ハンドメイドの知的財産について調べてみました【PART1】(特許・実用新案・意匠)

 僕はレザークラフトでハンドメイド作品をつくっていますが、知的財産については、特許権や商標権、著作権など、どの権利が何を守っているのか、ほとんど知りません。

 ハンドメイドを楽しく、長く続けていく上でも、基本的なことを知りたいな、という思いでハンドメイドの場合に絞って知的財産権について調べてみました。

1. 背景

①ハンドメイド作品を販売しようとしたら、特許者から警告が… 

僕は趣味でレザークラフトをしています。もうひとつの趣味でバイクいじりも好きだったので、「バイクのチェーンを革で作ってアクセサリーにしたい!」という思いつきから、レザードライブチェーン『CHAINY』(名前は嫁が考えてくれました)を作りました。

 作品をInstagramに公開したところ、ありがたいことにフォロワーの方から「販売してほしい」という声を、思いのほかいただいたので、販売に向けて動き出していました。

 しかし突然、同じようにハンドメイドで、革でバイクのチェーンを作成・販売されているS氏という方から「特許と商標があるから販売しないでほしい」とのコメントが書き込まれました。

 S氏は、フランスでハンドメイドショップを営んでいるらしく、特許・商標はフランスの特許庁にあたる『INPI』というところに登録されているとのことでした。

 もちろん、僕がCHAINYを作り始めたころは、S氏の作品が存在することを知りませんでしたので、自分のアイデア・考えでCHAINYを作りあげ、後ろめたいことはありません。

 しかし、その時は「特許・商標となるとオオゴトになるな」「もし訴えられでもしたら、好きなレザークラフト・ハンドメイドを続ける気がなくなってしまう…」と思い、販売は諦め、プレゼント企画として作品をフォロワーさんに抽選でプレゼントすることにしました。

②諦めきれない
 販売は諦めながらも、CHAINYを作り続けInstagramやTwitterで公開していると、フォロワーの方々から「販売してほしい」といった声をコメントやDMで多くいただきました。

 何度も言いますが、僕自身もCHAINYはS氏の作品をパクッたわけでもなく、自分自身で工程やパーツ、材料を試行錯誤して作りあげました。

 それにCHAINYを作っているときが一番楽しかったので、作品に共感してくれる方に販売できて喜んでもらえれば、ハンドメイド・レザークラフトを楽しく長く続けられると思っていました。

 さらに、S氏は特許権・商標権という独占的な権利をもっているとのことでしたが、その特許番号や商標番号については、尋ねたものの教えてもらえていませんでした。
(後日、再度DMを送っていますが教えていただけてません。)

 また、ありがたいことに一部の知的財産権に詳しいフォロワーの方からもDMやTwitterのリプライで「販売しても法的に問題ない」とのアドバイスもいただいていました。

2.目的 

 

僕はハンドメイド作品をつくっていますが、知的財産については、特許権や商標権、著作権など、どの権利が何を守っているのか、ほとんど知りません。

 なので、まずはハンドメイドを続けていく上でも、基本的なことを知りたいな、という思いでハンドメイドの場合に絞って知的財産権について調べてみました。

 そして知的財産のことで、相談に乗ってくださったりアドバイスを頂いたフォロワーの方々へ報告できればと思い、文章にまとめました。(読みにくい箇所があったらすいません)

※海外での特許や商標、知的財産権について

 ちなみに、海外で登録されている特許権などの知的財産権は、国際的な条約(パリ条約やハーグ協定など)があり、条約に参加している国の間で守られています。

 しかしそれは、ある一つの国で登録した特許や商標などが、すべての国で同じように守られるというわけではありません。

 例えば、日本で他の人に使われないように特許を守ってもらいたいと思ったら、日本の特許庁で特許を登録をしないといけないのです。

 国際的な条約で決めていることは、別の国の人でも、その国の人と同じように権利を守ること(例えば、フランスで日本人が登録した特許でも、フランス人と同じ期間、同じ要領で特許権が守られる。要するに別の国の人だからといって自国民の人と区別されない)や、ある国で特許出願すれば、別の加盟国での出願が簡易化される(特許は出願の手順だけでも、かなり煩雑です)といったレベルになります。

