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何回も、つらそうに別れを切り出す小春。


そんな小春を見ているうちに、睦夫さんは、自分が小春を苦しめていると考えるようになったのです。

睦夫さんは私に言いました。


「僕は小春と一緒にいたいです。


でも一緒にいることで小春をつらくさせてしまうのなら、


交際を続けたいというのは、僕の身勝手さなのではないかと……」


睦夫さんはとうとう、小春の話に「わかった考えてみる」と、返事をしたそうです。


そうしたら、小春は黙ったまま、深くうなづいたのでした。


睦夫さんは、小春が本気で別れたいと言っていたのだと、確証しました。



そして私は、「小春と別れることになりました」と睦夫さんに伝えられたのです。

「咲さんには、僕たちのことで、感謝しきれないほど、助けてもらったのに……

結局ぼくは、小春を苦しめてしまいました

こんな結果になってしまって申し訳ないです」

「謝らないでください。睦夫さんは悪くないです」



しばらくして小春からも別れたことを聞きました。


小春は、睦夫さんと別れる前からふさぎこみがちでした。


そして、別れてからは、完全にふさぎこんでしまったのです。


自分の部屋からも、ほとんど出てこなくなりました。


私が用意した食べ物も、ほぼ手をつけていません。


私の料理が上手くないのが原因とも思いました。


なので以前、小春が美味しいと食べていた、テイクアウトを思い出して買ってきました。


ですが、それも全く手をつけずに、小春の部屋のドアのまえに置いてありました。


自分の残したものを、私が食べることを想像したのでしょう。


それで気をつかってしまったのだと思います。


私はドアごしに、小春へ言いました。


「お願いだから食べて」


次の日も、同じものを買っておいて置いたのです。


それは少し食べてくれていました。



小春は、ネットでの服などの販売も、一時中止にしていました。


私の給料だけでも、なんとかふたりの生活はなりたちます。


なので、小春の傷が癒えるまで休んでもらおうと思っていました。


ですが、小春がここまで、ふさぎこむのは、はじめてです。


今までは、何かあっても小春は、強がることができていました。


そう思うと、かなり深刻です。


小春が引きこもりのような状態になって、二週間たちました。



「小春」


「……」


「開けていい?」


「ごめん」


こんな調子でした。


話そうとしても、返事をしてくれません。


ドアを開けるのも、こばまれてしまいます。


私にできることを考えました。


睦夫さんに、会いに行ったのです。


会って説得をこころみました。


ですが、睦夫さんは自分の無力さに、打ちのめされている感じでした。


「僕はもう小春を辛くさせてしまうことしかできないんです」


「そんなことないです」


「それに僕は小春とつきあう資格がないと思います」


大きな声で小春を怯えさせてしまったことを言っているのだと思いました。

睦夫さんは、こうつづけたのです。


「なにより小春が望んでくれていません……


これ以上、小春を追い詰めることはしたくないです」


私は睦夫さんに、小春の今の状態を伝えました。


睦夫さんはとても心配そうな顔をしました。


そのあと、睦夫さんはつぶやきました。


「小春は強いです……」



小春が強いことは、私も知っています。


小春は、かわいらしい見た目とは裏腹に、強いのです。


大変な症状をかかえているのに、いつだって前向きでした。


努力もたくさんしてきました。


ですが私は、正常な判断をできなくさせるのが、心の深い傷だということも知っています。


小春の強さを信じたいです。


だけど今の小春は、あのときの私の母と同じなんです。


このままそっとしておいたら、母と同じことになってしまうかも知れません。


もしそうなったら、私が何とかしないとならないのです。




 
 
 
 


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