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北欧旅の話① 〜出国、物資調達、移動編〜


ついに出発の日が来た。


ちなみに、それまでに大変だったことのひとつが装備の選別である。
荷物を軽くコンパクトにすることに余念がない私は、全ての装備の重さを測り、エクセルで表にまとめてバックパックの総重量を算出した。快適性と軽量化の狭間でギリギリまで何を持って行って何を諦めるかを悩んで、やっとの思いで1ヶ月を共にする装備が決まった。

持って行ったものたち


(装備の詳細についてはかなりマニアックな内容になるので、また機会があれば別の記事に書きまとめます)


出国は東京の成田空港から。
1番安い航空券をとったので、シンガポールとベルリンで2回乗り継ぎがある。しかもいずれも8時間程の空港での待ち時間があるというえげつないプランだった。トータルの移動時間が40時間。とんでもない。この移動だけでとても疲れそう。でも、ここぞというときに贅沢するための節約なので仕方ないのである。


成田からシンガポールまでの便では隣に大きめの外国人のおじさんが座った。無地のポロシャツを着ているかと思いきや胸に小さくワニの形で色が薄くなっている部分があったので、ラコステのワニが取れちゃったのだろう。おじさんは腰が痛いのか、何やらずっと辛そうにしていた。
しらばらくして、眠っていた私は目を覚ましてふと隣を見ると、おじさんが背もたれに背をつけず、ド直角に座っていた。面接を受ける時の座り方。もう腰が辛すぎて一周したんだなと思った。薄目でまっすぐ遠くを見据えていた。
「がんばれ、、」と思った。


シンガポールのチャンギ国際空港での乗り換えの待ち時間で、昼食に空港内のバーガーキングへ行きチキンサンドを買った。
むしゃむしゃたべて、さて完食、といったところで包み紙に何やら黒い物体が。

羽...?足...?
虫だ!

虫も一緒に包装されていたことが判明。
どうしようかと迷った挙句、英会話の練習とおもってやってみよう!と、店員さんを呼び止め、「虫が入ってたんですけど、、」と言ってみた。
そしたら、とても小柄で細いおばあさんの店員さんが何か言ってきたけど全く聞き取れない。
これは...英語なのか?
本当に一単語も聞き取れなかった。
「ホニャホニャホニャ...」
てんで会話にならなかったので、
「ノープロブレム!サンキュー!」で済ませた。


ベルリンの乗り換えでは、悲しいことが起こった。
機械でのチェックインを試みようとしたけれど、何度やってもエラーになる。
困ったな。予約確定のメールも航空券番号もあるんだけどどうしよう、と思ってインフォメーションの人に聞いてみたら、
「その航空会社の窓口に行って聞いてくれ」
と言われた。
言われた通りに担当窓口に行ってみると、大柄な黒人女性が預け荷物の受け取りの案内をしている。並びはしていないものの、ひっきりなしにお客さんが来る。忙しそうではあったけれど、私は困っているのでなぜチェックインができないかを聞かなければならない。
ゆっくり近づいていき、「エクスキューズミー」と言ったら、「キュ」のあたりでその女性は別のお客さんの対応を始めた。
なんだかわざと目を合わせないようにされた気がした。気のせいだと思い何度か声をかけようとしたけど、同じようなことが何度も続けて起こった。
完全に避けられているような気がする。
私がアジア人だから?
心がざわざわした。
人がいなくなったタイミングでもう一度勇気を出して聞いてみた。そしたら、やっと対応してくれたものの早口の英語で捲し立てられて私は何を言っているのかを理解できなかった。もう一度お願いします。と言ってgoogle翻訳に頼ろうとしたら「I don’t know」とを言われ、冷たくあしらわれてしまった。

とても悲しかった。
無事に飛行機に乗れるのかという不安もあるが、何より分からないことだらけの異国の地で人に冷たくされたことが悲しかった。
半べそ状態でインフォメーションに戻って、さっき対応してくれたお姉さんに「聞いたけど知らないと言われた」と伝える。そのお姉さんはとっても優しかった。しかし対応内容は同じである。「その航空会社の担当に聞いてもらうしかない」とのこと。もうほとんど心が折れかけていたが、もう一度チェックインカウンターへ行ってみる。そしたら別の人が居た。優しそうなおじさんだったので勇気を出して尋ねてみると、
「あーこれは早すぎるだけだよ。あと30分後くらいにもう一度やってみて。」
と、優しく教えてくれた。
出発時刻の数時間前からチェックイン可能になるが、まだその時間になっていないだけだった。