 なので、ハンドメイド作品を日本国内のみで販売等するのであれば、日本の特許法などで問題なければいいということになります。

それでは、ここから本題の知的財産権について説明していこうと思います。

3.どんな権利が法律で守られているのか。

 特許や商標など、知的財産権の法律にも種類があって、ハンドメイド作品はどの法律に当てはまるのでしょうか。

 テレビやニュースなどでよく聞く知的財産といば、特許法、実用新案法、意匠法、商標法、そして著作権法があると思います。

 さらにあまり聞いたことがないかもしれませんが、種苗法、不法競争防止法、独占禁止法があります。

 種苗権は植物の新品種を作った人の権利を守ることが目的なので、ここでは割愛します。

 それぞれの法律が保護しているものは下のようになります。 

知的財産と保護対象
特許法:技術に関する「アイデア」(発明)
実用新案法:物品・形状、構造等の「考案」
意匠法:工業的な物品の「デザイン」(意匠)
商標法: 商品やサービスに使用する「マーク」(商標)
著作権法:文芸・美術・音楽的な創作的な「表現」(著作物)
種苗法: 植物の新品種
不正競争防止法: 商品等表示、商品形態、営業秘密等
独占禁止法: 私的独占、不当な取引制限、不公正な取引方法※この項のみ保護対象ではなく禁止事項
(『知的財産管理技能検定 公式テキスト3級[改訂10版]』知的財産教育協会編集 P.17より引用)

 ハンドメイド作家さんたちは、それぞれのアイデア・発明や形状、デザインにこだわった作品を日々作っています。
 そう考えると、ハンドメイド作品もこれらの知的財産権で守られていそうな気がしてきます。

 次からは、それぞれの法律でハンドメイド作品が守られるのか?を考えていきます。

4.ハンドメイドと特許

 特許法は、苦労して開発した技術の「アイデア」(発明)を、他の人に勝手に使われないように守るものです。
 結論から言うと、ハンドメイド作品は特許法で守ることはできないはずです。

① ハンドメイド作品は発明か?
 特許は「アイデア」(発明)でなければいけませんが、ハンドメイド作品自体の「アイデア」(発明)は、そもそも特許法上の発明に当てはまらないことがほとんどと言えるからです。

 特許法上での発明とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう」と決められています。

 なにやら難しい言い方をしていますが、ハンドメイドの作品自体は、「技術的思想」を満たすことが難しいと思われます。

 技術的思想とは、「技術」を第三者に客観的に伝えることができるということです。つまり、その方法を使えば誰がやっても同じものが作れる、というわけです。

 身近な例で言うと、僕はロッテの『雪見だいふく』が大好きなんですが、雪見だいふくの製造方法も特許があり(特許4315607号)その特許の製造方法を使えば誰でも、低温でもカチカチにならない柔らかい餅に包まれたおいしい雪見だいふくを量産することができます。

 一方、ハンドメイド作品の場合は、作り方が分かっていても、誰でも作れるわけではなく、ある程度の技量や経験が必要になってくるはずです。

 いわゆる職人として上達できないと作ることができないようなものは、特許でいう発明とはみなされないのです。

 ちなみに、今までになかったカシメ方法や、裁断の機械、簡単に取り付けられて丈夫なボタンなんかを考えた場合は、ハンドメイドでも「発明」と見なされるはずです。

② 特許登録の条件を満たすか?
 特許として登録されるためには、特許法上の発明であると同時に、いくつかの条件を満たす必要があります。

ハンドメイド作品自体は、そもそも発明にあたらないはずですが、下記の条件を満たすことも難しいと思います。

条件1 産業上利用できるか
 特許法の目的は、「特許を守ることで産業の発達を促すこと」なので、産業上利用できることが、特許として登録されるためには必要です。

 ここで言う産業とは、製造業以外にも農業や運送業、サービス業も含まれるため、ハンドメイドも含まれると思いますが、僕では判断しきれないので、後日専門家に相談予定ですので、その結果は改めて報告します。

条件2 新規性があるか
 特許として登録されるためには、世界初であることが必要です。

特許出願前にどこかの国で、本やテレビ、SNSなどで既に公開されていれば、新しいものとはみなされません。

 ちなみに特許出願前に自分でSNSに公開した場合もアウトです。(仮にその時点では新規性が認められても、特許取得後、出願前に公開されていたことが証明されれば、その特許は無効になってしまいます。)

