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魔術と技術

TL; DR

顧客からDX、AI等の言葉から期待されるものはさながら魔術である。その期待値に明確な基準があるわけではなく、顧客の思い通りであったら成功、思い通りでなかったら失敗となる。
なぜそのようなことが起こり、さらに言えばDX案件、AI案件は大体失敗で終わる。失敗にならないためには何に気をつけるべきなのかを考えてみた。

魔術 vs. 技術

僕は昔からこれらの言葉を使って例えることが多いが、どちらも(おとぎ話の上では)再現可能なものだと考えている。しかし現実的に再現できるほどに習得できるものが技術であり、習得できないものは魔術である。そして習得できたのであれば、それはどうしてそうなのか自分なりに説明できるということにもなる。ただし、それを常人が理解できるとは限らない。

魔術か技術か

例えば、次の例は魔術であろうか?技術であろうか?

  1. 【日常生活】テニス

    1. 近所のテニススクールの初級・初中級対象の試合で優勝する。→技術

    2. ウィンブルドンで優勝する(フェデラーやジョコビッチにとっては技術だが、一般人には魔術。なので、テニスやサッカーでスーパーショットを見ると誰もがファンタスティックと良う。)

  2. 【よくあるITの現場】AWSのインフラ構築と障害時の再構築(Repaivement)

    1. Terraformで運用されており、その設定ファイルがある。→技術

    2. 設定書がある。→魔術

    3. 設定書がない。→魔術

ここで注意したいのが、かつては技術だったが、魔術となってしまったものがある。それは2-2インフラ構築で設定書を書くことである。40−60代のおじさんエンジニアの常識であり昔はそれが技術であったが、今はより優れたIaCの技術があり、それで実現できるコスパや顧客要望を満たすことができないし、万が一書き漏れがあればそこは当然再現不可能なので魔術に分類せざるを得ない。

DXは魔術か技術か

いつからDXという言葉が流行り始めたのだろうかと考えると、おそらく経産省がこのようなレポートを出したときからのように思えます。2025年からは急激に労働人口が減るため、それでも事業がサステイナブルな仕組みと状態を作り上げなければいけない。そのためにDigital Transformationをするのだと。

魔術としてのDX

現在の日本はどういう状況であろうか?誤解を恐れず言えばDXを謳うソリューションベンダーに丸投げである。そしてこともあろうに何をどうTransformしたいのか伝えることもない。ばーんと作業効率10,000倍良くしてくれとか、ここの作業員の数を0にしたいとかそういったKPIが出てくればまだマシな方である。たとえ経営層がそれを望んでいても発注するビジネスサイドや情シスサイドが何をどうトランスフォームすればいいかわからなければ、結果、現存のシステムの作り替えになるか、ベンダーの提案に乗ってロクなカスタマイズも行われずに、運用にフィットしない効果の薄いものになってしまう。
自分たちの業務に当てはまるDXは自分たちで考えなければいけない。そのためには今何がボトルネックであり、どう言った技術がそれを解決するのか?その時正の側面だけでなくきちんと負の側面に見合うことも重要である。それをコンペンセーションする仕組みが考えられないのであれば、デグレになるだけだ。それを解決でするのはベンダーではない。

技術としてのDX

僕は縁があってエストニアの会社と働く機会に恵まれた。エストニアはDX先進国と言われているが、実際はどうなのだろうか?インターネットの速度などインフラ面でいったら日本の方がはるかに進んでいる。エストニアでとてもじゃないがFPS等瞬発力が求められるネットゲームなどやる気にもならない。それでもしかしエストニアはDX先進国である。
東に国境を接するロシアはウクライナ侵略戦争真っ只中である。そんな物騒な国に隣接しつつ、人口はたった130万人しかいない。そんな中で日本のようなペーパーワークをしていたら国自体がサステイナブルでなくなるのである。そのためにDXを進めざるを得なかった。人がやる必要のないものは徹底してデジタル化し、法律として一度政府が聞いたものは2度聞いては言えないというものすらある。なので、ホテルや病院で名前や住所をエストニア国民は聞かれることはない。聞かれる(正確に言えば、読み取られる)のは日本のマイナンバーに相当するCitizen IDだけであり、必要に応じてOpt-inのためのPINコードをスマホに入力する程度である。
こうした今置かれている状況に対して、何がボトルネックになっているのか、どうすれば100倍、1,000倍、10,000倍の効率になるのかということを考え、実装し、運用する。これこそが技術としてのDXなのである。

