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【序章】N-3~N期までのIPO実務、論点ごとに有用なスキルと求められる人材

本章は下記よりご覧ください。

はじめに

IPOといえば、いつの時代も花形の業務のように捉えられることが多いですが、そのイメージとは裏腹に、実態としてはかなり泥臭く広範囲にわたる様々な業務が存在します。

世の中の書籍や記事ではIPOにまつわる様々な論点を整理したものはありますが、いずれもしっかりとした機関や媒体で公表されていることもあり、概念的で本音の部分が省略されていたり、馴染みのある言葉や表現でラフに書かれたものは少ないのではないかと思います。

- 想定する読者

本記事では、次に示すような想定する読者を対象として「なるべく具体的に、実務のイメージがざっくりでも湧くように」という観点を意識しながら、執筆していきたいと思います。

本記事の想定する読者
・上場準備会社への転職に興味はあるが、具体的な業務のイメージがついていない方

・独立前もしくは独立後でIPOコンサルに興味はあるが、提供サービス範囲が定まっていない方

・現在上場準備予定/準備中で全体感をざっくりでも把握しておきたい関係者の方

とくにこと転職においては、本記事で示すような業務が、募集要項の必須/歓迎要件欄に箇条書きで簡潔に記されるため、入社前後で会社と求職者の間でギャップが生じやすく、そういったトラブルを避けるうえでも上場準備の背景理解は重要です。

また、会社側の本音としては、できるだけ追加のコストをかけずに上場したいため、募集要項や現状の職務に捉われることなく社員が自発的に各領域をカバーしてほしいという思いがある場合も多いので、「自身の習得したいスキルや経験」と「会社の求める方向性」が一致する領域を見極めるうえでも本記事を活用いただければ幸いです。

- IPOスケジュール概観

IPOの一般的なスケジュールは下図の通りです。なお以降の話では、東証での上場、とくに現在未上場の場合は大抵スタンダードやグロースを目指すことになるはずなので、それらを想定して話を進めます(基本的な考え方は、他の市場でも大きくは変わらないと思いますが参考程度にご覧ください)。

- IPOで生まれる需要

IPOはよく大学受験に例えられることが多いですが、それに置き換えて考えると、東証が大学やセンターの試験官であり、監査法人や証券会社や各種コンサルが予備校の講師陣のようなものと捉えられるかもしれません。

上場審査は、足切りのような最低限クリアしなければならない項目はあるものの、100点満点というよりも70点を取れれば合格できる試験であり、合格ラインに達するために会社の現状を分析し、理想とのギャップを少しずつ埋めていくことになります。

未上場の会社では殆どの場合、各種体制を整えるインセンティブが存在しないため、合格点との差はかなり乖離します。だからこそ、外部の支援会社や新たな人材が求められるのであり、その背景を理解し必要なスキルを訴求できれば、対象会社との新規契約や転職についても優位に進められるのではないかと思います。

- 本記事の構成

次章以降では、IPOにおいて必要となる業務やスキルを項目ごとに紹介していきます。

前述のスケジュールの通り、IPOでは取引所での審査・上場申請を行う期=申請期(N期)を基準として、そこから直前期(N-1期※エヌイチ、エヌマイナスイチなどと呼称)→直前々期(N-2期)・・・、のように区切られます。

各期において求められる業務について、一般的な考え方はあるものの、具体的なスケジュールは会社の状況によって異なるため、本記事の構成についてはその流れの大枠は意識するものの、あくまで順不同な個別の論点として記載します。

また、それぞれの業務はその会社の業務分掌(どの部署がどこまでの範囲の業務をカバーするのか)にもよりますので、部署に関する名称などはあくまで参考程度に、論点としてあがりやすい必要な「機能」という程度にご理解ください。

上記の通り、以降の章は必ずしも上から順番に読む必要はなく、ご自身が気になる論点をピックアップしていただければ幸いです。

1. 全般

- デューデリジェンスの実施

IPOは大学受験にも似ているという文脈でもお伝えした通り、上場に必要な合格点とのギャップを見極めるうえでは、会社の現状理解が重要です。こういった現状把握は内部でも行うことはできますが、客観的な視点や専門性が求められる領域でもあるため、ファンドが株主となるような案件ではとくに、第三者に依頼することが一般的です。

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