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SUPER BEAVER担当A&Rに聞く映画の主題歌ができるまで

こんにちは!TCP公式note編集員のHikaruです。今回は、TCP2017審査員特別賞受賞の映画『水上のフライト』、主題歌を担当されたSUPER BEAVER(スーパービーバー)の担当A&R五十嵐さんに突撃取材!五十嵐さん自身やA&Rの仕事内容についてはもちろん、映画の主題歌ができるまでをお伺いしてきました。映画業界に興味のある方だけでなく、音楽にも興味があるという方、必読です(取材・文 Hikaru)

株式会社ソニー・ミュージックレーベルズ ソニー・ミュージックレコーズ
A&R 五十嵐 拓(いがらし たく)

――本日はありがとうございます。最初に自己紹介をお願いできますか?

五十嵐:五十嵐 拓(いがらし たく)と申します。ソニー・ミュージックレーベルズという、SONY MUSIC グループ内でもレーベル機能を持った部署にA&R(*1)として所属しています。SUPER BEAVERを始め、現在は複数のアーティストを担当しています。

※1 Artists and Repertoire(アーティスト・アンド・レパートリー)の略称

――具体的にA&Rという職業は、どういったことをされるのでしょうか?

五十嵐:会社によっても様々なのですが、主にCDのリリースに伴う企画、宣伝プラン立案等、制作&宣伝の両方をアーティストと話し合いながら決めていくのが主な仕事ですね。例えば「次の楽曲はどういった方向性でやるのか?」等、より多くの人に届けるために考えを巡らせます。

――映画業界で例えるとプロデューサー的なイメージでしょうか?

五十嵐:そうですね。その側面もありますが、出版業界で言う、作家さんと出版社の関係に近いのではないかと思っています。あくまでアーティスト主体で諸々を進めていくので、私自身は色々な社内(部署)の意見をまとめて、取捨選択し、代表してアーティストに繋げていく役割だと思っています。今回のような映画タイアップだと、監督や映画スタッフの方々の意見を聞いて、とりまとめてアーティストに伝え、反映する形です。

――A&Rとしてのキャリアは長いのでしょうか?

五十嵐:2008年新卒で入社してから、最初はエピックレコード(*2)内の映像制作の部署に2年配属になりました。3年目からA&Rや制作業務をしているので、現在で10年以上になります。当初は、やはり慣れないことも多くて、アーティストと直接話をさせていただく中で、色々とご迷惑をおかけしたかと思います。基礎的なプレゼンの仕方、モノづくりの考え方を傍で見させていただいて、多くを学ばせていただいたという点で、すごく重要な時期でした。

※2 ソニー・ミュージックレーベルズの社内レコードレーベル

――五十嵐さん自身は、映画も好きだし、やはり一番は音楽好きなのでしょうか?

五十嵐:実は、大学時代の専攻が映像なんです。元々は脚本とかも書いていて、それで賞をいただいて、TSUTAYAのインディーズムービーフェスティバル(棚)に並べてもらっていたこともありました。

その後、思うところもあって、映画監督には自分は到底なれないなと思ったんですが、ものづくりには関わりたいなと思っていました。ソニーは音楽だけでなく、他にも幅広く事業を行っているので、魅力的だなと入社を決めました。

――ご自身で楽器もお弾きになられるんですか?

五十嵐:高校時代は文化祭レベルでバンド、大学は軽音でギターをやっていました。今振り返ると、大学の時にものづくりの勉強をしている中で、作り手がどんな思いを込めてやっているか、身をもって僅かながら知ることができたと思います。アーティストと関わるとき、リスペクトを持って接する上で、今に活きていますね。

映画『水上のフライト』とSUPER BEAVERについて

――TCP2017審査員特別賞受賞の映画『水上のフライト』。主題歌『ひとりで生きていたならば』ができるまでをお伺いさせてください。そもそも、五十嵐さんとSUPER BEAVERのご縁はいつからだったのでしょうか?

五十嵐:実は入社時、エピックレコードにSUPER BEAVERが所属していて、メジャーとして最後の一枚(2010年:3枚目のミニアルバム『SUPER BEAVER』(スーパー・ビーバー))のリリースに携わったというご縁がありました。彼らがメジャーから離れるタイミングで、なんとかエピックに残せないかと思っていたのを覚えています。一度彼らがメジャーを離れた後も、たびたびLIVEのツアーを観に行ったり、ほぼボランティアでPVを撮ったり関係は続いていました。純粋に良いバンドなので、応援したいという気持ちが強かったです。

――SUPER BEAVERの第一印象はどんなものだったのでしょうか?

