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ごくうが行く:雨傘の女子高生

おび

ごくうは風が吹こうが、槍が降ろうが、もとい雨が降ろうが、雪が降ろうが、氷が張っていようが,散歩に出かける。几帳面に。いや几帳面すぎる。散歩時間が少しでも過ぎると、怒ったように吠える。

ごくうが来てからしばらくして隣町にある学校(中高一貫校)の下校時間と同期したようだ。数人の中学校生とよく出会いだした。男の子2人と、女の子1人と。

男の子1人は散歩コースに家があったので、小学校6年生から知っている。最初は挨拶していたが、思春期の所為か避けて通るようになった。でも軽い挨拶だけはする。ごくうには関心を示さない。もう一人の男の子は「真面目」が顔に出ているくらい真面目そうだ。ごくうには目もくれず、いつも挨拶して通り過ぎる。

女の子はごくうを見ると、行き違うまで見ながら過ぎ去る。数回出会っている内に、微笑みながら会釈をするようになった。後で分かったことだが、放課後塾に通っているので、月に1回出会えば多い方である。

女子高生になっても、出会えば、会釈し、ごくうを遠目で見るようにするが、可愛がることはない。夏休みになったある日、女子高生は自転車でコンビニ行くのか、ごくうの散歩時に重なり、側をはにかみながら通り過ぎていった。ごくうは自分の散歩コースが気になるのか、強くリードを引っ張る。

ごくうの散歩時間は季節(日没時間)によって変わる。時間が違えば、会う人も変わってくる。いつも出会えば、手を上げるシルバーがいる。そのシルバーとよく出会うようになった。東北で地震が起これば、気が気ではないと話す。息子さんが関東に住んでいるという話だった。

梅雨の時季になった。その日は用事があり、散歩時間が遅くなった。雨の中をものともせずごくうは散歩に出かける。帰り道、坂の上から傘を持った人が下ってくる。薄明かりの中、傘の人が「あれっ・・・」と立ち止まり、ごくうを覗き込む。ごくうはかなり濡れていた。

女子高生だった。

「ごくう・・・」

名前を教えたことはないのに、ごくうの名前を知っていた。ごくうに近寄り、撫でようとする。

「雨で濡れてい・・」

言いかけたが、女子高生は傘をごくうに差しながら濡れるのを構わず撫でる。ごくうもそれに応える。ブランドの制服で、スカートにごくうの濡れた身体が擦られる。満足したのか女子高生は会釈して帰って行った。ごくうも家に帰っていく。

「あの女子高生、名前を知っていたよ。」

「この間もごくうの名前を知っていた人いたじゃ。」

「どうしたんかねー。」

腑に落ちないが、話が終わる。

そのことがあってから、女子高生は出会えば(時を置きながら、4,5回だが)、挨拶をしていく。

ある日、また遅く散歩せざるを得なかった。街頭が全て点灯した頃、公民館の側まで来たとき、女子高生に不意をつくように出会った。

「あれっ」

と声をあげたときには、ごくうは女子高生に撫でられていた。

一通り撫でると、会釈して分かれて行く。

妻が「家の近くかねー」と相づちを求める。

「そうなんじゃない」

確信もなく応える。

しばらくして、さらに遅い散歩になり、団地入り口付近で女子高生に出会った。疲れを癒やすかのようにごくうを撫でる。

「コロナで大変でしょう」

「ええ」

ごくうを一通り撫でると、女子高生は坂を下っていった。ごくうは団地に向かって歩いて行く。

新学期になった。もう帰宅時に出会うこともないだろう。女子高生は高校を卒業しているはずだ。ごくうも7才を過ぎていた。

おび