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マイクロノベル(21〜25)

◼️マイクロノベル21(男は30年顔を洗っていなかった)

男は30年顔を洗っていなかった。顔に水がかかるのが苦手だったのだ。今日気紛れに顔を洗ってしまい困った事が起きた。まるで別人の顔になってしまったのだ。目の窪みと鼻周りの長年の汚れが化粧の様に影を作り彫りの深い顔にしていた様である。のっぺりとした見知らぬ顔に茫然とする。


◼️マイクロノベル22(友人宅を訪ねると)

友人宅を訪ねると祖母だという老婆が応対してくれた。友人は旅行中で留守なのだという。入って午食でも摂って行かないかと言われ、断るつもりがつい御邪魔して婆さんの作る手料理に舌鼓をうった。後日友人にその話をすると、祖母は随分前に死んでおりそんな婆さんは知らないと言った。


◼️マイクロノベル23(広場で)

広場で白いYシャツを着た男女らがYシャツに赤ワインをかけあっている。それはYシャツが赤ワインを飲んでいる姿だった。一人の作業員が上機嫌なYシャツの横を通り過ぎようとした。フラつく一枚のYシャツとぶつかり持っていたペンキをぶちまけた。ペンキをかけられたYシャツは嘔吐した。


◼️マイクロノベル24(「聞いて、変な夢を見たんだけど」)

「聞いて、変な夢を見たんだけど」「人の見た夢の話はつまらないよ」そう言ってAは立ち去った。仕方なく夢の話は別の友人Bにした。その翌日、Aが通魔に殺された。Aはあの夢の話を聞いていれば助かったかも知れない、とBが言ったのは、その事件が私の見た夢の出来事の通りだったからだ。


◼️マイクロノベル25(最悪の出来事)

最悪の出来事だ。うつ伏せに横たわる俺の背中に墓標の様に屹立するのは、刃渡り約40センチはあろうかと思われる刺身包丁だ。まるで小さい頃飼っていた亀が死んだときに作った墓の、墓標で立てたアイスキャンディの棒みたいに、それは間抜けに突っ立っていた。


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