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スープ割

なるべくスマートに、そしてカッコよく。

「スマート」を日本語に訳してもう一度読み上げると、同じことを2回言っていることになる。

カッコよくはいたい、カッコつけたいわけじゃない、でもカッコいいとは思われたい。

同じことを3回言っている。

私たちは、少しでも良く思われたい、同じことを何回も言いたい、そんな生き物なのだ。
(そんなことはない)(くどい)


その日私は、集合場所に予定より40分ほど早く到着してしまっていた。

約束の内容とは、

大学時代の同級生4人で泳ぐこと。

男女グループではない。男4人なのである。

海ではない。プールなのである。

流れるプールとかウォータースライダーとかある系のプールではない。

ゴリゴリの市民プールなのである。

ゴリゴリの市民プールで、ひょろひょろのアラサー男4人で、おじいちゃんたちに囲まれて、脇目も振らずに泳ぎまくるのが我々の毎週土曜日の恒例ミッションなのである。

目的は、、、

もう正直、分からなくなっている。

もはやなぜ泳いでいるのか、その目的すら分からなくなったヒョロガリアラサー男4人が一堂に会して脇目も振らずに泳ぐのだ。

こういう場合、人間は「考える」という行為を一度否定しなければならない。
考えてしまうと、それはすなわち負けになる。
今、なぜかこの文章を読んでいるとても暇なアナタは、何も考えてはならない。


ただ、私たちは泳ぐのだ。
それを毎週の恒例行事にしている。
それだけでいいのだ。

話が逸れた。

今回は、プールまでの40分の空き時間をどう消化するか?というお話だ。

集合場所の近くには、2ヶ月ほど前にオープンしたつけ麺屋があった。

オープン当初はお店の前にものすごい行列ができていて、2ヶ月後の現在、すっかり行列は無くなっていて、その店のそんなところを少し好きになりかけていた私は、せっかくなので待ち時間の40分をその店で使うことにした。

あるあるである。あるって3回言った。

さあいきます。

この店と僕はおそらく、

今まで話したことはなかったけれど、何かのタイミングでいざ話し出すと会話が弾みまくり、
「やっぱりボク達、仲良くなれると思っていたんだよねー」
ってやつ。きっとそのパターンだ。
そして2人はお笑いコンビになり、天下をとる。的なやつだ。

そんな予感がしていた私は、駅から、目当てのつけ麺屋へ一直線。店の前で一度仁王立ちをした。ドーン。初対面では、ちょっと気難しそうな奴だなくらいに思われた方が、サクセスストーリーのスパイスとなるだろう。結成秘話らしくなるじゃあないか。あとあと金スマで今日のこと振り返っちゃったりしてさ!!

俺たち、いいコンビになるぜえ…

そろそろまじで進みます。

さあ、まずは食券を購入だ。
オシャレな液晶パネル。
タッチパネル。
なんか、オシャレだな。
最近のラーメン屋はすげえな。

店に入る。
若くてかわいい女性の店員さんが、笑顔で「いらっしゃいませ!」
あざーす。
なんか、オシャレだな。
ラーメン屋さんに、若くてかわいい女性の店員さんがいる。
最近のラーメン屋はすげえな。

カウンターの一番奥に通された。

そのすぐ横は、オシャレな店員さん達の通り道。通称オシャレロード(ネーミングセンス❌)。

なんかよく分からんけど透明になっているキッチン(想像してください)と、なんか斜めっぽくなってるホール(考えるな感じろ)をつなぐ、通り道。
通称、オシャレロード。

私はそのすぐ脇の席に案内された。

定番の醤油つけ麺をスマートに注文。

「スープ割がなんとかかんとかです!」
と爽やかな男性店員さんに言われたが、骨伝導イヤホンをしていた私にははっきりは聞こえなかった。

まあいいや。

とりあえず、「はい!」
と、いい返事。

てか、ラーメン屋さんなのに店内にヒゲ生えてる人1人もいない。
最近のラーメン屋さんすげえな。

私はつけ麺をおいしく、且つスマートに食べ終えた。

ふう。

まだ集合時間まで時間もありますし、お客さん並んでないし(好き)、少し動画でも見て、店を出よう。

とか思ってスマートにスマートホンを開くと、爽やかな男性店員さんに「スープ割りをなんとかかんとかですか!?」と聞かれた。

イヤホンをスマートにオフにし、
「はい?」と聞き返すと、
「柚子と生姜からお選びください。」
と言われたので、

よく分からないまま、
「生姜で。」
と答えた。

生姜の方が、カタカナに変換した時にカッコいいフォルムをしているので
「生姜で。」
と答えた。

すると、数秒後に私の机に置かれたのは、

謎の銀のカップ!!

何とも説明しがたい、絶妙な大きさの、銀色のカップ!

