なにか見える
【あらすじ】
同じ学生用アパートに住む中村から突然呼び出された山田。「ちょっと付き合ってくれないか」と言われるままついていった結果、なぜか夜の公園で空を見上げる羽目になる。
「流星群でも見れるのか?」
焦れた山田がそう訊ねても、中村は「もうちょっとしたらわかるから、黙って見てろ」と言って教えてくれない。
やがてそこを通りかかった人たちも、彼らにつられて次々と空を見上げ始めるが……。
(原稿用紙約6枚)
街明かりから少し離れた位置にある公園を、山田は中村と並んで歩いていた。同じ学生用アパートに住む中村から、「ちょっと付き合ってくれないか」と連れ出されたのだ。
残暑厳しいとはいえ、この日は肌寒いくらい夜冷えしていた。本当なら部屋にこもっていたかったが、柄に似合わず神妙な面持ちの中村を前にすると、どうにも断り辛くて山田はつい承諾してしまったのだった。
ふたりは疎らに立つ街灯の弱々しい光を頼りに、足元を葉脈状に走る影を踏み歩いた。
小さな噴水のある開けた空間に出たところで、中村が急に足を止めて空を見上げた。つられて山田も立ち止まり天を仰ぐ。
雲も月も見えない純度の高い星空が、山田の視界に広がった。たしかに美しいが、わざわざ歩みを止めて眺めるほどのものではない。特に中村はふだんこういった自然の景色に興味を示すキャラではないのに、と山田はなんだか腑に落ちなかった。
「流星群でも見れるのか?」
焦れた山田が訊ねる。
「もうちょっとしたらわかるから、黙って見てろ」
近くに立っていた時計の長針が九十度回るまでに、通行人が数名、彼らを真似て立ち止まった。ほとんどの人間は三十秒も経たないうちに首を傾げ、彼らを不審の目で見ながら立ち去った。
しかし、中には直接彼らに話しかける者もあった。
「天体ショーでもあるんですか?」
山田に質問したのは、輪郭の崩れたスーツを着た中年のサラリーマンだった。
「えっと……」
しどろもどろになる山田の横から、「もうちょっとしたらわかりますよ」と中村が助け舟を出した。
それからさらに十五分が経過した。
蕾がふくらんで、今まさに弾けるというその瞬間に似た興奮があたり一帯に満ちていた。最初に話しかけてきたサラリーマンも含めて約二十名の男女がその場に集い、みな夜空に熱心な視線を送っている。
「もうちょっとしたら何か始まるそうですよ」
その噂はすでに中村の手を離れ、事情を知らない者の口から新参者へと伝えられるようになっていた。
それでも、公園内を通る人だけならここまでの人数がそろうことはなかっただろう。誰かが近所に住む家族や知人を呼び出し始めたせいで、けっこうな数になってしまったのだ。
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