なんだ、早すぎただけか、、よかった〜
お騒がせしました。

教えてくれたおじさんが優しかったのと問題が解決して安心したのでまた半べそ状態。

ほっとしたのでスターバックスでコーヒーとベーグルサンドを買って食べた。
虫は混入していなかった。


40時間のフライトを経てやっとストックホルムに到着。

預け荷物も無事に戻ってきて最高!
ロストバゲージしてしまったら全ての計画が狂うので、荷物と一緒にストックホルムに辿り着けてひと安心。

空港からバスに乗ってストックホルム中央駅に着いた。今日、明日と市内のホステルに2泊する。その間に必要な物資を調達する予定だ。

ホステルに到着したのが19時半ごろ。
しばらく部屋でゆっくりして今晩の晩御飯を買いにスーパーへ行こうと外へ出た。20時半なのに明るい。
白夜とはそういうものだと知ってはいたけれど、いざ目の当たりにするとやはり衝撃的だ。
スーパーで食べれそうなものを適当に買い、ホステルに帰り、共用キッチンでトランプで大騒ぎする外国人の若者たちを横目に、端っこでひっそりとトルティーヤにルッコラとソーセージとクリームチーズ、トマトピューレをつけて巻いたものを食べた。
とてもおいしかった。




移動となんやかんやでとても疲れていたのか、その日はすぐに眠りについた。


翌日は物資調達とストックホルム散策。
朝ごはん用に昨晩スーパーでヨーグルトと思って買ったものがクレームフレッシュだった。おそらくサワークリームのような純生クリームのような、お菓子作りなどに使うもの?だと思われる。
ヨーグルトだと思って無邪気にスプーン山盛りをひと口だけ食べてしまった。
今後はしっかりよく商品を見てものを買おうと思った。

この日はカフェに入ったり、スーパーマーケットで山での食料調達をしたり、アウトドアショップをはしごしてガス缶や地図を買ったりと、街中をせかせかと歩き回った。
物価の高さに驚愕しつつも必要なものは無事手に入れることができた。

少し休憩しようと駅前広場のベンチに座っていると、遠くに誰もいないところに向かって何やら怒りながら喋っているやばそうなおじさんを発見。
どこにでも1人はこういうおじさんがいるんだ、と思った。


いざ山に入ったら質素な食事しかできないだろうから、贅沢をしようと思い、魚料理のレストランに入った。
Google mapで調べて美味しそうだったサーモンのひと皿を注文した。
サーモンの横に添えられてあるものがお米だと思ったら芋だったけど、美味しかった。
しかし物価が高い。これひと皿で2000円を超えるんだもの。やっぱり節約のためにレストランは行かない、と心に決めた。
後にも先にもレストランでの食事はこの時だけだった。

レストランで食べた鮭とマッシュポテト


クングスレーデンのスタート地点へは、寝台列車とバスで移動する予定だった。
夜から移動して翌日の昼すぎに到着する、トータルで15時間ほどの道のりである。電車とバスは出発前にネットで予約購入済みだ。

翌日、2泊お世話になったホステルをチェックアウトし、図書館で時間を潰し、スーパーで最後の買い足しをしたりしながら、ストックホルム中央駅に向かった。
駅構内に電源のあるベンチを発見したのでそこで電車の時間までゆっくりすることにした。
バックパックをおろしてベンチに腰をおろす。
街中とはいえ10kg弱の荷物を背負って長時間歩き回っていたためか、かなり疲れていたことに座ってから気づく。
ひと息ついて体を休める。
しかし、電車の出発時間まで2時間以上もある。早めに到着しすぎたようだ。でもこれくらいの緊張感でちょうどいい。乗り物を失敗するということは、それすなわちお金を無駄にすることであるため、これくらいで慎重であるべきなのだ。と自分に言い聞かせつつ、駅のフリーWi-Fiを利用してロングトレイルについてのまだ調べきれていない情報を調べたり、動画を見たりして過ごしていた。

しばらくすると、大きなパックパックを背負った人がちらほらと増えてくる。大学生らしき若い男女グループや、ブロンドの髪の三つ編みがかわいいソロの女性、かなりベテランハイカーっぽい髭面のお兄さん。この人たちもクングスレーデンを歩くのかなーとか思ったり、どう言う経緯で歩くことになったんだろうか、と他人の直近の人生を想像して、気持ちが高揚していった。

いい時間になったので、パックパックを背負い、てくてくとホームへ向かう。
何度確認しても乗り場や時間が合ってるのか不安になる。何度も言うが寝台列車とバスは事前に2万円弱払ってネットで購入しているので絶対に無駄にはしたくはないのだ。

時間通りに電車が到着。
おー、さすが北欧の寝台列車。
でかくてかっこいい。

寝台列車



チケットに記された車両に乗り込み、自分の座席番号の書いてある部屋へ移動する。
この寝台列車はひとつの部屋に6人が寝れるシステムである。
部屋を見つけると、すでに3人が中にいた。しかも、もう仲良くなっており何やら談笑をしている。
とてもいい雰囲気だ。出遅れたか、、
この人たちとは朝まで(すぐに就寝はするが)時間をともにするため、何としても良好な関係を築かなければならない。
これは、入室時の挨拶が重要である。
アジア人だからと冷たくされたらどうしよう、とベルリン空港での出来事から一抹の不安が頭をよぎる。
しかし舐められては行けない!と私は自分の中の社交スイッチをオンにし、「ハロー!」とかなり陽気人間を装って入室。
そうすると3人とも笑顔で「ハロー!ウェルカム!」と超気さくに対応してくれた。

嬉しーーーーーー!
当たりだーーー!
あたりの部屋だ!