エスプレッソ入れるやつあるじゃないですか。
あれより少しだけ大きい感じで。

軽量カップあるじゃないですか。
あんな感じで取手までステンレスで。

その中に黄色っぽい液体が入っているのだ。

おそらくこれはスープ割り。

つけ麺の汁を薄めて、飲みやすくするやつだ。


しかし、なんだ。

なんなんだこのサイズは。

正解が分からない。


オシャレつけ麺屋ビギナーの私は、このスープ割らしきものをどうすればいいのかが分からず、フリーズしてしまった。

私が迷った選択肢は、こうである。

①スープ割をつけ汁に入れて、いただく。
→いや、それにしてはスープ割の量が少ない気がする。こんな少量で、本当につけ汁は薄くおいしくマイルドになるのだろうか。大衆つけ麺屋の場合、でか巨大ポッドがカウンターにドーンと置いてあって、それを遠慮なくジャブジャブ使うだろう?これは、罠なのか?

②つけ汁をスープ割の方へ入れて、そのすこーしだけをお上品にいただく。
→それ以上飲もうとするのはルール違反…?
これが最先端オシャレつけ麺なのか。

③スープ割をそのままいただく。
→食後のコーヒー的なやつなのかこれは?確かに、生姜の味もついているようだし。蕎麦湯的なアレなのか。これをいただいてお口直しってこと?………ねえほんとに?


いや!!
まずはとにかく、早く動かねば。
スープ割らしきものが机に置かれてから、2分は何もせず、ただそれを見つめ、固まってしまっている。
私はオシャレロードの横に配置された、その席に座るに相応しい、有望な客なのだ。
オシャレ代表として、オシャレつけ麺の名に恥じない行動を取りたい。

というか、俺のすぐ横でシルバー類を拭いているお姉さんがそろそろ俺を怪しむような目で見始めている。

こいつ、オシャレロード脇のこの席に案内されておきながら、このスープ割をどうすればいいのか分からないというのか!?
みたいな雰囲気が漂い始めている。

やばい。なんとかしなくては。

私は、選択肢③を実行した。

なんか、間違ってたとしても、雰囲気でゴリ押せる気がしたからだ。
たとえ作法として間違っていたとしても、素材の味を確かめただけですよ的な感じが出て、こだわりが強い客だと思われて、最悪惚れられてしまうかもしれない。惚れられないにしても、大怪我をすることはないだろう。

ということで、とりあえずカップの縁を持ち、生姜スープをテイスティング。

しようと思ったら!!

あつっぅっづ!!

ってなった。


くちびるを、軽く火傷。

取手までもがステンレスのカップ。
カップ全体に熱を伝えまくっていた。

シルバーを拭いているお姉さんは、今の俺を見たのだろうか。
無様にあ"っづぅ!となった俺を見たのだろうか。

いや大丈夫。きっとバレてない。まだいける!なにが?は?

残る選択肢は2つ。

①スープ割→スープ

もしくは、

②スープ→スープ割

この二択。

どちらを選んでもおかしなところはあるような気がする。どっちだ…!?考えても正解がわからない。


①を選んで、
「こんな少ないスープ割をこんな大きなつけ汁に入れて、何か変わると思ったの?え?ヤバこいつ。」

と思われるのか。


②を選んで、
「いや何してんの?器用にレンゲでスープ掬って。こんな小さいところにちびちびスープ足して。おかしいと思わないの?え?ヤバこいつ。」

と思われるのか。


分からない。

困り果てた私は友だちのラーメン博士(43)にLINEした。
「お疲れ様です。今、つけ麺屋にいるんですけど、こんなスープ割が出てきて、どうすればいいか分かりません。早急に返事をください。」

送信。

俺はつけ麺屋にまで来て何をやっているんだ。

「これはどうやって使うんですか?」と、
店員さんに一言聞けば済む話だろうが!

なぜLINEでコソコソと飲み方を聞いたり、
予定を思い出すふりをしたり、
意味もなく指を折って数字を数えるふりをしたりしているんだ。

15分経過。


タイムアップ。

プールのお時間が来た。

結局分からないので、スープ割り(もはやそれすら疑わしくなってきていた)を、そのままにして逃げるように店を出た。

側から見たら、

「スープ割りをカップから直接一口飲んで火傷して、その後15分、机の上に置いてあるスープ割りを目で楽しんで店を出た男」

である。

意味もなく男4人で1.5キロほど泳いだ後、LINEを開くと、

「スープ割をスープに入れるんじゃないかな〜」

と、ラーメン博士(43)。

いや、遅えわ!!
んで、①だったんかい!!
てか、でかいポッド置いとけや!!
イレギュラーなことすんな!!

と思ったのでした。

スープ割を目で愛でる男(28)。

「めで」って2回言ってる。

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