Richard Avedon 再考 その2

1. ファッション写真に残した功績

 これを先に書こうと思ったんですがw、膨大な内容になるのでまた後日に。ただ、どうしても触れておきたいのがこの作品

 この作品は初期の作品ですが、一つは外ロケであること、もう一つは動きを高速シャッターで止めること、そしていい表情のモデルさんを撮っています。そういういみではファッション誌の定番になっていますね。大事なのは「このファッションだとこんな笑顔になれる」という幻想がこの作品にはあるんです。

2. ファッション写真からポートレートへ

 これは時期的にファッション<>ポートレートの影響では逆かもしれませんが、中期のAvedonの代表になる白バックです。

人は無の中に生きていて、過去にも未来にも存在していない。白バックは人生の無の象徴で、そこでは被写体の表情に本人の本質が象徴的に表れる

「写真は引き算である」ということばが代表されるようにポートレートを取る際に背景を引き算することによって被写体をひきたたせることに専念したのがこの言葉だとおもいます。同時にファッションで背景を引き算すると、衣服と人物が強調され、さらに人物の表情が強調されてきますね。そして人物の表情は断片的ではあるが、その人の人格を示す「ヒント」になるということでしょう。


3. ポートレートをAvedonはどう定義したか?

 さて、究極はAvedon自身の言葉を引用してみますが、さすがは天才、そう簡単には分からないような言い方をしていますねw

 3.1 代表的なマリリン・モンローのポートレート

 Avedonのポートレートといえばこの作品。この作品を見る前に知っておかないといけないのがマリリンモンローのほとんどの写真は商業的な笑顔であったということ。すなわち、彼のポートレートの本質は「その人の別の面を発見する」ということだと思います。

 3.2 著名人のポートレートと群像

  さて、Avedonは有名どころもとっていますね。僕の好きなジャニスジョプリンの作品とか。

 ここでも元気でアクティブなジャニスよりくたびれたジャニスもとっています。

 さて著名人などはこういうところでしょう

カメラの後ろに立ち、向こう側にはヘンリー・キッシンジャーがいたあの日のことを私は本当に何も覚えていない。彼もまた覚えていないと思う。しかしそのときの写真は今もここにあり、私のほうでどう好意的に撮影してみても彼が望むような写真にはならなかったことを証明している、いや私でさえそんな写真にするつもりはなかった。写真とは不思議で恐るべきものだということを思い出させてくれる一枚だ。

 この文章だけではピンと来ないかもしれないのですが、ここでは圧迫撮影とでもいうべき撮影法をしているそうです。どうも、カメラの前にたち、ずっと黙りこくって、ときおりシャッターをおすという撮影みたいで、指示も何もなくただ、カメラの前にたつだけていうw。 この手法だとモデルはどうしていいかわからずいあらいらしてしまい、自分の本性が出てしまうというやり方ですね。まあ、ファッションでは絶対やらないでしょうし、僕もしませんw

 ただ著名人は、「撮らされる」ことが多いのでそれをさけてその人の人格が出るようなやり方ですね。

 3.3 市井の人のポートレート

 さてNothing Peasonalのところでも書きましたがAvedonはルポ・ルタージュとの親和性も高く、それをポートレートに組み込もうとしています

   3.3.1 Irving PennのSmall Trade

 その前に触れておかないといけないのが写真の神様 Irving Penn。今回初めて知ったんですがPennってアレクセイ・ブロドヴィッチ(Avedonのお師匠さん)に師事してたんですね。1938年に卒業とあるから、Avedonの兄弟子にあたるでしょう。Pennはブロドヴィッチの「ハーパース・バザー」からはなれVogueで活躍しますが、そこでSmall Tradeという写真集を出しています。
https://www.amazon.co.jp/dp/0892369965

