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「Short Story:鰹節を商います」-続

見出し画像:「にんべんの歴史」から。


翻案:「江戸の起業家・高津伊兵衛」-続(「続」は物語ではありません)
1 鰹節の技術進歩、2 良品主義、3 現金掛け値なしの決済方法-革新的商法の導入


1 鰹節の技術進歩

室町時代に「鰹節」が考え出され、江戸時代になる頃、かなりの技術進歩が果たされていた。江戸時代・元禄時代は、料理の多様化が進んだ時期であり、人々の間で、料理や食を楽しむトレンドが起こり、鰹節も一役買うことになる。

伊兵衛も鰹節商品の技術を進歩させ、江戸庶民に鰹節随一と唸らせるまで商品開発を実現させた。言い換えれば、江戸市民に幸福をもたらすテクノロジーであった。

2 良品主義

 伊兵衛の努力が実り、技術進歩が良質の商品を実現し、提供できるようになった。その商品が人々の信頼を獲得し、いわば、ブランド化に成功した。鰹節と言えば、伊兵衛商店、伊兵衛商店と言えば、鰹節。信頼度が高まり、他を圧倒する鰹節商品になった。

3 現金掛け値なしの決済方法-革新的商法の導入

江戸時代の商法は「掛け」あるいは「掛け売り」が基本である。掛け売りは商品の引き渡しと現金決済が一致しない。商品を引き渡し、一定期間後に現金で決済することになる。

このため、掛け売りは現金収入がないことから、最低でも、半年分のキャッシュフロー(あるいは、資本)が確保されなければならない。現金決済になれば、余裕のできたキャッシュ・フローを技術開発や商業サービスの向上に振り向けることができる。

また、掛け売り(信用取引)は、資金を寝かせることになるとともに、貸し倒れのリスクがある。貸し倒れリスクをカバーする必要が出る。いわば、信用取引によるリスク担保を掛ける必要がある。そのために、商品価格に貸し倒れ分を上乗せすることになる。

当時、三井の越後屋呉服店が業容を拡大するために、掛け売りを廃止し、現金決済法を導入した。これによって、資金の効率が良くなり、貸倒れリスクがなくなり、価格をその分だけ安くすることができる。いわば、買い手から見ると、価格革命が起こっている。

これに倣って、伊兵衛も鰹節販売の現金決済法を導入し、当時の慣習や、慣例に囚われない革新的な「商法」を行い、江戸の民の要望に応えていった。伊兵衛も革新的起業家といってもよい。

参考本
・原田信男編(2014年)「江戸の起業家・高津伊兵衛」『江戸の食文化・和食の発展とその背景』小学館、160-162頁。