めっちゃいい人たちだ
ラッキー!

そのあとは、
どこから来たの?
どこまで行くの?
何しに行くの?
普段は何をしているの?
などと、お互いのことをたくさん話した。

ストックホルムに住むスウェーデン人の親子マリさんとアドリアンちゃん(母と娘)の2人は、Abisko国立公園行くらしい。私が歩くロングトレイルのゴール地点である。がっつりの山歩きではなく数日の滞在で観光程度にハイキングをするとのこと。
もう1人はオランダ人女性のクリスティーンで、普段は教師をしており詳しくは聞き取れなかったがおそらく専門科目も自然、アウトドア関係らしい。

英語が分からず会話に置いていかれ微笑んで頷くだけの時間こそたまにあったものの、3人ととても仲良くなった。
SNSなんかも交換しちゃったりして。

しかも、クリスティーンはクングスレーデンを私と逆方向(北から南へ)に歩く予定とのこと。
「え!そしたら山の中ですれ違うかもしれないね!」
「もし会えたらハイタッチしようね!」
と最高にロマンのある会話をした。
幸先がいい。良すぎる。

スウェーデン人の親子の娘さん(おそらく10-12歳)がかなり人懐こい子で、とても私に興味を持って話しかけてくれた。こそばせ合うというオールドスタイルのコミュニケーションでかなりのグルーヴが生まれつつあった。
しばらくすると、急に靴を脱いで座席の上に足を伸ばしていたので、私が
「かわいい足だね」
と言ったら、膝小僧を指さしてニヤニヤしながら私に向かってこう言った。
「ムキムキでしょ。ほら、シックスパック。」


何それ
ボケてきたんだけど


瞬時に私の頭がぐるぐる回転する

「いやいや!シックスパックは見当たらないけど!」
「これは1パックでは?」

出た。
なんとか出た。

初めて英語でのツッコミ?に成功。
みんなでわいわい笑った。
これは嬉しい。幸先がいい。

22:30ごろになると駅員さんが「そろそろ寝る準備してくださいねー」と言いにきた。
みんなで協力して座席をベッドモードに切り替える。
修学旅行みたいにわちゃわちゃして楽しかった。

私は一番上の段。
こんな感じで。


みんなでベッドをセッティング中


とっても素敵な人たちと仲良くなることができて、ほくほくした気持ちのまま入眠。

翌朝、私の目的地に到着するのが一番先なため、寝ている3人を起こさないように静かに支度を済ませ、梯子を降り、3人に向け「ありがとう、楽しかった!またどこかで!」と念を送り、電車を降りる。


さて、次はバスだ。
ここを無事に乗り越えることができれば、憧れのクングスレーデンが始まる。
やはり異国の乗り物は不安で不安で仕方ないので、早く山道を歩くだけの状態になりたい。

またしっかりと緊張感を自分に纏わせ、バス乗り場へ向かう。ここの時刻表や乗り場はとても分かりやすくて助かった。
無事予約しているバスに乗車。
2階建てのバスだったので無邪気に2階の座席の前の方に座った。コックピットみたいでなんかよかった。

途中で急ブレーキがあり、何事かと前を見ると、鹿?トナカイ?が4匹道路を横断していた。
おー!北欧っぱい!いいね!とテンションが上がる。

6時間ほど経ち、ようやくHemavan(ヘマバン)という目的地に到着。
ようやく、ようやくだ!
日本からかなり時間がかかったが、大きな失敗もなくここまでたどり着けたことがただただ嬉しかった。

予定通りスーパーで食料を買い出しして、パッキング。
ロングトレイルの南端の始点となる場所であるため、ハイカーがたくさん居る。これから歩く人、ゴールして一息ついている人。みんな山歩きが好きな人たちだと思うとなんだか嬉しくなった。

14時ごろ、いよいよ出発。
夢にまでみた場所にこれから行くのだ。
天気も最高。
ありがとう神様!


Kungsledenのゲート


嬉しくてスキップする勢いでるんるん歩く。
樹林帯を抜け、スキー場の近くを歩いて行く
小一時間ほど歩き緩やかな丘をいくつか越えると、急に視界がひらけ、壮大な景色が目の前に広がった。




これだ。
ここ数ヶ月間、液晶画面で何度も見た。
こういう場所を歩きたくて私はここに来たのだ。

日本では考えられないスケールの大自然を目の当たりにして、私は足を止めてしばらくの間立ち尽くしていた。
何度もイメージした場所に、今自分が立っていることが信じられなかった。

スー…ハー…と深呼吸を一回。
そしてまた歩き始める。

とにかく一歩一歩が幸せでたまらない。
つい顔も自然とにこにこしてしまう。
風景を目に焼き付けながら颯爽と歩いていく。

私はこれから450kmを歩くのだ。

まだまだ先は長いのである。



次につづく


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