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ep.10 逃走中。
「あ、来る! 来てるっ!」
2005年6月。僕はマナーマの競技場にいて、目の前ではジーコジャパンがバーレーン代表と戦っていた。いつもなら試合に集中しているところだけれど、この日はそういう訳にもいかなかった。
追手の目を盗みながら撮影する羽目になったからだ。
なぜそんなことになってしまったのか。数時間前におこなわれたメディアブリーフィングで事件が発生した。
中東訛りのプレスオフィサーは、会見場でおこなわれたブリーフィングで、日本からやってきた60名余りのカメラマンに対して、40名ほどしか撮影の許可を出さないと言い出したのだ。
「え? このタイミングで??」
次々と名前が読み上げられてADが配られた。僕の名前は呼ばれなかった。呼ばれなかった者は客席に行けと言っている。
マナーマのスタジアムは陸上競技場で、なだらかな傾斜な上に頑丈な金網まで設えてある。そんなところに閉じ込められたら何も撮れないことは明白だった。
「こ、これは、、面倒なことに、、」
すると、今度は部屋の隅でカメラマン用のビブスを配り始めた。しかし、リストと身分証を照合するようなことはせず、本当にただ配っているだけだ。
試しに人だかりに加わり手を伸ばしてみるとビブスを渡してもらえた。名前を呼ばれなかったカメラマン同士で目配せし合う。ビブスを手に入れた者は息を殺してプレスルームから姿を消した。
逃走生活の始まりだ。
僕はスタジアムの外に出て(逃げて)、雑感を撮ることにした。キックオフのギリギリのタイミングでピッチに戻れば問題ないだろうと思っていたけれど甘かった。
スーツを着たハンターが、いや、メディアオフィサーがADの有無を確認して歩いている。
撮影しながら、一定の距離を保つ。こういうときカメラマンには演技力が求められる。さり気ない移動を繰り返していると、試合が始まった。
正直、試合にはまったく集中できなかった。
「あ、来る! 来てるっ!」
試合中も衛星のように周回する彼の存在が気になったから、小笠原が決めた決勝ゴールなど記憶にあるはずもなく、ひたすら怯えていた印象しか残っていない。
久しぶりに試合の映像を確認したけれど、画面の上(バックスタンド側)を人影が動くとドキリとしてしまう。
「逃走中」は見ている分には楽しいけれど、当事者になって分かったことがある。
逃走生活は、、心臓に悪い。
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