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ジェラピケのもこもこ必要

絵を描く。
土のにおいを嗅ぐ。
親友のY嬢と話す。
ねこを愛でる。
めがねを変える。
レイトショーを観る。

ビタミン不足の体に
フルーツを与えるように、
私のなかの「なにか」が不足すると
これらを心に与える。

ルームウェアブランド・ジェラートピケ
通称ジェラピケのもこもこパジャマを
買ったときもそうだった。

「ジェラピケのもこもこが要る」

他のじゃいかん。
甘さを纏ったジェラピケの
もこもこじゃなきゃ。

外に着ていく服よりお値段が高かった。
えいやと買った。



「Simple is best.」

小学生のとき、
クラスメイトのななこちゃんが言った。

いっしょに文房具を買いに
行ったときだったと思う。
その手には、装飾のない
シンプルな消しゴム。

―――ちなみにどうでもいいが
カタカナ英語じゃなくて
Englishっぽく言ってた。
(ななこちゃんは日本生まれの日本育ちだ)

「シンプル、いいよね」

頷きつつも、私は困惑していた。

人間歴たった数年の小学生が
なぜ「Simple is best.」と言いきれるのか?

シンプルがいいのは分かる。
けれどベストと断定するには
我々はまだ世界を知らなさすぎる。

灰色の空も。
恋の苦みも。
愛の複雑さも。
まだ知らない。

キラキラとふわふわに
興味があった当時の私は
“大人になったらななこちゃんの境地に
 たどり着けるのかしら”
と、ぼんやり未来に期待した。



「Simple is best.」を聞いた日から、
干支2周分ほど経った。

シンプルがベストなのか
いまだに私は分からない。

ただ、あんなにも欲して手に入れた
もこもこを先日卒業した。
(5年くらいお世話になりました)

もこもこは、役目を終えたのだ。


―――感謝しかない。

あのとき、駅近の賑やかな
コンクリートジャングルに暮らしていて
“硬さ”に囲まれていた。

ゴツン。ゴツン。

やわい私に、“硬さ”は容赦なかった。

綿菓子のように甘く軽い
もこもこに包まれて眠ることで、
私という人間のどこかの部分が
救われていたように思う。



暮らしには、そういうものが必要で。

単純な物欲とは違う
その時々に寄り添ってくれる
お守りのようなものが必要で。

ゆったり流れる川みたいに
人もモノも
寄り添ったり、離れたり。

ゆるくつながり
ぐるぐるめぐり、生きている。


◇◆◇


お読みいただき、ありがとうございました。「なんでジェラピケのパジャマを買ったんだっけ?」と考え出したら止まらなくなったので文章にしてみました。なんだか大袈裟な話になってしまいましたが笑

今のあなたに必要なものは、ちゃんと身近にありますか?あることを祈っています。


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