谷部の処理についての一考察及び「壊れない道づくり」と山の保全について

 みなさんごきげんよう。5期生の高橋です。

 前回,私は高田 宏臣 氏によるワークショップによって得た知見について記事を書きましたが,今回は,私たちヤモリーズが教えを乞うている岡橋氏の作業道施工(通称:壊れない道づくり)と高田氏との共通点,あるいは親和性について書いていきます。

 今回具体的に施工技術を比較するものとして,谷部の作業道開設(通称:洗い越し工法)を例にとります。

 まず洗い越し工法について簡単に説明します。
 洗い越し工法の原則は「谷部の水の流れを変えないこと」です。
 谷部を通る道を付ける場合,道はなるべく谷筋に対して直角に横切るように付けます。
 また,横切る場合,谷の手前の路面高を上げ,谷の中心部の路面高を下げ,中心部を過ぎたところの路面高を上げます。断面図をみると,お皿のような形になります。

画像1

谷部断面図


 こういう線形にすることで,谷部の水は道に入らず,谷の水の流れを変えないで道を付けることが出来ます。

 次に,水の流れるところの施工についてです。
 水の流れるところは水で削れないように砕石で盛り,流されないように木組みを設置します。

谷部木組み

 これが私たちヤモリーズが谷部に道を付けるときに行う洗い越し工法の基本的な形です(水の流れが大きい場合,あるいは谷が深い場合,道の山側に裏積工,谷側に土留工を行うのですが,今回はそれらの説明は割愛します)

 さて,この洗い越し工法を高田氏の講演から得た知見で見ていきます。

 高田氏は土壌の健全度は土中の空気と水の通りの良さで決まるとおっしゃっています。
 特に山の谷部は地表の目に見える部分の水の流れだけでなく,土中にも地下水脈のような形で膨大な水が流れているため,その水の流れを断ってしまうと一気に山は荒れ,土砂崩れなどが頻発してしまうとのことです。

 洗い越し工法は上記の観点から言うと,谷部の水の流れを変えないため水の流れを断たず,山の健全さを損なわない工法と言えると思います。
 また,谷部の道部分を木組みと砕石でつくることは,砕石の隙間を水と空気が流れるため,ここでも空気と水の通りの良さを担保しており,この点も山の健全さを損なわないため,洗い越し工法の優れている点であると思います。

 以上の観点から岡橋氏の洗い越し工法と高田氏の言う山の健全度を保つ方法について,共通点のあることが示せました。

 ただ,細部においては両者に若干の相違があります。

 洗い越し工法についていえば,高田氏は砕石に枝葉を差し込むことを提唱しています。
 枝葉を差し込むことでそれらが分解されて菌糸が張り巡らされ,より水が浸透しやすくなるとのことです。
 岡橋氏の洗い越し工法では枝葉を差し込むことはしません。砕石と土(と木組みの丸太)だけで作ります。

 また,作業道の施工全体での相違点もあります。
 岡橋氏は作業道施工について「排水」に特に注意を促します。
 上記の洗い越し工法にしても,最初に示した×の工法は水が道に流れ,路面が荒れてしまうため,「谷の水は谷に流す」という考えで洗い越し工法は〇のような線形になっています。

 対して高田氏は,水は「浸透させるものだ」という考えです。
 洗い越し工法では両者の考えの違いは特に問題になりませんでしたが,それ以外の道については相違が生じる場合があります。

 相違が生じる例の一つに,岡橋氏の道で良く行われる工法の「水切り」というものがあります。
 これは,路面を水が長い距離流れると路面が削れて荒れるため,20m間隔ほどでゴム板を道に対して斜めに設置し,水を路肩の谷側に流す工法です。
 この工法の考えの基本にあるのは,路面の水の「排水」です。

 高田氏は水は浸透させることが大事であるという立場であるため,浸透に寄与しない(かつ自然に還らない)ゴムなどを使うことには否定的です。
 実際,以前木曽で行われたワークショップで上記の水切りについて意見を求めると,ゴムでの水切りの方法について賛意を得られませんでした。

 このように,全ての点において両者の意見が合致しているわけではありません。
 ただ,これは私の直感ですが,両者の考え・方法は非常に親和性があり,決して両立できないものではないと思っています。

 ところで,私がヤモリーズに入った理由は岡橋氏の「壊れない道づくり」を学ぶに最適な環境であると思ったためでした。
 さらに「壊れない道づくり」を学びたいと思ったのは,山の荒廃を何とかしたいと思ったためでした。
 山の荒廃を食い止めるために,岡橋氏の知見,高田氏の知見ともに非常に有益なものであると思っています。

 私が今強く思うのは,岡橋氏の「壊れない道づくり」と高田氏の方法を統合し,山の健全度向上にも寄与する,最も「自然な」作業道づくりを見つけたい,ということです。
 まだまだ岡橋氏の「壊れない道づくり」に対する理解度も低く,経験も足りず,また高田氏の考えもまだまだ理解できていないため,具体的にどのような形になるか分かりませんが,両者を統合することは可能であるという直感だけがあります。

 さて,私がヤモリーズの一員としてnoteの記事を書くのは今回が最後になります。
 私は卒業後津和野を離れますが,新しい土地でも岡橋氏から学んだこと,ヤモリーズで活動したことで学んだことを活かし,林業を主軸に生き延びていきます。

 この記事を,そしてこれまでの記事を読んでくださってありがとうございました。

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