見出し画像

厚労省 第1回 大麻等の薬物対策のあり方検討会 「何が問題なのか?」

2021年1月13日、「大麻使用罪の創設も検討」というセンセーショナルな報道とともに突如告知された厚生労働省の有識者会議「大麻等の薬物対策のあり方検討会」。報道発表の一週間後に開催された第1回会議の会場付近には、レゲエアーティストのRasunobuさんの呼びかけで、大麻使用罪の創設、医療や個人使用目的の所持・栽培を刑罰によって禁止するこれまでの大麻規制のあり方に反対する市民の有志が急遽駆けつけて、街頭で抗議の声を上げました。

世界では、大麻の害がお酒やたばこよりはるかに少ないことが科学的研究によって明らかにされ、国連でも薬物個人使用の非犯罪化政策が推奨されており、およそ45ヵ国で医療大麻が合法化、およそ4ヵ国で嗜好大麻が合法化、およそ50ヵ国で大麻の個人使用目的の所持が非犯罪化されている(wikipediaより)のに、なぜ今、大麻使用罪創設の議論なのでしょうか?2月8日に公表された有識者会議の議事録を中心に、日本の薬物行政の問題点を読み解いてみたいと思います。

▪︎過剰な報道規制

第1回 大麻等の薬物対策のあり方検討会 開催要綱には「会議は、原則公開とする。」とあるが、開催案内には「新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、一般の方の傍聴はご遠慮いただき、報道関係者の方のみの傍聴とさせていただきます。」、「写真撮影、ビデオ撮影、録音をすることはできません」などと書いてあり、実際に共同通信社は、取材で得た情報を流出させたとして厚労省から抗議を受け、2月13日、大阪支社社会部の記者を出勤停止7日の懲戒処分としている。仮に、一般の傍聴を禁止する理由が本当に「新型コロナウイルスの感染拡大防止のため」であるならば、動画配信などで中継することは十分に可能であるはずだが、そのような配慮はない。後日公表された議事録では「発言者氏名を公にすることで発言者などに対して外部からの圧力や干渉、危害が及ぶおそれが生じる」として、各委員の発言が□□委員として匿名で表記されており、第2回目の開催案内では、場所も非公表とされ「発言者の特定はしないでください。」という通知も追加されていることから、一般の傍聴を禁止する理由が「新型コロナウイルスの感染拡大防止のため」とされているのは、市民社会の干渉を回避するための都合の良い言い訳ではないかと疑われる。国際社会では、大麻に使用罪を創設するなどという主張は現在では非常識であり、重大な人権侵害であるとして非難される可能性も高いことから、大麻使用罪の創設を主張することで個人的に発言の責任を追及されることを逃れる意図もあるのではないかと推測される。

▪︎委員の選出に偏りがある

会議の後日公表された、大麻等の薬物対策のあり方検討会 構成員 委員名簿をみると、12名の委員のうち、氏名所属非公表とされている2名を除くと、女性委員はたった1名のみであり、人権問題に詳しい弁護士なども委員に選出されていない。会議の議事録では、これまで薬物使用者を逮捕して取締る厳罰政策を強力に推進してきた「ダメ、ゼッタイ」のスローガンで有名な公益財団法人・麻薬覚せい剤乱用防止センターの理事の鈴木勉教授と理事長の藤野彰氏が厚生労働省医薬・生活衛生局の意向により、それぞれ座長と座長代理にすんなりと選出されており、従来の税金による厳罰政策のイニシアチブが危惧される。また、検討会のあり方については、厚生労働省が、「大麻の幻覚成分であるTHCは、微量の摂取でも精神作用が発現することから、THCの含有量が低い大麻であっても、抽出・濃縮等の方法によれば容易に乱用につながる危険性は十分に認めらる。」(2007年)などとして大麻の危険性を過大評価し、国際条約の規制対象外である産業用大麻(ヘンプ)の国内生産さえも過度に厳しく制限するなど、現在の大麻取締法の運用のあり方がヘンプ産業にも大きな影響を及ぼしていることから、一般社団法人北海道ヘンプ協会(HIHA)から、厚生労働省「大麻等の薬物対策のあり方検討会」への緊急声明が公表され、農学の専門家を委員に加え、ヘンプ産業関係者からも意見を求めることなどが要請されている。

