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魅力的なキャラがつくれない原因 は「名前を付けないままキャラをつくる」ことだった

多くのつくり手は「魅力的なキャラができない」という問題に頭を悩ませる。魅力的なキャラがつくれない原因とは、何なのだろうか。

「キャラがつくれない原因」の1つとして考えられるのが「つくろうとしているキャラクターに名前が付いていない」ことだ。

名前を考えないまま、決めないままキャラクターをつくろうとしていることが、キャラづくりにブレーキをかけてしまう場合が非常に多くある。

じつはキャラクターを生み出す時には、この「名前」は作者がそのキャラのイメージを浮かべたり、把握、定着させる「きっかけ」として働く。
キャラに名前があることで、作者はその人物がどんな人物なのかのイメージを拡げ、深め、知っていくことができる。名前によってイメージが深まるのだ。

もし、つくっているキャラに名前が付いていなければ、作者はそのキャラを深く捉えていくことが困難になるだろう。

だからキャラがつくれないとお悩みの方は、ぜひそのキャラの「名前」を考えてみてほしい。その名前から、イメージが拡がっていくだろう。
それだけキャラの名前、ネーミングというものは、キャラづくりで大事な要素なのである。

今回は、このキャラづくりで重要な「名前付け」について考えていきたい。

キャラクターの名前は「いの一番」に考えよう!

皆さんは物語を書こうと思って主人公や他の主要キャラクターたちをつくったときに、名前をどのタイミングで考えているだろうか? どのように名付けているだろうか?

物語をつくっていると、たまにキャラクターの名前を付けずに“主人公”や“ヒロイン”、“敵”といったように「役どころの名称」をその人物に付けてプロットなどの作業を進めている方がおられる。

プロットの段階になってもキャラクターに名前が付いていないのは、物語づくり、とくにキャラクターを描き、主体的に動かすうえで非常にマイナスになる。

なぜなら、キャラクターを「役どころ」で呼ぶということは、その役どころの「機能」でしかそのキャラクターを考えていない、血の通った人間として捉えようとしていないからだ。

いやいや、私はちゃんとそのキャラのことを考えているよ! と思っていても、役どころでそのキャラを呼び、考え、認識することで、私たちは無意識にそのキャラをストーリーを進めるためのそれぞれの機能を持った人形、駒として捉えてしまうのである。

以下の記事でも述べたように、ストーリーというものは、何らかの状況や状態、出来事、事件の中にあって、キャラクターが自分の意志で行動した結果、生まれるものである。

しかし、キャラクターを「そのキャラ個人」ではなく「役の機能」としてだけ捉え、ストーリーの筋道を先に決めてその既定の路線をなぞらせるようにキャラクターを“動かそう”とするならば、そのキャラクターは人間として命や意思を持たない、ストーリーを進めるだけの人形になってしまうだろう。

そうならないためには、キャラクターの名前は「いの一番に付ける」必要がある。

そのキャラに名前を付けることで、そのキャラは「役の機能を持った人形」から「人間」へと生まれ変わるのだ。

名前をつけることは、単なる機能としての主人公ではなく、世界にたった1人しかいない血の通った「その人物」を生み出すことなのである。

私たちつくり手は、名前がついて初めて主人公という「機能」ではなく、その人物という「人間としてのそのキャラクター」を本当の意味で捉えることができるようになるのだ。

つまりネーミングは、キャラづくりの第一歩なのである。

名前はキャラクターを表すもの、キャラそのもの

さて、ここでちょっと「名前」というものが人間に与える影響について考えてみたいと思う。

「名前」は、私たちが考えているよりもはるかに重要なものである。
古来から日本では、名前はもっとも身近な「呪(しゅ)」であると考えられてきた。つまりある種の「呪い」であるというのだ。

「名前」というものは、付けることでその人物を社会的に認識、定着させ、さまざまな共同体の枠組みや概念、ルールで縛ることができるようになる。名前を得て初めて、この国、社会に存在していることが認められ、確定するのである。

