ショートショート『マスク』


顔に当たるのは毛布だけがいいなと思っているけど、3年も続いたある時期が明けてもまだ続く文化、というか外せないものがある。

「マスク」
本来は外気に生息する病原菌から身を守る術のひとつ。鼻と口をしっかりと覆い、鼻に乗る針金にもしっかり折り目を付ける。

でも、世の中から自分が守るべきものはマスクだけじゃ解決できない。

この前は病院に行き、薬を処方してもらった。
また飲む量が増えた。
その前は人前で嫌味を言われた。
でも、涙は出さずにがまんした。
ひとりでなみだを流せば、誰にも見られることはないのだから。
罵倒された日もあった。
本当はにらみたかったけど、唇を食いしばってどうにか耐えた。
傷がついた日も、どうにも動けなかった日もあるなかで
なんとか、なんとか、生きていくことができた。

マスクにも、いろいろな種類があるように
人間にも、外したくても外せないような隠したいことがある。

思っているより、自分を守ってくれている。
でも常に付けているのではなく、自然に付けられたものなのだろう。
どんなに言葉や手を加えようとも
全てはさらけ出すことが出来ないんだ、と
知ってしまう前に戻りたい。

きっと向こうでは、素直に生きられたらいいと
この世にいるうちに思っている。

だから今日も、守っているのだ。
壊れてしまうことがないように。


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