 ですので、もし特許を受けれそうな発明をした場合は、自分でSNSに公開するまえに特許出願することをお勧めします。

条件3 進歩性があるか
 簡単に思いつく「アイデア」(発明)は、特許として登録されないということです。

たとえば、空気清浄機付きエアコンなんかは、もとからあった空気清浄機とエアコンを組み合わせただけなので、進歩性がないと判断されます。

 つまり元からあるものを、少し変更したり、組み合わせたり、材料を変えただけでは特許をとれない、ということになります。

 ハンドメイド作品でも、名刺入れを木で作ってみたり、布や革、金属などの材料を変えてみたりしただけのものは特許登録の条件である進歩性を満たすことはできないということです

 以上から、ハンドメイド作品自体の「発明」(アイデア)は、そもそも特許法上の「アイデア」(発明)でもなく、特許と見なされる為の条件にも当てはまらないので、日本で特許登録を受けることは難しいと思われます。

**

5.ハンドメイドと実用新案法

 特許のような高度な発明ではない「考案」レベルのものを守る知的財産法として、実用新案法というものがあります。

 身近な例でいうと、コンビニ店員さんが小銭の枚数を数えるのに使う、コインカウンターや、ミシン目に指を突っ込んで簡単に箱をつぶせるティッシュ箱などが、実用新案法で守られています。

 この実用新案法でハンドメイド作品が保護されるか?というと、やはり難しいと思います。

 というのも、実用新案法でいう「考案」とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作」と決められていて、やはりハンドメイド作品では、特許法と同じように技術的思想を満たすことができないからです。

6.ハンドメイドと意匠法

 デザインという知的財産を守る法律として、意匠法があります。
工業製品の装飾的、美術的に優れた意匠(デザイン)や外観が、勝手にマネされないように守るものです。

身近なもので言うと、自動車のデザインや、ペットボトルの形状などが意匠登録されています。

 装飾的、美術的なデザインが守る法律なので、意匠法でならハンドメイド作品も守ることができる!と思えそうです。僕もそう考えました。

しかし、どうやら意匠法でもハンドメイド作品を守ることは難しいのではないかと思います。

意匠法で守られるためには、「物品の形状」であることが必要なのですが、「物品」とは、工業的に量産可能であることが必要です。

 部分的な意匠も認められることから、抜き型などを使って、ある程度量産して、ハンドメイド作品を作っている場合は、工業的に量産可能と見なされるのかもしれません。

 しかし手作業で切りだしたり、削りだしたりするような作品の場合は意匠法でいう「物品」に認められないと思います。これについては僕では判断しきれないので、後日専門家に相談予定ですので、その結果は改めて報告します。

 また、意匠法で守られるには「物品」として認められるだけでなく、下記の条件を満たさなければいけません。

条件1 新規性があるか
特許と同じように、意匠として登録されるためには、世界初であることが必要です。

どこかの国の、本やテレビ、SNSなどで既に公開されていれば、新しいものとはみなされません。

特許法と同じく、出願前に自分でSNSに公開した場合もアウトです。

条件2 創作非容易性
 簡単に思いつかないデザインでないと意匠登録はできない、ということです。

 今までにあったデザインを参考にしたものなんかは、簡単に思いつくものということになります。

 僕の作っているバイクのチェーンを革で作った、というデザインも今まであったチェーンを模しただけなので、創作非容易性がない、ということになります。

 他にも、素材や材料を変えただけのデザイン、今までにある何かと何かを足したデザイン、組み合わせを変えただけのデザインは簡単に思いつくものということになります。

7.まとめると…

 以上のように、特許法、実用新案、意匠権なんかは、主に産業を守るためにあるので、ハンドメイド作品を守ることは出来ないのではないか、というのが調べてみた結果です。

 素人が本を読んで調べただけですので、後日、不明点やあやふやな点を専門家に相談します。

結果が変わった場合や、専門家の見解をこの記事を編集したいと思います。

 商標権、著作権については、現在まとめているので、完成次第アップ予定です。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

参考文献

・『知的財産管理技能検定3級公式テキスト改訂10版』 
著:知的財産教育協会 出版:アップロード

・『レシピ公開「伊右衛門」と絶対秘密「コカ・コーラ」、どっちが賢い?』
著:新井信昭 出版:新潮社

・『パクリ商標』
 著:新井信昭 出版:日本経済新聞出版社

・『著作権トラブル解決のバイブル!クリエイターのための権利の本』
 著:大串肇/北村崇 出版:ボーンデジタル

・『はじめての著作権法』
 著:池村聡 出版:日本経済新聞出版社

・『これだけは知っておきたい「著作権」の基本と常識』
 著:宮本督 出版:フォレスト出版

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?