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出町柳の磯辺揚げ

標題画像:E・レシピからhttps://erecipe.woman.excite.co.jp/detail/process/cb7abe63ef0fe4ffd783416c40c2e70a/。

おび

(昔、昔)すごく有能な仲の良かった友達が京都の大学に進学した。彼の下宿は出町柳にあった。彼を訪ねていき、夜前に下宿に着いた。町屋の下宿で、決して広くは無かった。家は新しくは無かったが、親が裕福だったのか、小綺麗な下宿だった。

友達に誘われるまま、夕食を食べるために、出町柳まで歩いて、まかない食を提供する食堂に行った。ポツンと灯火する電球が一つ点る薄暗い食堂で、使い古したテーブルに、使い古した角椅子が置いてあった。二人で向かい合わせに座り、メニューを見る。

それほどメニューは無く、ありきたりの定食を頼んだ。出てきたメニューを見ると、天ぷらに白飯と味噌汁の定番料理のようだった。友達に勧められるまま、箸を付けようとした。天ぷらはよく見ると、穴が空いていた。これってチクワの天ぷら、瀬戸内育ちの自分にとってチクワを天ぷらにするアイデアは知りもしなかった。 

後で分かったことだが、「磯辺揚げ」だったらしい。「磯辺揚げ」はもちろん、チクワの天ぷらも食べたことが無かった。母も作ったことが無く、住んでいる町にそのような料理も無かったのか、「磯辺揚げ」という言葉も頭の片隅にさえなかった。

しかし、その磯辺焼きともいえないかもしれない「チクワの天ぷら」は若い自分にとっては、初めての美味しさを感じさせてくれた。

それ以来、友達にも会うことは無く、磯辺焼きの天ぷらも食べる機会がなかった。しかし、友の歓待と磯辺揚げの味は脳裏にしっかりと刻み込まれている。

おび