▪︎資料には参考文献リストがなく、エビデンスが不十分であり、大麻とお酒やたばこのリスク比較も盛り込まれていない

公表された資料には、「有害成分THCが脳内カンナビノイド受容体に結合し、神経回路を阻害する。」などと紹介されているが、参考文献リストがなく、科学的根拠が示されていない。また、「乱用薬物の種類とその影響」と題する表では、あへん類、バルビツール類、ベンゾジアゼピン類、大麻、コカイン、LSD、アンフェタミン類の薬物乱用による影響を評価しているが、合法の依存性物質であるアルコールやたばこが比較対象に含まれておらず、参考文献も平成10年度(1998年度)厚生科学研究費による古い資料である。薬物のリスクの評価について国際的に広く参照されている資料は、2010年にLancetに掲載されたDavid Nutt教授らによる研究[1]であり、そこでは大麻のリスクはアルコールやたばこより低いことが示されている。その後、2015年にNature Scientific Reportsに掲載されたドイツとカナダの研究者Dirk W. Lachenmeier & Jürgen Rehmによる研究でも、お酒、たばこ、大麻、その他の薬物のリスクが曝露マージン(MOE) 法によって比較され、大麻はお酒やたばこよりリスクが低いことを確証し、

「現在のところ、MOEの結果は、違法薬物より、むしろアルコールやたばこに対するリスクマネージメントの優先順位を指摘する。大麻の高いMOE値は、低リスクの区域にあり、現在の禁止政策よりもむしろ厳正な法的管理政策を示唆する。」

と報告されている(日本語抄訳)。また、2016年のWHO第38会期ECDDで公表された資料では

「大麻は身体的依存を形成することがあるが、退薬症候は重篤とはみなされず、オピオイドおよびアルコールからの離脱と比べても明らかに顕著ではない。」(P.16)

とされている。さらに、大麻がアルコール、違法薬物、処方医薬品などへの、より安全な代用薬として役立つ可能性があることを報告する研究[3]も公表されている。このように、大麻よりリスクが高いアルコールが広く一般に販売されている一方で、大麻の個人使用目的の所持が刑罰によって禁止されているのは不均衡であり、科学的根拠に基づいておらず、健康の向上を求めてアルコールや覚せい剤、よりリスクの高い処方薬の代替として大麻を使用することを求める人たちの人権を著しく侵害している。大麻等の薬物対策のあり方検討会は、大麻とお酒やたばこのリスクを比較した科学的研究の結果を考慮して、適切な管理政策のあり方を検討すべきである。

▪︎日本の薬物行政は、科学的根拠に基づく決定をしていない

2020年12月のCND(国連麻薬委員会)において、大麻の医療用途を認め、1961年の麻薬に関する単一条約の最も危険な薬物のカテゴリーであるスケジュールⅣから大麻を削除するWHOの勧告に、日本政府が反対する投票をした理由として、

”「大麻の規制が緩和されたとの誤解を招き、大麻の乱用を助長するおそれがあるため」ということでして、内容自体というよりは、誤解を招くのではないかという懸念をもって反対投票をさせていただきました。”

と説明されているが、これは日本の大麻・薬物政策が科学的根拠に基づいていないことを象徴的に表している。検討会によるCNDの大麻スケジュール変更に関する説明は、2020年12月2日付の国連ニュース”UN commission reclassifies cannabis, yet still considered harmful”の内容とかなり印象が異なる。国連ニュースではこのスケジュール変更により、大麻植物の薬効に関する科学的研究がさらに促進される可能性があると報道されている。

2020年12月2日 国連ニュース仮訳
UN commission reclassifies cannabis, yet still considered harmful
国連委員会、大麻を再分類、それでもなお有害とみなされる
大麻とその派生物に関する世界保健機関 (WHO) の一連の勧告をレビューする中で、麻薬委員会 (CND) は、治療用途をほとんどあるいは全く有さないと認識され、ヘロインを含む特定の致死性で依存性のあるオピオイドとともに記載されている—1961年の麻薬に関する単一条約のスケジュールIVから大麻を削除するという決定について集中討議した。

国連の中心的な薬物政策決定機関であるCNDの53カ国の加盟国は、– 大麻が59年間置かれていた – 一般に医療目的での使用を妨げる最も厳しい統制措置が適用されるスケジュールから大麻を削除することへの投票を行った。

賛成27票、反対25票、棄権一票で、CNDはこの薬物の医薬と治療の可能性を認める扉を開いたが、非医療と非科学的目的での使用は依然として違法である。報道によると、今回の決定は、この植物の薬効に関する科学的研究をさらに促進する可能性があるという。

徹底的な準備
2019年1月、WHOは国際的な薬物統制条約への大麻の掲示をめぐる6つの勧告を発表した。報道によると、提案は2019年3月のCND会議で採決に向けて提出されたが、多くの国がこの問題を検討し、立場を明らかにするためのより多くの時間を要求した。そのため、投票は2年間の集中的かつ詳細な検討ののちに行われた。

