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たばこのお使い(2)

父の名誉のために言うが、父の若かりし頃、たばこは駅のホームや会社オフィスでも吸えるおしゃれなアイテムだったらしい。
その頃、セブンスターといえば一番軽いタバコで、ハイライトなどの重いタバコを吸いたくない父にとってはうってつけだったようだ。

最寄りのたばこ屋さん(今でいうコンビニのような店)が遠くてお使いに行きたくないときは、決まってマンション裏のパチンコ店に行っていた。
当時住んでいたのはマンションと呼んでいたが、父の勤め先の社宅で、団地用の建物が敷地内に一棟だけあった。
パチンコ屋では、これまた近所に住む紺のおばちゃんがパートをしていれば、たばこを売ってもらうことができた。おおらかな時代だったと思う。

二軒続いたパチンコ屋の、高速道路と交差する形で流れている溝川に、石を投げ入れるとしばらくふつふつと気泡が上がった。緑色のヘドロが溜まっている水の底から。男女が出入りするホテルがすぐそばに2軒あって、7歳ごろに別の街へ引っ越すまで、そこが僕が自分で出歩ける世界の全てだった。

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