五十嵐:会う前ももちろん、音源や写真で知ってはいたのですが、LIVEを見たことがなくて、当初はソリッドなロックバンドというイメージでした。ただLIVEを見た瞬間に、強烈な熱量を感じて、こんなに人間臭いバンドだったのかと良い意味で驚きましたね。LIVEバンドとしての魅力をたたせていった方が良いのではないか、と皆で話し合った事を覚えています。

――アーティストによってマネジメントの仕方は違うのでしょうか?SUPER BEAVERならではの特徴はありますか?

五十嵐:本当にアーティストによって異なるので、固まった「これ」といった仕事の仕方はないです。アーティストと密にコミュニケーションをとって、今後の展望や、どんな気持ちで音楽活動をしているかなどヒアリングし、アーティストにあったプランニングをするよう意識しています。みなさんが思う魅力と、自分たちが思っている魅力を常に考え、それが伝わるような施策を考えています。

個人的には、極力LIVE(現場)を観に行くようにしています。見る中で、楽曲の新たな側面や魅力に気づいたり、宣伝プランを思いつくことがあります。

――「水上のフライト」でSUPER BEAVERを起用するキッカケを教えていただけますか?

五十嵐:2020年にSUPER BEAVERがメジャーに再契約するという大きなトピックスがあったからというのが大きいです。2015年ごろからずっと、もう一度一緒に仕事をしてみたいと思っていたので、メジャー再契約には、大きな作品とタイアップして、華々しくしたかったんです。そんな折、映画側さんからありがたいことにお声がけをいただいて、タイミングがピッタリだったので、ご一緒しようと決断しました。

また本作は、SUPER BEAVERメンバー自身にも重なる作品だったと思います。誰しもが経験する、目標途中で大きな挫折をすること。そこから主人公・遥のように周りの支えもあって、前向きに、新たな目標を掲げ再スタートをしていく。2005年先輩、後輩で結成をして、TEENS' MUSIC FESTIVAL 2006で大賞を受賞し、順風満帆にメジャーデビューをした彼らですが、自分達の方向性を見つめ直し、一度メジャーを離れる決断をする。その後、仲間を増やしていって、改めて4人で再スタートする。彼らの軌跡と本作には重なりがあり、本当に良い作品に巡り合えたなと思っています。

――どの段階で主題歌のオファーがあったのでしょうか?

五十嵐:脚本の段階で一度見させていただいて、作詞&作曲担当の柳沢に共有し、読んでもらって、楽曲を提案させていただきました。制作期間を考えると、映画が完成してからだと間に合わないので、基本どの作品も、まず脚本をいただいて、撮影始まる段階では、ある程度は楽曲が完成しているイメージです。

――制作のウラバナシはありますか?

五十嵐:そうですね。最初数パターンご提案をさせていただいて、監督やプロデューサー含め聞いてくださって、より映画の世界観をご説明いただき、メンバーとも緊急会議で集まって話し合う。そんな一夜がありました。その後すぐに完成し、再度共有したところ快諾いただきました。

――THE HOME TAKEを見させていただいて感動しました。

五十嵐:新型コロナウイルスの流行で、メンバー自身が自分で撮らなければいけなくなってしまったんです。大変でしたが、無事やり切ってよかったなと思います。

――「ひとりで生きていたならば」は、一般の方からも映像を募集されたPVも印象的ですが、どのような経緯で誕生したのでしょうか?(サビ部分を自宅で歌っている映像を募集し、採用された方の映像はPVに使用されるという演出協力の企画を呼び掛けていた)

五十嵐:実は当初、別のPV案で動いていたんです。そんな中、コロナが流行し、アーティストが集まれなくなってしまいまして。メンバーの入り時間もそれぞれ変えて収録したので、大変だったのですが、コロナだからこそできた取り組みだったなと、今では感じています。

――TCP公式noteの読者は、クリエイター志望の方がほとんどですが、特にA&Rになりたい方へメッセージをお願いできますか?

五十嵐:A&Rはセンスも大切かとは思うのですが、何より熱意と愛情が大切だと思います。楽じゃないこともありますが、楽しいこと、A&Rだからこそ学べたことが数多くあります。普段経験できないことができるので、ぜひぜひ希望をもって入ってきて欲しいなと思います。

最後に一言

――本日はありがとうございました。最後に一言お願いします。

五十嵐:こちらボーカル・渋谷が執筆した本なのですが(本を取り出し、見せながら)、SUPER BEAVERの軌跡を描いた自伝小説となっており、多くの人に勇気を与えられる作品になっております。個人的には映画化をしてもいいほど面白い本になっておりますので是非読んでもらえたら嬉しいです。
本日はありがとうございました。

都会のラクダ(SUPER BEAVERボーカル 渋谷龍太さん執筆)