WHOの勧告では、テトラヒドロカンナビノール(依存性物質THC)が2%以下のカンナビジオール(CBD)は国際的な統制の対象とすべきではないと提案された。加盟国は、CBDは現在国際的な統制のもとにないため、決議の必要はないという一部の加盟国による主張を含む、さまざまな理由からこの勧告を拒否した。 CBDは近年、ウェルネスセラピーにおいて重要な役割を果たしており、10億ドル規模の産業を生み出している。

現在、50カ国以上が医療大麻プログラムを採用し、カナダ、ウルグアイ、米国の15州がレクリエーションでの使用を合法化しており、メキシコとルクセンブルクはその道をたどるべきかどうかについて政治的議論を行っている。

それぞれの立場
投票ののち、いくつかの国がそれぞれのスタンスについて声明を発表した。 エクアドルはWHOの勧告のすべてを支持し、大麻の生産、販売、使用が「グッド・プラクティス、品質、イノベーション、研究開発を保証する規制の枠組み」を持つことを促した。

一方、米国は、大麻を単一条約のスケジュールIVから削除し、スケジュールIに保持することに投票し、これは「安全かつ効果的な大麻由来の治療薬が開発されている一方で、大麻自体は公衆衛生に重大なリスクをもたらし続けており、国際的な薬物統制条約のもとで引き続き規制されるべきであることを示す科学と一致している」と述べた。

反対票を投じたチリは、「大麻の使用とうつ病、認知障害、不安、精神病症状などに苦しむ可能性の増加との間に直接的な関係がある」と主張し、日本は、植物の非医療的な使用は「特に若者の健康や社会に悪影響を及ぼす可能性がある」と述べた。

国際薬物統制条約の目的は、医療用途の薬物の利用を確保しつつ、薬物使用の害を防ぐことである。1961年の麻薬に関する単一条約の前文には、”締約国は、人類の健康及び福祉に思いをいたし、麻薬の医療上の使用が苦痛の軽減のために依然として不可欠であること及びこの目的のための麻薬の入手を確保するために適切な措置を執らなければならないことを認め、”とある。また、UNODC(国連薬物犯罪事務所)のウェブサイトには、国際薬物統制条約の目的について以下のように説明されている。

“The three major international drug control treaties are mutually supportive and complementary. An important purpose of the first two treaties is to codify internationally applicable control measures in order to ensure the availability of narcotic drugs and psychotropic substances for medical and scientific purposes, and to prevent their diversion into illicit channels. They also include general provisions on trafficking and drug abuse.

3つの主要な国際薬物統制条約は相互に支援的であり、補完的である。最初の2つの条約の重要な目的は、医学的及び学術的目的のための麻薬及び向精神薬の入手可能性を確保し、それらの違法な経路への転用を防止するために国際的に適切な統制措置を成文化することである。これらにはまた、不正取引と薬物乱用に関する一般規定も含まれている。”

大麻の医療上の有用性を知りながら、乱用防止の名目でWHOによる大麻のスケジュールⅣからの削除の勧告に反対投票をした日本は、大麻禁止政策に固執し過ぎるあまりに、科学的事実を認めることが出来ず、薬物統制条約の基本原則からも逸脱している。

▪︎ポストUNGASS2016と呼ばれる刑罰から健康と人権を重視する政策へとシフトした国連の方針や共同コミットメントが国内の施策に反映されていない

議事録では、INCB事務局に23年間在籍した経歴を持つ委員により、INCBが嗜好用大麻を合法化した国に対して条約違反の懸念を示したことばかりが強調されており、INCB委員長が2020年3月のCNDでノルウェーの薬物個人使用の非犯罪化政策モデルを参照[4]し、「少量の薬物所持を刑事訴追の対象から除外し、その代わりに健康を中心とした非懲罰的な措置を通じて軽微な薬物違反に相応しい対応をすることは条約と完全に一致しています。」と述べ、薬物個人使用の非犯罪化を支持する声明を公表していることや国連の推奨する薬物個人使用の非犯罪化政策やハームリダクション政策については紹介されていない。第1回検討会の段階では、大麻禁止政策か?合法化か?という二者択一の極端な議論しかされておらず、非犯罪化という最も現実的な選択肢を提示しないことにより、軽微な薬物個人使用事犯に刑罰を適用する現在のゼロトレランス方式の禁止政策があたかも妥当な措置であるかのような印象操作をしているようにみえる。1961年の麻薬に関する単一条約 第36条 刑罰規定 には薬物個人使用の非犯罪化政策を許可する条項が盛り込まれている。