【参考】技術としてのAX

皮肉にも僕はAnalog Transformationという言葉を新たに広めたい。皆さんはサイゼリアに行ったことがあるだろうか?最近メニューをオーダーする方法が変わった。グランドメニューから顧客が紙の伝票にグランドメニューに書かれている番号とその数量を書かせるのである!いちいち店員が注文をとりに行くより、紙を受け取りに行く方がはるかに短時間で済む。
もしこれがデータベースのトランザクションであったらなら、店員1人はお客のオーダーを取っている間、ずっとロック中で他のことができないのである。こう言ったボトルネックを潰していく姿勢には感服させられる。

AIは魔術か技術か

AIも同様だ。今時のAIである機械学習は、多くのデータを蓄積し、それを可視化し、分析したのち、過去の傾向から将来の展望を得る。それをAIエンジニアっぽく言えば膨大な学習データからモデルを作り、社会実装するということになる。
Generative AI自体は少なくとも2020年にはガートナーのハイプサイクルでも次に来る技術として期待が持たれていたが、ChatGPTはその社会実装として絶大なインパクトを社会に与えた。さもなんでもやってくれる魔法のような印象を与えた。

Chat GPTは魔術か技術か?

Chat GPTのエンジンとなっているGPT(Generative Pretrained Transformer)がどういう理屈かわかる機械学習エンジニアを除けば間違いなく魔術である。一般の人がどう言ったアルゴリズムで長い文章を要約しているのかなどわからないし、そのロジックを調べることもないだろう。実は要約のロジックなどはちょっとググるとすぐ出てくるのでもしご興味を持たれたのであれば下記を一読していただきたい。

翻訳にしかり、言葉からそれっぽい画像を生成したり音楽を生成したりするのも次の拡散モデルについて理解できるのであれば技術となりうる。その一方でそれが理解できない以上は再現もまた不可であり、どうしてそうなったのかわかるわけもない。これを解き明かすにはまず次に示す本を読んで拡散モデル(ディフュージョンモデル)を理解し、そのためには高等以上の数学を理解している必要がある。

技術としてのAI

技術としてAIを習得することは一朝一夕でできるものではない。Chat GPTであっても、それを技術として再現可能になるためにはそれがConversational Chatbotsであることを理解し、そのためにはLLMを理解し、Fondational Models、Generative AI、その上にはそもそも機械学習・強化学習等々学ぶことはたくさんある。

https://www.gartner.com/en/topics/artificial-intelligence より引用

勉強の環境を整えるのすら正直しんどい。以前手持ちのGPU付きPCにDockerで機械学習をするための環境を構築したが、えらい時間がかかりスタート地点につくことすら大変であった。それでも技術としてAIを使いたいのであれば必要なことなのである。

まとめ

DX案件やAI案件でお客が求めるものは抽象的であることが多い。そもそも依頼内容すら実質ないことすらある。これは今コモディティ化したAIの社会実装があまりにもインパクトが大きく、それと同等のインパクトのものが安易にできてるのではないかと勘違いされているからだと思う。DXは未だ浸透していないが、なんとなくDXをすれば今の問題が解決されると夢見てる人たちが未だにたくさんいる。
今一度現実を直視してみたらどうだろうか?ビジネスに関わる人はまずは自分たちが何がボトルネックになっており、どう解決したいかというところまでは丸投げせずに考えてみてはいかがだろうか?そして我々技術者はどんなにAWSやGCP、Azureが簡単にAIできますといったサービスを提供したとしても、自分が提供するサービスに責任を持つために技術を学ぶ必要がある。
QiitaやStack Overflowを探せばやり方はすぐ見つかる。なんならGitHub Copilotは調べなくても、こういうことをやりたいんでしょ?とコードや設定を提案してくれる。そのうちDevinみたいなAIがシステム開発すらしてくれる世の中になるだろう。でも根っこの技術は人間がきちんと仮説をたて、試行錯誤し、それがサステイナブルか分析しなければいけないのである。それが技術ではないか?もう一つ、魔術には大きな負の側面があることを忘れてはならない。それは、魔術を利用するということはそこに依存が発生するということだ。魔術を利用することに慣れきってしまうと、それがなくなったとき、いやその仕様がかわたっときに自分たちにも大きな影響があり、それは大体負の影響である。これはサステイナブルとはとても言えない。だから僕たち技術者は安易に魔術を利用するのではなく、技術として突き詰めていく必要があるのだ。

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