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金融資本主義の暴走:その二

金融資本主義の暴走:その二

「リーマン・ショックから欧州債務危機へ」

リーマン・ショックと欧州債務危機(欧州ソブリン危機)は密接不可分の関係にある。2007-2008 年の米国を中心とする金融危機の勃発は、その危機を世界的なものにしていった。

2008-2009年の急速な経済成長率の低下がリーマン・ショックである。そして、2009年10月、ギリシアの粉飾決算が明るみに出たことによってソブリン(国家信用)に疑念が生じ、南欧(ギリシア、イタリアなど)を中心に再びマイナス経済成長に陥った経済危機が、欧州ソブリン危機である。

リーマン・ショックと欧州ソブリン危機によって、米欧日の先進各国は、財政支出の急激な拡大と、金融緩和策によって、ひとまず危機を打開した。

2007年のサブプライム危機、2008年のリーマン・ショックは、それまでの世界的な好景気の資金循環を逆回転させ、急速に実体経済を悪化させた。「100年に一度」という言葉も使われた通り、急速な生産の縮小を伴う大規模な経済危機であった。

1930年代と異なり、大恐慌へと発展させなかったのは、戦後史に例のないほど、大規模な財政赤字の拡大による積極的なマクロ経済政策が展開されたからである。

米欧日の先進各国は、2009年のマイナス成長こそ逃れ得なかったが、積極的な経済政策(金融緩和策)で、2010年にはほぼV字回復を達成したが、同時に、2009年から2010年にかけて、政府債務残高を大幅に増大させることになったのである。

「欧州ソブリン債への不信」

2009年10月、ギリシア財政の粉飾決算が明るみに出たことを発端として、いくつかのヨーロッパ諸国のソブリン債への不信が高まり、ギリシャ・ポルトガル・スペイン・イタリアなどの南欧諸国を中心に国債の利回りが急騰し、国債価格が暴落するという欧州ソブリン危機が発生する。

危機に巻き込まれた国々では、危機封じ込めのための救済策と引き換えに、財政緊縮策がとられた。

これらの欧州ソブリン危機諸国は、リーマン・ショックからの経済再生も果たさないうちに、財政支出の削減を迫られ、2011年から再びマイナス成長に陥った。財政収入も落ち込み、財政収支の改善もままならない状態となった。

他方、ソブリン危機に巻き込まれなかったドイツ・フランス・イギリス・アメリカ・日本などでは、金融緩和も相俟って国債利回りは下落(国債価格は上昇)した。

これらの国々は、リーマン・ショックからの立ち直りも欧州ソブリン危機諸国に比べて早く、経済を回復の軌道に乗せる兆候を見せた。

アメリカは、財政規律よりも経済再生を優先させ、大胆な財政出動と金融緩和を継続した。

ドイツは、ユーロ圏の中で優越的な経済的地位を保ち、2011年には早々と欧州安定成長協定に明記されている財政赤字対GD比3%以内を達成した。

フランスとイギリスは、緊縮と成長の狭間で揺れ動きながらも、再生への道筋を開いていった。

日本は、政府債務残高を先進国のなかで最大規模に膨らませたが、積極的な財政出動と金融緩和によるデフレ脱却と経済再生、消費税増税や歳出削減による財政再建、社会保障充実や地域活性化による安心社会の確立という方向性の多重的な目標を鼎立させていく。

「通貨管理と国債発行の権限のずれ」

EU諸国は、多くの国で政府債務残高が大きく、この累積債務の多さゆえに、財政の持続可能性に疑義を抱かせるものがあった。

加えて、EU諸国が直面する難しい問題は、通貨管理と国債発行という二つの経済行為を、加盟国家が主体的な権限で、統一的に行うことができないというジレンマで苦しんだ。

そのことが、欧州ソブリン危機そのものの本質的な要因になっていると見られるのである。

ユーロ圏の財政危機は、通貨管理はヨーロッパ中央銀行(ECB)が担うが、国債発行は各国の主権にゆだねられるという財政と金融に関する権限のずれが原因の一つとなったことが明らかにされている。

これはEU加盟国と通貨ユーロの関係において、財政(国家の権限)と通貨ユーロ(ECB=欧州中央銀行、EUの権限)が、ねじれの関係にあり、EUの権限と国家の権限が対立葛藤する関係に陥ることを意味する。

しばしば発生するEU離脱の騒ぎは、通貨管理(EUの権限)と国債発行(加盟国の権限)のずれが、一つの原因になっている。

もう一つの教訓は、世界的な経済危機の局面において、緊縮財政は必ずしも正しい選択とは言えないことを明らかにしたことである。

それは、欧州ソブリン危機諸国が、経済再生も財政再建も共に達成できなかったことをみれば明らかである。

反対に、ソブリン危機に巻き込まれなかった諸国による「財政出動による経済再生の試み」が、景気回復の兆候を見せるようになったことは明白な事実である。

優先順位で言えば、まず経済再生、続いて財政再建という順序である。このことが明らかになった。

しかしながら、欧州ソブリン危機諸国も、危機に巻き込まれなかった諸国も、多くが、膨大な政府債務残高を抱えてしまったという事実は、これまた否定できない。

「自由と倫理の精神を失わない」

これまで述べてきた通り、2008年9月15日に米国の投資銀行であるリーマンブラザーズが破綻し、世界的な金融危機が発生した。

住宅価格が下落する中、低所得者層への住宅ローンであるサブプライムローンが不良債権化することにより、多くの資産価格が連鎖的に暴落したことが、リーマンブラザーズ破綻の要因であった。

サブプライムローンは返済能力が低い低所得者層を対象としたローンのため、リスクが高く、信用格付けは低く評価されていた。

しかし、 金融工学を駆使することでローンを証券化して、細かく分散することによってリスクが低減したと見なし、実態より高い格付けを付けていた。

また、サブプライムローンを保証する商品である「CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)」も発行されるなど、多くの信用創造が生まれた。

金融工学による証券化商品はリスク低減を実現していると信じるほど人間は愚かではないと言いたいところである。

また、CDSというデリバティブ(金融派生商品)が、本当の意味で信用創造を行っているのかどうか疑わしくもある。

金融という経済行為が、自由と倫理の精神を失うことなく、本当に、人々に喜びと幸福を運んできてくれることを願わずにはいられない。

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