一方で、日本では古来から一般的な名前を持たない“存在しないことになっている人々”もいた。
名前を持たないがゆえに、存在せず、ゆえに国の法に縛られない立場にあり、この日本の裏側から支える役目を負っているとされている人々だ。つまり、名前がなければ“いないのと同じ”ということなのである。

だから名前というものは「その人の存在そのもの、その人自身を象徴するもの」なのである。

これはたとえるなら、現代社会の「名刺」、あるいは「マイナンバー」のようなものだといえる。

映画『千と千尋の神隠し』では「主人公が魔女に名前を奪われ存在を支配されてしまうシーン」が出てくるが、情報が支配する現代社会ではマイナンバーが他人に知られてしまったら、同じようなことが起こる。そのマイナンバーを奪われることによって、社会的なすべての活動を他人に奪われ、支配されるのだ。マイナンバーを知れば、その人になりすまして買い物をしたりお金を借りたり、さまざまな契約を交わすこともできまてしまう。これが「名前を奪われる」ということなのである。

つまり、名前はその人をこの世、人間社会に定着させ、他者と区別する「呪」であり、存在そのものなのだ。

だから、神様のご利益も、行政のサービスも、年金も、教育も、人間関係も、信用もすべて、名前がなければ受けられないのである。

また名前には、その人物の人格や人間性、人生に対する願いや希望、あるいは指針のようなものが込められている。

多かれ少なかれ、人はみな自分の名前によって何らかの影響を受けているのだ。自分の名前を思い起こすたびに、親の愛情や名付けてくれた者の信念を感じるだろう。その意味でも、名前は「呪」であるといえるのだ。

また人名以外にも病気名、商品名、技術、技法名、店名、社名、国名など、名前が付くことでその概念や存在が人々の認識、社会で法的に認められ、周知、理解することができるようになるものがある。
たとえば原因不明、正体不明の病気は恐ろしいものだが、診断によって名前が付くことで正体が判明し、それによって医師は治療法が分かり、患者も安心できる。

そして名前には、名付けた人物の思いが込められていることがほとんどである。社名や商品名などには、事業内容や機能の説明やアピール、またそれを生み出した者の強い思いが込められている。

筆者の亡くなった祖父は、ある商品を発明して何千万もの特許収入を得た。祖父はその発明品の名前に自分の名字をつけた。それによって祖父がその発明品をつくり出したことを証明し、多くの人がその発明品を通して祖父の名を思い起こし、祖父は知名度を上げて自分の商売を有利に展開しようとした。これも、名前に思いが込められた例である。

物語では、作者のそのキャラに対する思いや意図、願いがその名前に込められる。
だから、物語のキャラクターにとって名前というものは、そのキャラクターを表し、他のキャラと区別し、そのキャラクター性に少なからぬ影響を与えるとても大切なものなのである。

そもそも読者は、例外なくそのキャラクターを「名前」で捉えている。読者にとってもキャラの名前は、そのキャラそのものなのである。

したがって名前の付いてないキャラは、作者にとっても読者にとっても“存在していないのと同じなのである。

名前を付けることで、その人物像に形が与えられ、意思を持って動き出す。名前はキャラにとって、命を与えてくれる必須の要素なのである。

名付けの方法、コツはあるのか?

自分の子供の命名の申請を期限ギリギリまでかかってしまった筆者がいうのも何だが、ここでは筆者が使っているキャラに名前を付ける際の方法、コツを紹介したい。

コツ1:「名は体を表す」か「名前とのギャップ」を狙う

これは著書『シーン書き込み式物語発想ノート』でも紹介した方法だが、名前を考えるときは、以下のような2つの考え方によってネーミングの際の指針にすることができる。

1.「名は体を表す」……キャラクターの人物像やイメージ、外見などと「一致」した名前を付ける方法。そのキャラクターの特徴を表すような字面や意味を持つ名前がついているため、読者がそのキャラの特徴を把握しやすい、そのキャラの特徴やイメージを強調できるメリットがある。
2.「名前とのギャップをつくる」……キャラクターの人物像やイメージ、外見などとはまったく「逆」の、正反対の名前を付ける方法。その人物の性質や特徴、イメージと「真逆の名前」が付いていることで、その人物像と名前のギャップによって面白さや意外性を演出できる、そのギャップによって読者にそのキャラを強く印象付けられるメリットがある。

