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組織は戦略に従うbyアルフレッド・チャンドラー②


組織は戦略に従うbyアルフレッド・チャンドラー②
 
チャンドラーが研究した米国4社は、試行錯誤の末、集権的組織を分権的組織に変えて権限委譲する必要があることを等しく示している結果となりました。
 
そして「一つの事業は一つの事業部に任せ、トップは実務に関わらない」という事業部制組織に行き着き、その後の成長につなげます。
 
デュポンの場合、個々の製品ラインに目を光らせて確実に利益を上げる責任は、誰も持っていないことに気付き、製品群ごとの事業部制組織に変革し、責任を明確にしました。
 
GMの場合、創業者退任後、GMの部品子会社の若手社長・スローンが、GMを事業部制組織に変えることを提案し、経営陣に了承されました。1921年~25年にかけて、全社方針の下で事業部門を調整して業績評価をする体系的手順を作ったのです。
 
資金調達・生産・マーケティングを連携させて需要変動に対応できる体制を構築し、GMは、これまでとは違う結束力の強い企業に生まれ変わりました。
 
スタンダード石油ニュージャージーは、需要急落や過剰生産などのさまざまな危機に直面して、試行錯誤しながら、徐々に組織体制を整備し、最終的にデュポンやGMと似通った事業部制組織にたどり着きます。
 
シアーズ・ローバックは、組織改編を右往左往しながら繰り返しますが、最終的に1948年になって、事業部制組織を完成しました。
 
以上のように、4社は、異なる複数の顧客層へ異なる製品を販売する際に限界に直面して、事業部制を生み出しました。その後、多くの米国企業が、彼ら4社が生んだ事業部制組織を模倣し、米国は発展したのです。
 
それでは、改めて事業部制組織とはどういうものでしょうか。チャンドラーは、「事業部制組織は4階層構造でマネジメント活動が行われる」と言います。
 
結論を言うと、以下の4段階構造です。
①    総合本社、
②    事業部中央本社、
③    部本部、
④    現業部門
 
①の総合本部は、最上位で全社マネジメントに専念し、全社業績に責任を負います。実務から離れて、経営陣や専門スタッフが複数事業部の業績を評価し、経営資源を配分します。
 
②の事業部中央本社は、単一事業を営む一つの会社のように特定の製品グループや地域を担当し、本社から与えられた経営資源を活用しながら、実務を通じて成果を上げる責任を負います。
 
この事業部中央本社の下に、販売、研究、製造、購買、財務などのさまざまな職能を担当する③の部本部があり、その下に④の現業部門があります。
 
このような組織改編の結果、どのような結果がもたらされたかと言えば、例えば、GMの場合、5年間かけて事業部制組織を整えたGMは、1924年~27年において米国自動車市場のシェアが、19%から43%へ急上昇、自動車業界トップになり、その後は長い間、米国自動車市場を支配しました。
 
事業部制の本質は、事業部への分権化と総合本社による強い戦略性にあります。事業部制という組織が、新たに戦略を生み出すのです。
 
チャンドラーが言うように、組織も戦略に影響します。組織のあるべき理想の姿は、今後もまだまだ進化していくでしょう。チャンドラーの経営の歴史書は、多くの示唆を与えてくれるはずです。
 
事業部制組織を理解していないとき、起こりやすい出来事があります。折角、事業部制組織を取り入れたのに、何かあるとすぐに本社トップにお伺いを立てる事業部幹部、また、各事業部に口出しする一方、肝心の全社戦略を考えない本社トップ、こういう責任の不明確な動きをする人材がよくいるということです。
 
事業部制組織では、責任が明確になるということであり、意思決定も迅速になるはずですが、責任の不明確さ、意思決定の緩慢、遅延が相変わらずあるとすれば、事業部制組織の本質を分かっていないということになります。
 
本当に、事業部制組織が機能していれば、事業部社員は、スペシャリストとして専門性が磨き上げられ、事業部制トップは経営者目線で事業に取り組めるので、社内に多くの有能な経営人材を育てることができます。
 
総合本社は、事業部に経営資源を配分して業績を評価することで、各事業部をコントロールします。総合本社トップは、実務から解放され、全社視点で長期的な成長戦略を追求できるようになります。
 
繰り返して強調すると、事業部制の本質は、事業部への分権化であり、さらには強い総合本社による戦略性です。
 
アメリカにおける事業部制の誕生は、100年前のことです。組織の最も理想的な在り方が、事業部制であると断言することはできませんが、一応、これまでの経営史を顧みると、成功事例が多いことは確かです。
 
現代では、技術の進歩が急速に進んでおり、ネットワーク技術を活用し、分権化をさらに進めて、個人に100%裁量権を与えるティール組織のような組織形態も生まれています。
 
最適な組織形態を決めるのは、ビジネス上の課題であり、どのように課題を捕らえ発見するか、その上で、どのように組織を変えて行けばよいのか、英知を結集させなければなりません。
 
チャンドラーは組織の改編に関して、「組織に大きなメスが入るのは、大抵が経営トップの交代後である」と述べています。
 
なぜそうなるのか。会社を成長させる経営者は、事業拡大には熱心であっても、組織体制には無関心なことが多いということです。その結果、組織の問題が放置され、隠れた大問題になることが多いのです。
 
チャンドラーが取り上げた4社も、創業時からの経営陣が退陣するまで組織の問題に手を付けられませんでした。業績が低迷する企業は、経営トップが抱える様々なしがらみのために組織の問題が放置されていることが多いのです。
 
したがって、必然的に、経営トップの交代が、組織変革のチャンスとなるというわけです。組織のあるべき理想の姿は、今後もまだまだ、進化していくはずです。
 
チャンドラーが『組織は戦略に従う』(Strategy and Structure、1961年)で示した米国4社の経営史から見えてくるのは、組織が効率的で有効な働きをするときには事業、ビジネスの発展があるということ、非効率で無駄な部分が多い時には、企業はその事業を発展させることはできないという当たり前のことを語ってくれたことです。
 
今更ながら、肝に銘じたい内容であり、教訓であると感じます。

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