1. (b) (a)の規定にかかわらず、締約国は、薬品の濫用者が(a)の犯罪を犯した場合には、有罪判決若しくは処罰に代わるものとして又は有罪判決若しくは処罰のほかに、第三十八条1の規定に従つて、そのような濫用者が治療、教育、後保護、更生及び社会復帰の措置を受けるものとすることができる。

また、前述のINCB委員長の声明でも第36条1項(a)の要件について刑事犯罪である必要はないとされている。

“The 1961 Convention also refers to the requirement in article 36 para 1 (a) that possession of illicit drugs for reasons contrary to the convention “shall be punishable offences.” - Which does not mean that they need be “criminal offences”.

1961 年の条約はまた、条約に反する理由での違法薬物の所持は「処罰すべき犯罪となることを確保し」という第 36 条 1 項 (a) の要件にも言及しています。- これは、「刑事犯罪」である必要があるという意味ではありません。”

最近、ノルウェー保健省はINCBとも協議を重ねて構築してきた違法薬物の個人使用、入手、所持を非犯罪化する法案を提出(大麻は10gまで)したと報道されている。以下は2020年3月のCNDで開催されたノルウェー、INCB、UNODC 薬物予防・健康支部門および WHO主催の特別イベントでのINCB委員長Cornelis de Joncheere 氏の声明「薬物改革: 懲罰的アプローチから支援的アプローチへ ‒ ノルウェーの提案」仮訳である。INCBに23年間在籍されたという「ダメ、ゼッタイ」公益財団法人麻薬覚せい剤乱用防止センター 藤野彰 理事長の個人的な見解とUNGASS 2016以降のINCBの公式の立場を比較検討してみて欲しい。2019年の国連分担金負担額、世界第3位2億3880万ドル(約260億円)の日本で暮らす私たちは世界の人たちを助けるだけでなく、その恩恵を自分たち自身も充分に受けられているだろうか?

◾︎INCBは薬物個人使用の非犯罪化を支持

国際麻薬統制委員会 (INCB) 委員長 Cornelis de Joncheere 氏の声明
「薬物改革: 懲罰的アプローチから支援的アプローチへ ‒ ノルウェーの提案」
ノルウェー、INCB、UNODC 薬物予防・健康支部門および WHO主催の特別イベント
第63会期麻薬委員会 2020年3月2日 月曜日13時15分~14時45分 C3室

ご列席の共同パネリスト、ご来賓、お仲間、紳士淑女の皆さま、

国際麻薬統制委員会を代表して、このような取り組み、そしてこの特別イベントで発言する機会を与えてくださったノルウェー政府の皆さまに感謝いたします。本日は、世界の薬物政策や新たな刑事司法の動向に関連するさまざまな議題についての専門家である著名な講演者の方々にお集まりいただいています。

INCB は独立した公正な機関であり、薬物統制条約の文言と精神に基づいて薬物政策の分析を行っています。本日のイベントの議題は、委員会の条約監視業務に関連するものであり、薬物個人使用と所持の非犯罪化が条約の既存の枠組みに適合するかどうか、またどのように適合するかについてです。

「ノルウェーの提案」において、まず最初に、昨年 5 月に行われた INCB ミッションを歓迎してくださったノルウェー政府と保健・ケアサービス省に感謝申し上げます。本日我々が議論しているノルウェーの条約履行と非犯罪化の提案に関連した政策展開は、薬物を使用する人々の健康を支援し、治療し、向上させたいというノルウェーの願いに基づいていることは明らかです。私は、今日こちらの講演者の方々から、刑事罰の代わりに治療とフォローアップを優先する新しい刑事司法アプローチに向けたノルウェーの計画の方向性について、 より多くの情報と分析を聴くことを楽しみにしています。

委員会は、3 つの薬物統制条約から成る既存の国際的な薬物規制の枠組みは、人々の健康を保護し、個人使用または依存を理由とする薬物所持に対する不均衡な刑事司法対応から人々を守るために設計されていると一貫して述べてきました。3 つの条約を完全かつ効果的に実施するためには、ある国での薬物規制政策の改革が、薬物依存の人々の投獄への依存を止め、軽微な薬物犯罪を犯した人々に対する刑罰と有罪判決という逆効果の方策の使用を防止するためにどのように役立つかについて、我々の集団的理解を深めることが必要です。

