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香川県のお産を、全国ワースト5から世界一に! 遠隔医療のイノベーター メロディ・インターナショナル㈱ 尾形 優子CEO

日本の産科施設は、この10年で約2割も減っています。香川県の周産期医療は、かつて全国ワースト5でした。

そんな危機的な状況下に起業したのが、香川大学発ベンチャーのメロディ・インターナショナルです。同社や顧問らの貢献も大きく、いまでは、香川は世界で一番安心な地域になりました。

すべての妊婦に安心安全な出産環境の実現を目指す、医療革命が始まっています。

尾形優子(おがた ゆうこ)氏:生涯において2度目の創業。1度目は日本初の産婦人科電子カルテの事業化に成功。インターネットと医療ICTの創世紀からの経験を生かし、周産期遠隔医療プラットフォームの構築とビジネス化を目指す。
このインタビューは、かがわ経済レポート2021年2月15日号のトップインタビューより一部抜粋・再編集してご紹介しています。

2度目の創業です。その背景は?

ミトラを経営していた当時から、日本の産科医不足が問題になっていました。この10年で約20%も産科施設が減っています。香川も例外ではありません。

原因は産科医の過重労働と高い告訴リスクにあります。

このような状況に、遠隔医療のチカラで貢献できないかと2015年にメロディ・インターナショナルを創業しました。

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しかし、必要な資金や人材、整った技術力も足りず、専門家から「地方のベンチャーでは無理な話だ」と批判を受けるなかでの出発でした。幸いにもその後、人材や施設などに恵まれ、スピード感のある事業展開が実現できています。

内閣総理大臣表彰「ものづくり日本大賞 2019」経済産業大臣賞ほか多数受賞。

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左:尾形 優子CEO 右:二ノ宮敬治CIO(最高情報責任者)

世界一安全な香川のお産

WHOの示す母子死亡率の統計データによると、日本の周産期医療は世界一優れています。

香川はかつて全国ワースト5でしたが、近年トップ1〜3位で推移しており、世界で一番安心な地域になりました。

これにはメロディ・インターナショナルの顧問である原 量宏先生(香川大瀬戸内圏研究センター特任教授)と竹内康人先生(香川大瀬戸内圏研究センター客員教授)の貢献も大きい。二人は現在の世界標準となっている、分娩監視装置の基本原理の発明者。データに基づいた精度の高い診断が、日本の周産期医療の安全性を高めました。

世界基準の大型装置を手のひらサイズに凝縮

当時の装置は大型かつ高額。小さな病院や在宅ケアには適しにくいという課題がありました。

そこで、約1/50の重さのモバイル型胎児モニター「iCTG」を香川大と共同開発したのです。母子の健康状態を、妊婦さん自身が(医師の指導の下)いつでもどこでも計測・記録できる、手のひらサイズのハート型デバイスです。

測定したデータはタブレットなどから遠隔地の医師に送信し、クラウドサーバー「Melody i」経由でデータを共有。医師は外出先からデータチェックや指示ができますし、万一異常があればオンラインで患者さんを看ることもできます。

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また、病院側から妊婦さんにデバイスを貸し出すことで、通院コストや入院の負担を減らします。

このシステムは、病院間のデータ連携にもいかされ、里帰り出産や大きな病院への紹介もスムーズ。救急搬送中の妊婦さんがたらい回しにされる悲劇を防ぎます。

コロナ禍でオンライン検診に切り替えた妊婦さんはもちろん、離島・へき地の「産科過疎地域」や、ハイリスクといわれる高齢出産の安全にも効果を発揮。より深刻な専門医不足にあえぐ発展途上国においても、 遠隔医療が高度な周産期ケアを可能にしました。

パンデミック以降ニーズが急増中です。導入状況は?

現在、世界130の病院にメロディ・インターナショナルのシステムを導入いただいています(2020年12月時点)。

そのうち海外はタイ、ブータン、カンボジアといった医師不足の80の病院、国内は50の病院に導入済みです。

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北海道大学病院の事例では、臨時的に健診の80%を在宅で受けられるオンラインに切り替えています。

香川県下ですと、香川大学医学部附属病院、サンフラワーマタニティークリニック、よつばウィメンズクリニック、小豆島中央病院の4つの病院で活用され、さぬき市民病院では実証実験中です。

香川でもオンライン遠隔医療が始まっているのでしょうか?

コンパクトで通院しやすい香川では、オンラインのニーズはそう多くないんです。まずは新型コロナ感染対応として導入いただきました。

現在は次のフェーズに入り、香川の病院間でデータ連携を構築中です。香川は遠隔医療の先進地域で、全国初の全県的な遠隔医療ネットワーク「かがわ医療ネットワーク」の土壌があります。このデータ連携によって、妊婦さんの容態が急変した場合でも、大きな病院の受け入れがスムーズになります。

国や地域によって要望はさまざまですが、私たちのシステムはすべてのニーズに対応しています。

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画期的な遠隔医療のモデルに向けて

離島・へき地は医療体制の充実が喫緊の課題になっています。少子高齢化がすすむ粟島での「三豊市粟島スマートアイランド推進プロジェクト 遠隔診療と無人ドローン配送」の実証実験に、遠隔医療のコーディネーターとして協力しています。

香川大学㈱かもめやあいおいニッセイ同和損害保険㈱などによる合同実験です。

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今回、島唯一の医療機関・粟島診療所では対応できない急患が訪れた設定で遠隔診療のテストを行いました。

① 心臓に疾患を抱えた島の患者と本土の病院にいる医師をプラットフォームでつなぎ、オンライン問診。
② 検査に必要なモバイル心電計を本土から無人ドローンで患者のもとに届ける。(片道最短10分)
③ 患者のバイタルデータを医師がリアルタイムで診断。薬剤師がオンライン服薬指導も実施。

こうした事業を本格的に行うのは全国でも類を見ないこと。医師、患者さん、診療などすべてリアルです。

画期的な遠隔医療のモデルであり、日本の縮図ですよね。他の過疎地で遠隔医療を待ち望んでいる患者さんにも役立てていただけたらと思います。

遠隔医療の未来とは。世界をどのように変えていきたいですか?

新型コロナを受けて、オンラインによる遠隔診療の導入が進んでいますが、今後もこの流れは世界的に広がっていくと見ています。

現在「コロナ時代の世界連携」がアクティブ化しています。香川大らと展開している産学官連携で、このほど実施した2度の海外向けオンラインレクチャー(Youtube:日本語)にも多くの医療関係者が熱心にご参加くださり、注目度の高さがうかがえました。

その一方、日本中で病院が集約化され病院の数が減っています。精神的・経済的な負担を抱える妊婦さんに、オンライン遠隔医療が助けになります。

おなかの赤ちゃんの心音をデバイスを通して聴き、禁煙に成功したお母さんもいます。赤ちゃんの小さな心音はひとりひとり違っていて、まるでメロディ(旋律)のようなんですよ。

妊婦さんが不安な状況は、世界でも変わりません。直近の目標は自社の海外支店を設けること。いずれは支店を増やし、地域ごとの課題解決に向けた世界連携の強化を目指します。

「世界中すべての妊婦さんの健康と新しい命を守る」

それが私たちの理想であり、遠隔医療プラットフォームとしての未来のビジョンなのです。

メロディ・インターナショナル ㈱
・住所:香川県高松市林町2217-44ネクスト香川304
・公式サイトURL:https://melody.international/

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