日本語だと「小売人」というところかな? これをスタジオや職場で撮影して当時の職業人の制服などがあつめられています。

          3.3.2  ファッションとは何かという逆説的なAvedonの定義

  ということでここからが本題です。ファッションに従事していたアヴェドンが気付いたことはなにか? ここからは推測ですが、ファッション(Irving Pennは制服ですが)=アイデンティティということです。この場合のアイデンティティ(同一性)はあまり哲学的にならずw、「自分らしさ」とか「自分を説明するもの」ぐらいにとらえてください。たとえば『あなたは何ですか?』ときかれたときに、僕なら「TTXです」とか「写真好きです」とか「カメラ好きです」とかw、まあそういう風に答えますがその答えの部分がアイデンティですね。

 Avedonはファッションはそれをまとう人を説明するという哲学的なところに行きついた、ていうのが僕の仮説です。

   3.3.3 ルポ+ファッション+ポートレート=In the American West

 さて僕が In The American Westを彼の最高傑作としたかこれである程度推測がつくかと。彼はもともとルポに親和性が高く(その証拠をNothing Peasonalでの精神科病棟で示しました)、それでアメリカ西部の職業人を職場で撮影しています。これはPennがスタジオ中心なのに対して、Avedonは相手の職場にでむくかんじで撮影をしています。このあたりはAvedon At Workが詳しいです。ここではカメラ(8×10)で長玉で撮影していますが、職場の近くで白のバック紙を垂らして撮影ですね。これははじめてこの本を見たときに知らなかったんですが後でしってびっくりでした。

 どうも、ここでは撮影による圧迫感を限りなく排除し、職場での顔をルポ的に撮影することが目的であったようです。背景を白にしたのはファッション撮影からのながれがあり、それがこのばあいは制服と人物を強調することを十分狙っていた、と考えます。これによって市井の無名なモデルがきちんと説明できることをAvedonは知っていた。つまり、制服(=ファッション)がその人の職業的アイデンティティを表すことが分かっていたということです。そしてもうひとつポートレート作家として、その職業を選ぶ人の人格をそこにあらわそうとしたという点も見逃せません。この写真集はAvedonのポートレート作家としての金字塔でしょう。

4  Avedonの名言から見るポートレート

 さて、最後になりましたがAvedonのポートレートに対するくだりを載せておきます。

私の写真は目に見えない部分まで掘り下げていない。内面になど行っていない。表面を読み取った写真なのだ。私は表面的なものに大きな信頼を置いている。良いものは手がかりに満ちている。しかし顔立ちに美しさに見とれてしまったり、ひとつの美点にとらわれてしまったりすると、私はそこに本当にあったものを見失ったような気分になる。他人が決めた美の基準や、モデル自身のアピールポイントに惑わされてしまうのだ。しかし、それはたいてい最高ではない。だから撮影はいつも戦いになる。

原文はこちら

My photographs don’t go below the surface. They don’t go below anything. They’re readings of the surface. I have great faith in surfaces. A good one is full of clues. Whenever I become absorbed in the beauty of a face, in the excellence of a single feature, I feel I’ve lost what’s really there…been seduced by someone else’s standard of beauty or by the sitter’s own idea of the best in him. That’s not usually the best. So each sitting becomes a contest.

 Avedonは非常に冷徹というか客観的というか、これだけ表情やひととなりにこだわって(いるようにみえる)作品を残していますが「目に見えない部分まで掘り下げていない」というような謙虚な言い方をしていますね。確かに「写真は内面を写すか」ということに関して、客観的に言えば"No"だと思います。でも我々多くは「写真ってキャラがでるよね」っていいますね。

 そこでAvedonはこういう言い方をしています。「良いものは手がかりに満ちている」(A good one is full of clues)。本当にいい写真はその人の内面そのものを表していないがそれを鑑賞者に推測させる手掛かりにみちているんだよ。

 写真が芸術であるということは鑑賞者の想像力を掻き立てるものを内包すると考えると、ポートレートがアートでありAvedonがこだわったポートレート写真家である理由がここにあると思います。

 へっぽこフォトグラファーですがポートレートを目指すものとして、その人の人となりを写真に残したい、そう思いながら僕はシャッターをおしています。


長文ご高覧いただきありがとうございました。

気が向けば続編書きますwww


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