ノルウェーの提案は、薬物を使用する人に対する当局の基本的な対応を変えることを目的としています。これは、国家が自らの裁量により、公衆衛生指向のアプローチに基づく人道的な政策措置を採用できることを示す一例です。少量の薬物所持を刑事訴追の対象から除外し、その代わりに健康を中心とした非懲罰的な措置を通じて軽微な薬物違反に相応しい対応をすることは条約と完全に一致しています。

ポルトガルで採用され、ノルウェーの提案のモデルとして参照されているアプローチに 対して、INCB 委員長は以前、「既存の薬物規制制度の中で、薬物の使用を合法化することな く - 薬物統制条約の原則に完全にコミットし、健康と福祉を中心に据え、比例原則と人権の尊重に基づく、バランスのとれた包括的かつ統合的なアプローチを適用する薬物政策は、肯定的な結果をもたらすことができる 」と述べています。ノルウェーは、薬物政策改革案が合法化につながるべきではないと直接述べており、政策改革と薬物統制条約に含まれる義務に完全に準拠する新しい法的枠組みを精巧に作り上げることを計画すると示しています。

条約には、薬物関連犯罪に対する効果的かつ相応な刑事司法対応の基礎となる法的枠組みが含まれています。締約国は、違法薬物関連活動に適用される可能性のある措置の種類に ついてある程度の裁量権を持っていますが、条約は、薬物の所持を医学上及び学術上の目的に制限すべきであると規定しています。改正された 1961 年の条約の第 4 条(c)にみられるこ の基本原則の逸脱は許可されません。1961 年の条約はまた、条約に反する理由での違法薬 物の所持は「処罰すべき犯罪となることを確保し」という第 36 条 1 項 (a) の要件にも言及しています。- これは、「刑事犯罪」である必要があるという意味ではありません。

これらの義務に従うことを条件として、締約国は、軽微な性質の薬物関連犯罪に対応して刑罰に代わる措置を採用することを選択することができます。条約は、締約国に違反者が軽微な違反を犯した薬物使用者である場合には、治療、教育、アフターケア、リハビリテーション、社会復帰などのような刑罰や有罪判決に代わる措置を提供することを認めています。 ノルウェーを含む多くの国は、条約の枠組みの中で薬物使用を何よりもまず公衆衛生上の懸念事項として、どのように扱うべきかを問いかけています。条約の刑事司法関連規定を支える比例原則は、個々の薬物使用や依存に対する対応を不正取引などのような、より深刻な薬物関連犯罪のカテゴリーと区別することに役立つでしょう。

ノルウェー政府の改革の法的枠組みや正確な方向性はまだ確定していませんが、INCBはこの対話を歓迎します。薬物依存の人々へのスティグマ化と排除が続いていることから、 各国政府は、条約における国際社会のコミットメントを尊重しつつ、人々の健康と福祉を最優先するアプローチを見出すためのさらなる努力を続けることになるでしょう。

委員会は、条約に沿って軽微な薬物関連犯罪に対して非懲罰的、あるいは非犯罪的な対応を適用する人道的な薬物政策を策定しようと試みるすべての政府のために引き続き奉仕します。

ありがとうございます。

免責事項:
本稿で引用した英文の文献の翻訳は、薬物政策研究目的での参考のための仮訳であり、筆者はその利用によって生じる、いかなる損害についても責任を負うものではありません。常に英文の原文を正規版としてご参照ください。

参考文献

1. Nutt, David & King, Leslie & Phillips, Lawrence. (2010). Drug harms in the UK: A multi-criterion decision analysis. Lancet. 376.
DOI:https://doi.org/10.1016/S0140-6736(10)61462-6
2. Lachenmeier, D., Rehm, J. Comparative risk assessment of alcohol, tobacco, cannabis and other illicit drugs using the margin of exposure approach. Sci Rep 5, 8126 (2015). DOI:https://doi.org/10.1038/srep08126
3. Lau, Nicholas & Sales, Paloma & Averill, Sheigla & Murphy, Fiona & Sato, Sye-Ok & Murphy, Sheigla. (2015). A safer alternative: Cannabis substitution as harm reduction. Drug and alcohol review. 34. 10.1111/dar.12275.
DOI:https://doi.org/10.1111/dar.12275
4. Statement by Mr. Cornelis de Joncheere, President, International Narcotics Control Board (INCB), “Drug Reform: From a Punitive to a Supportive Approach – The Norwegian Proposal”
Special Event organized by Norway, the INCB, the UNODC Drug Prevention and Health Branch and the WHO, Sixty-third session of the Commission on Narcotic Drugs Monday, 2 March 2020, 13.15 – 14.45, Room C
https://www.incb.org/documents/Speeches/Speeches2020/INCB_President_statement_Norway_side_event_drug_reform.pdf





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?