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読書ノート②:『ドローダウン-地球温暖化を逆転させる100の方法-』**V1

表紙扉裏には、「気候変動に対する現実的かつ大胆な解決策を纏めた」ものと表記されている。「ドローダウンDrawdown」はよく知られているとは思えないが、2014年に非営利団体Project Drawdownが設立されている。そこでは、地球温暖化を逆転させる方法を調査することになっている。

ドローダウンDrawdownは他の分野でも使われている述語termである。表紙扉の裏書きでは、

「ドローダウン、つまり大気中の温暖効果ガスがピークに達し、減少に転じる時点に到達できる」

とある。本書の中でドローダウンを説明している箇所は「言葉について」(17頁)において説明(地球温暖化を逆転させること)されているが、目次中にも、索引にもない。ちなみに、「地球温暖化を逆転させること」をどうやって行うかが重要であり、起きている派生的な問題に焦点を向けても詮無い話しである。

ドローダウン from DDJ

画像:DDJCドローダウン ジャパン コンソーシアムから。

Project DrawdownによるDrawdownの説明は以下の通りである。

The World’s Leading Resource for Climate Solutions
Our mission is to help the world reach “Drawdown”— the point in the future when levels of greenhouse gases in the atmosphere stop climbing and start to steadily decline, thereby stopping catastrophic climate change — as quickly, safely, and equitably as possible.

他にドローダウンの説明があるかもしれないが、どこにドローダウンが来るという説明もない。ドローダウン(もはやこれ以上温暖化が進まない時点)を早い段階で向かえることができなければ、地球上の生物にとって致命的な転換点をもたらす危険性はある。その転換点を過ぎれば、加速度的に環境は悪化していく怖れがあり、人類の生活環境ばかりではなく、生存環境も侵されることになる危険性がある。

日本では、本書の監訳者が江守正多*でなければ、注目されることは限定的になるだろう。

本書『ドローダウン』に限らず、気候変動問題は多様な問題を惹起・認識させる。しかし、多様性に着目していては、解決の努力が分散し、真因が何かを認識させることに失敗し、努力が気泡に帰する結果になりがちである。多くの問題を解決する方向性を誤れば、問題の重要性をゆがめてしまう結果になる。

気候問題の核は、動力(エネルギー)による経済活動が引き起こすものである。そこから派生する活動がさまざまな活動や問題を引き起こしている。限定して言い換えれば、現代の経済生産様式と、あるいは生活様式が引き起こしてしまったものである。これを構造的に改革しなければ、気候変動問題を改革したことにはならないだろうし、ドローダウンも向かえることはできない。ドローダウンが先延ばしになり、ドローダウンする前の山が一段と高かくなるだけである。

*江守正多:気候変動に関する政府間パネル第5次、第6次評価報告書主執筆者。

**ポール・ホーケン編著/江守正多監訳・東出顕子訳(2021)『ドローダウン-地球温暖化を逆転させる方法-』山と渓谷社。
Paul Hawken, Drawdown: The Most Comprehensive Plan Ever Proposed to Reverse Global Warming, Penguin Books, 2017.