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ShortStory:チョコがやってきた、返ってきた

画像:The Hershey Company - pablind.org, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=50112113による。

*連合国軍占領下の日本では1945年から1952年までの7年間にわたり、連合国軍最高司令官総司令部の占領下に置かれた。

戦争が終わった。拓は3才。兄に連れられて進駐軍がよく来る市(いち)に出かけた。チョコレートを貰うために。進駐軍がジープに乗ってやってきた。皆が群がる。アメリカ兵もよく知っていた。やってきた子供たちにチョコを配る。チョコは栄養価が高い。

拓はチョコを1枚も手に入れることができなかった。チョコを手に入れた子供たちはクモの子を散らすように散っていった。兄もチョコを持っていたが、1枚だけだった。

寂しそうに佇む拓を見て、一人のアメリカ兵がチョコを持ってきて、拓の掌に持たせた。顔のほころぶ拓。拓の掌に2枚のハーシー。

兄に背中を押されるように家に帰る。拓の頭の中には、佳(よし)に持っていこう。佳は同い年だ。佳の父親が戦争で亡くなっていた。母親が一所懸命に育てていた。拓がチョコを手渡すと、佳は喜ぶより涙ぐんでいた。

母親は進駐軍の施設で働く機会を得た。やがて、母親は進駐軍の一人と親しくなり、赴任期を終えて、米国に母と佳を伴って帰って行った。


拓は克苦勉励、大学で教鞭を執っていた。学期末を向かえ、学年度末の行事を終え、新学期の準備を研究室で行うのが仕事だった。

3月に入った頃、研究室の戸をノックする音が聞こえた。返事をすると、若い女性が入ってきた。流暢ともいえないが、片言の日本語ではない。ハーシーチョコを1枚バッグから取り出した。

「これ、ママからです」

彼女はチョコを拓の掌に握らせた。

「お母さんから、ありがとうって・・・」

狐につままれた様だが、彼女の顔の骨格を見ると、佳の面影が見える。日本に留学して来たという。彼女はホームステイではなく、ちょっとしたアパート暮らしだという。

彼女は折に触れて、研究室を訪ねてくる。アメリカには、家庭の味があるという、ブラウニーを携えて。

おわり