込めて今年は少なくとも劇場では四回見ようと思って、東京新橋演舞場の公演も二回チケットを取りましたが、予想よりも早く獅童さんと再会できました。しかも二日連続で台湾のことを紹介してくださいました。もうこの時点で感謝が溢れていましたが、一年越しに立った南座の地でも24日のリミテッド、それから25日の大千穐楽で台湾のことをたくさん語ってくださいました。

ちゃんと生きて、再び南座で超歌舞伎を見れた喜びと、獅童さんから「エンターテイメントに国籍、国境は関係ない、みんな繋がっているから」という素敵なお言葉とプレゼントをいただいて、もうこれ以上の幸せがないほど幸せを感じて大泣きしていました。

本当に、生きていて良かったです。

こうしてエンターテイメントに救われている人間はちゃんと存在していることを知っていただきたいので、この文章を書きました。そして公演終了後、私は「台湾公演が実現するまで頑張って生きていく」と誓えましたので、台湾公演が実現するまで精一杯超歌舞伎を応援し続けます。台湾の友達と一緒に、台湾で超歌舞伎ファミリーを待っています。

生きていく力を与えてくれてくれて、ありがとうございます。
台湾公演、いつまでも待っています。

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