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ノスタルジーなら一人前

行列ができているラーメン屋の前を通りがかった時、最後尾に並んでいる親子の姿が見えた。小学5年生くらいの男の子とお父さんらしき男の人。男の子は地面にしゃがみながらSwitchをしていて、着ている黒いTシャツには白字で「天才」と書かれたプリントが入っていた。お父さんは黒い大きめのTシャツに黒いパンツで男の子の横に立ってスマートフォンをいじっていた。

かなり並んでいたから30分ぐらい待たなければならないのではないだろうか、お父さんに連れてきてもらったのかはたまた連れてこられたのか、車に乗せられて来たのかな、とかいらないことを考えながらラーメン屋の前を通り過ぎた。ふと昔のことを思い出していた。

小学生の頃、夏休み、祖父母の家に「帰って」いた時のこと。家から厳選してきたお気に入りのTシャツとショートパンツを履いて、小さなカバンに3DSを入れて車に乗った、お父さんが運転するおばあちゃん家の車でラーメンを食べに行った昼のこと。大きな道路に面したチェーンのラーメン屋は無駄に広い1階建てで、その何倍も大きい駐車所があった。夏休みの昼時だからか待っている人も多くてお父さんが代表して待ってくれている間に私は車の中で3DSをやった。多分やっていたのは妖怪ウォッチのソフト。三国志とかやってた気がするな。お父さんからの電話を出たおばあちゃんに連れられて店内に入って涼しい場所で椅子に座ってあと少しの順番を待つ。席に着いて迷わず頼んだ塩ラーメンを食べた、なんてことない夏休みの思い出。

こんなふとした瞬間に小学生に戻りたい、なんて叶わないことを思ってしまう。お父さんに連れられてあのラーメンを食べに行った日のこと、待っている間にSwitchをやっていた今日のことはきっと彼にとってはなんてことの無い1日で、わざわざ思い出すこともないのだろうけど、そのなんてことない瞬間に私はちょっとだけ心を動かされてしまった。

まだ1人ではできないことも多いし、世界のこと何もわからないままなのにこうやって懐かしめる過去ばかり増えてしまう。MVに出ていた制服を着た高校生、CMに出ていたグラウンドを走り回り部活をしている少年少女、待ち時間にゲームをしている小学生。当事者にとっては何気ない瞬間を目にするたび、戻らない時に縋ってしまいそうになる。ノスタルジーばかり上手になっても困るよなあ。

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