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マイクロノベル(6〜10)

◼️マイクロノベル6(「落ちましたよ」)

「落ちましたよ」なんて出会いのきっかけになったり、熱にうなされる子供の頭を冷やしたり、あの娘の涙を拭ったり、まあ普通に手拭いがわりに使われたりと、そんな風に私はなりたかった。なのに何故、空を飛んでは人を驚かさなければならないのかと一反木綿は不服に思っている。


◼️マイクロノベル7(寝ていると金縛りにあった)

寝ていると金縛りにあった。目の前を霊が通り過ぎた。霊が戻って来てこちらを見ている。男の霊だ。「あー、やっぱりフリーズしてますね。再起動して下さーい」男は宙に向かってそう言うと壁の中へ消えて行った。その時私は心霊現象の正体を知ると共に自分自身の正体も知ってしまった。


◼️マイクロノベル8(掌を太陽に透かして見れば)

掌を太陽に透かして見れば、掌の中で金魚が泳いでいた。僕は吃驚して「うおっ!」と言い金魚も吃驚して「ぎょっ!」とシャケんだ。「出鱈目だね」そう言い捨てたのは一部始終を見ていた鰯市在住魚本さん家の長男さばお君で、彼は本日が9歳の誕生日である。それは目出鯛ことである。


マイクロノベル9(ある疫病の特効薬)

ある疫病の特効薬を発明した博士は莫大な利益を得た。だがこの薬には重大な副作用があった。それは出来事全てが肯定して見えてしまうというものだった。「ポジティブになる事で悪い事はないだろう」そう言って薬を飲んだ博士は、疫病に苦しむ患者を見て高らかに笑うのだった。


◼️マイクロノベル10(自分が小説の登場人物だったとしたら)

自分が小説の登場人物だったとしたら、呼び捨てにされるのはごめんだなと藤沢アキラは思った。「藤沢アキラ」と三人称で勝手に人を呼び捨て、操る作者の存在を俺は絶対許さないだろうと藤沢アキラは強く思った。そしてまるで自分がそうしたいかのように藤沢アキラは走り出すのだった。


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