ショートショート『あの子』

あの子は今も元気だろうか。

朝ドラのヒロインぶるように、窓にいつも、もたれかかっていたあの子は

今も元気かな。

はっきりといってしまえば、顔はあんまり見たことがなかったような気がしたあの子は

今も元気かな。

保健室のベッドで眠っていた時、くちづけをしたような感覚があった。
それはそれはやさしかった。
あの正体は誰なのか。

夢から覚めた時に、ぬいぐるみを抱いていたはずの両手に
不自然な温かさが残っていたことも
胡蝶蘭の花びらが一枚だけ、私の頬に舞い降りてきたことも

あの子の、おかげか。
幻かは、わからない。
だから、幻という言葉を使いたくなくなったのは
その時からだ。

いつになればまた会えるのか。
いつになれば、また会えるのか。

卒業式の日、私は
あの子のために
セーラー服のスカーフをあげた。

目的地は、今も分からないけれど。

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