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エルメスに学ぶ、価格の考え方#1

平成29年に「エルメスのてしごと」展というイベントが博多駅で行われた。

これはエルメスの様々なジャンルの職人の手仕事を目の前で見学しつつ、職人に質問などもできるというイベントだ。

もちろん私は、超高級エルメス一味など保有したことないし、今後も保有する予定(予算)はない。

しかし、世界有数の高付加価値ブランドのものづくりが直接見れて、質問もできるという機会は、滅多とない。

実際見に行って数年たった今も、かなり勉強になったなあと思っている。

そこで、私が観てきたこと、考えたことをお話したいと思う。

エルメスの手仕事は、皮や、スカーフ、皿など多岐に渡る。
エルメスの成り立ちについて簡単に説明すると、元々は1800年代にフランスで始まった馬具メーカーで、車社会の代頭で、鞄を作り始めたり、世相を反映したスカーフ作ったり、スカートにチャックを付けたりした。
そのような時流を先読みしたものづくりで、世界中にファンを作ったブランドだ。
いま、私たちの革鞄にチャックがついていたりするのは、実はエルメスの発明なのだ。

そんな歴史あるエルメスの手仕事展だ。
私は一番自分の仕事に近いように思えた磁器絵付けを見学した。職人は40歳前後の細身のフランス人女性だった。

磁器絵付け方法については、ものすごく細やかだったということ以外は言葉にしにくいため、割愛する。

ある程度見学すると、通訳さんが現れて、今から質問の時間を設けますという。

私は質問したいことがあった。

それは、ものづくりをする人間にとって、おそらく嫌となるほど質問され、かつ答えに困る質問。

スバリ「1つ作るのにどれくらいの時間がかかりますか?」だ。

一点ものアート作家ならともかく、まとまった数を納品するものづくり業。1つだけ作品を作るということはほとんどなく、一度にまとまった数の磁器を作る。

使う色などによって、絵付け箇所A→絵付け箇所B→絵付け箇所Cというように、まとめて進めていくはずだ。

これは、数を作らなくてはならない職人なら世界共通のはず。

実際、私もこの質問を受ける。

もちろん、1つの人形にさかれる時間を計測したこともあるが、この質問の正解はむずかしい。
ものづくりにおいて、実際に作品が作られる時間とは、例えば直接の絵付け時間などがあるだろう。しかし、絵付けするには、絵具を調合したり、筆を洗ったりする時間も必要だ。

他にも、乾燥させてる時間は?焼いてる時間は?作業中にかかってくる電話への対応は?工房に来られるお客様への対応は?割れないように丁寧に梱包する手間は?発送する手間は?

どこまでが1つの作品を作って、買ってくれた人に届くまでに要した時間なのだろう。

上記の時間を無視すると、意外と短い時間を答えてしまったりする。
「じゃあ、結構数を作れるものなんですね」
なんて言われた時に、
「いや、そうでもないんですよね、なんででしょうかね」となる。

そういう困る質問なのだ。

さて、私は天下のエルメスの職人に、このような少し意地悪な質問をしたことになる。

エルメスの職人さんは、質問を通訳さんから聞くと、微笑みを浮かべながら、間髪入れずにこう答えた。
「この1つの陶磁器には、私の絵付けのみで完成ということはありません。この陶磁器の原型を作ってくださった方、この絵付けの後さらに焼き上げる方の時間など、1つの作品には膨大な時間と人々の手間が詰まっているのです。」

私は思わず唸ってしまった、スマートな答えとは、おそらくこのようなことなのだろう。

例えば、うちの人形も、大原さんという福岡市の粘土屋さんから粘土を買っている。
大原さんは人力で地面を掘り返して、機械で土の不純物を取り除き、水と合わせ、均等の粘り気にして、定量ずつ袋詰めにし、うちまで配達してくれるのだ。

人形師によっては、粘土から自分で掘る人もいる。その手間を考えたら、膨大だ。

エルメスはそのような手間もしっかりと物の製作時間に含まれている。だから高級なのだ。

おそらく、ものづくりは、このように手間をしっかりと評価して、最終的な値段に反映させていかないと、どこかで歪みが生じて誰かが生活できなくなる。
みんなが無理をせず、ちゃんとした手間と技術に見合った対価を得ているから、ものづくりは続いていけるのだ。

ちょっと長くなったので、続きは明日書きます。






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