どちらの方法でも、それぞれのメリットがある。「あなたのキャラクターにとってどちらの方法が面白いか、魅力を引き出せるか」を考えて、もっとも有利な方法で名付けてみよう。

コツ2:「姓」と「名」のどちらかを特殊、どちらかを一般的なよくあるものにする

これはよくいわれるコツだが、日本人などの漢字の名前を持つキャラクターの場合は、「姓」「名」があったらどちらかに「特殊な名前」を付け、もう一方には「平凡な、平易な、ごくふつうの名前」を付けるという方法がある。

「特殊な名前」というのは、主人公の特別性、希少性、唯一性、かっこよさを持たせるうえで非常に有効である。
しかし、名前があまりにも奇抜で特殊すぎると、世界観や物語によっては説得力が失われてしまうデメリットも孕んでいる。

その悩みを解決するには、姓と名どちらも特殊にせずに、

・「名字が特殊なら、名前はふつうに」
・「名字がふつうなら、名前を特殊に」

という感じで、両方特殊なものにせずに姓、名どちらかをふつうにすると、特殊性と一般性を兼ね備える「特殊、特別だけどありそう」という絶妙なラインのネーミングにすることができる。

もちろん、これはバランスの問題である。世界観や物語、人物像によっては姓名両方とも特殊で奇抜なものの方が有効である場合もある。
「居ない」「居そう」「居る」という3段階の名前の一般性のバランスを取りながら、そのキャラを表すピッタリのネーミングを考えてみるといいだろう。

あるいは、バディ同士や恋人同士など2人の主要キャラがいるなら、一方は「姓名とも特殊な名前」にして、もう一方を「姓名とも一般的、平凡」な名前にすることで、2人それぞれのキャラの特徴を対比させて、強調、際立たせることもできる。
その際は、中途半端な形にはせずに、特殊な名前のキャラはとことん特殊に、一般的、平凡な名前のキャラはとことん平凡で一般的に、本人が気にするぐらいよくある名前にすると、より面白さが出る。
この方法でも、バランスを見ながらネーミングしてみよう。

コツ3:キャラ同士の「被り」に注意する

キャラクターに名前を付けるうえでとくに大事なコツが、名前に関してキャラクター同士で被らないようにすることである。
つまり、ネーミング面で「似たような要素、同じような要素」を持つのを極力避けるということだ。
ネーミングの際は、次のような要素で「被り」に注意しよう。

・文字数。
・頭文字。
・姓名の音、とくに「母音」の並び。
・その字面や音から思い浮かぶ「イメージ」や「意味合い」。

コツ4:人名以外からネーミングを借りる

ネーミングで悩むときは、人名以外、たとえば食べ物や植物、動物、地名、駅名などのネーミングから名前を借りてくる方法も有効だ。
たとえば、『サザエさん』は海の生き物にちなんでキャラに名前がつけられていたり、『ドラゴンボール』では食べ物や楽器などの名称をもじってキャラの名前が付けられている。
よく取られる方法だが、複数のキャラを命名しなければならないときは、とても役立つ方法である。必要に応じてうまく活用してみよう。

今はネーミングに役立つランキングやそのサイト、外国の名前をまとめたサイトもあります。そのようなサイトを利用し、キャラに命を与える名前を付けてみよう。

ネーミングは、非常に大変な工程だ。しかし、おろそかにはできない最重要工程でもある。ここはしっかり時間を取って、大いに悩んで名前を考えよう。
じつはその名前を考えるときにこそ、キャラクターに対する理解や把握が深まっていくのである。

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キャラクターに名前を付け、それをもとにどのように魅力的なキャラをつくるかについて、以下のテキストではくわしく解説しています。
ご興味がある方は、合わせてお読みください。


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