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カカオバンクとカカオペイのIPO

韓国カカオの「フィンテック兄弟」が昨年、相次いで大型上場しました。

KakaoBankは2021年8月6日、Kakao Payは2021年11月3日にそれぞれ上場しています。IPOサイズは公開価格ベースでそれぞれ約1.8兆円、約1.2兆円。人口が日本の半分くらいしかいない韓国で、一つの企業グループからこれだけの規模のIPOが相次いで出てくるというのは驚異的だと思います。

韓国のAmazonと言われるCoupangが2021年3月にNASDAQで大型上場(公開価格ベースで約7兆円)を果たしたのは記憶に新しいですが、カカオ兄弟はいずれも地元韓国での上場でした。金融・決済関連の事業は国家インフラ的な側面を持つことや、地場の法規制に大きな影響を受ける業界という特殊事情もあるようです。

そんなKakaoBankとKakao PayのIPOについて2回シリーズのnoteを書いてみようと思っています。今回はKakaoBankについて!

KakaoBank IPOの概要

KakaoBankとは?

2016年に設立されたカカオグループのインターネット専業銀行です。日本で言うところの楽天銀行みたいなイメージでしょうか。顧客基盤は1,600万人を超えるようです。(ちなみにカカオトークはアクティブユーザー数が4,600万人というデータもあり、単純計算すると韓国の人口の9割近くが日常利用しているチャットアプリということになります。)

親会社のKakao Corpが27.3%を保有(おそらく上場後の持分)、韓国大手総合金融グループのKB Financialも主要株主に入っています。

事業モデル

2019年度には黒字化を達成し、着々と収益性を改善してきているようです。2020年度はトップライン収益が約800億円に対して当期純利益が100億円程度。

ネット銀行としての「オンラインバンキング事業」と「プラットフォーム事業」の2大セグメント。特に後者が成長ドライバーとなっており、証券口座開設代行や提携ローン、提携クレカなどへ送客して受け取る手数料が主な収益源。提携パートナーから見れば広告費や販売チャネルのコスト削減につながり、Win-Winの関係となっているようです。2021年上半期のプラットフォーム事業の収益貢献度は全体の約8%。

IPOの資金使途には新規事業として、住宅ローンや自動車ローンをはじめとする新規商品展開が含まれており、このあたりはまさに日本の住信SBIネット銀行や楽天銀行と近いものがありそう。会員数が頭打ちとなるなか、金融サービスの充実による多角化戦略で収益性の向上を狙うということでしょう。

バリュエーション

公開株価は39千ウォンでしたが、初値はこれより38%高い53.7千ウォン、初日の終値は79%高い69.8千ウォンでした。2022年1月7日現在の終値は55千ウォンですので、足下のNASDAQやマザーズが大きく崩れる中でもKakaoBankはギリギリ上場初値をキープという状態ですね。

日ごろお世話になっている某証券会社さんによれば、韓国証券取引所に上場する際の目論見書は、類似企業の選定ロジックが細かく記載されているそうです。KakaoBankについては以下とのこと。

  1. Bloombergの産業分類(Banks, Wealth Management, Financial Transaction Processors, Mortgage Finance):870社を選定(グローバル)

  2. 自己資本5億ドル以上、時価総額10億ドル以上:285社

  3. 3カ年CAGR 15%以上(営業収益):37社

  4. 主力事業の類似性(オンライン・モバイルの与信ビジネスやB2C金融プラットフォーム事業):4社

⇒ 米Rocket Companies、伯PagSeguro、露TCS Group、瑞Nordnet

銀行業は資本規制が厳格である上に資本規模が事業成長を左右する重要な変数の一つという背景などからPBRを採用。これらCompsのPBRマルチプルを適用した後にIPOディスカウント率をかけて公開価格のレンジを算出しています。

公開価格のインプライドPBRが3.4x程度なので、日本のメガバンクのPBRがのきなみ0.4x~0.5xくらいで低迷している状況と比べるとかなりの成長期待がかかっていると言えます。
韓国の人口規模が日本の半分程度しかなく、かつ先進国なので今後のGDP成長率も人口増加率も高くないと思われる中で、銀行業でこれだけのマルチプルというのはかなり健闘していると率直に思います。

国民の大多数をおさえているカカオトークのプラットフォームとの相乗効果を創出しながら、ユーザーフレンドリーなUXUIで若年層をうまく獲得し、テクノロジーの力でレガシーな銀行業界をディスラプトしていくことへの期待ということでしょう。

Kyashは「モバイルオンリー」のデジタルバンクを目指しています

Kyashも規模はまだまだ小さいながら、目指しているのはデジタルバンクの世界です。

しかし、楽天銀行や住信SBIネット銀行、ソニー銀行といった「インターネット銀行」とは一線を画します。

基幹システムの違い

ネット銀行は従来のレガシー銀行スタイルとは異なり、インターネットWebサイトの取引画面を通じて、支店を持たない低コストオペレーションを実現した点でイノベーティブ「だった」と言えます。

しかしネット銀行の裏側で走っている基幹システムは基本的にはメガバンクと同様のレガシーなものだと思っています。メガバンクの基幹システムについてはみずほさんが相次ぐトラブルで相当苦労されていますが、他の銀行もみな一様に膨大なコストと人的リソースを割いてオペレーション&メンテナンスをしています。また、かなりヘビーなシステムなのでサービスの仕様変更も機動的に対応していくのは容易でないようです。

Kyashは創業以来独自の決済インフラを構築してきたことにより、ネット銀行よりもさらに低コストの超効率的なオペレーションを実現しています。この観点で、前回の記事で書いたNubankがビジネスモデル的にはKyashの目指す姿にダイレクトに直結するイメージです。

UXUIの違い

Kyashのサービスは「インターネット専業」のWebサービスよりもさらに一歩進んだ、「モバイル専業」になります。

ネット銀行もモバイルアプリを開発していますが、やはりこれまでWebサイトのサービスをメインに開発してきたこともあり、アプリに特化してゼロからUXUI設計したというよりは、Webサービスをアプリに移したような印象を受けることが多いです。(個人的な感想です。)

その他

違いを挙げだすと他にもいろいろありますが、許認可も大きな違いです。ネット銀行はいずれも「銀行業」として資本規制や他業禁止の制約なども受けますが、Kyashは「資金移動業」などFintech向けの比較的ライトな許認可の範囲内で「決済」を中核とした事業を推進しています。

ということで、「モバイルバンク」を目指すKyashと「ネット銀行」は実はいろいろな部分で違いがあり、今後のサービス展開の拡張性、成長戦略は大きく異なるものと考えています。

いかがでしたでしょうか。次回はKakao Payについて書こうと思います。
ここまでお付き合い頂き有難うございました!!

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