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先人の経営思想②:松下幸之助、稲盛和夫


先人の経営思想②:松下幸之助、稲盛和夫


《経営理念の重要性を語った松下幸之助》

松下幸之助は、「経営の神様」と呼ばれるほど、経営というものに対して思索を重ねた人物であり、また、効果的な経営を探求実践した人である。

松下幸之助の著書『実践経営哲学』を見ると、「事業経営においては、たとえば技術力も大事、販売力も大事、資金力も大事、また、人も大事といったように大切なものは個々にはいろいろあるが、いちばん根本になるのは、正しい経営理念である」と言っている。

それほど、経営理念を重く見たということであるが、その結果、どうであったか。

「一つの経営理念というものを明確にもった結果、私自身、それ以前に比べて非常に信念的に強固なものができてきた。

そして従業員に対しても、また得意先に対しても、言うべきことを言い、なすべきことをなすという力強い経営ができるようになった」と述べているのである。

結局、経営理念を明確にしてからというもの、力強い経営が可能となり、本人が驚くほど、事業は急速に発展したと語っている。

今日、世界的にも、経営の在り方については、さまざまなことが言われており、21世紀を拓く最も優れた経営とは何かが問われ続けることであろう。なかでも、ビジョンを持った経営が欠かせないという視点が強調される風潮があるのは注目に値する。

いずれにせよ、日本では、松下幸之助が経営理念を掲げて、経営というものの重要性を説いたことは、画期的なことであった。現在でも幸之助の経営に学ぶ人は多く、数多くの事業家たちを支えている。

《「企業は社会からの預かりもの」を経営理念に表現》

経営理念を明確にすると、

 ①経営の判断基準になる、

 ②企業の方向性を示し、従業員の意識を統一できる、

 ③従業員のモチベーション向上につながる、

 ④企業のブランドイメージにつながる、

などのメリットをもたらすことができる。

自分たちの企業が実現したいことは何か、社会的な意義は何かなどを、社内と社外の両方に明確にすることのメリットは非常に大きいと言わなければならない。

「企業は社会からの預かりもの」という松下幸之助の考えは、現在のパナソニックにその考えの根幹を表現して遺している。

「産業人タルノ本分ニ徹シ社会生活ノ改善ト向上ヲ図リ 世界文化ノ進展ニ寄与センコトヲ期ス」とした文章は、いまの言葉になおせば、「私たちの使命は、生産・販売活動を通じて社会生活の改善と向上を図り、世界文化の発展に寄与すること」ということになる。

「社会生活の向上」と「世界文化の発展」がキーワードである。

一方、幸之助は、遵法すべき七精神として、産業報国の精神、公明正大の精神、和親一致の精神、力闘向上の精神、礼節謙譲の精神、順応同化の精神、感謝報恩の精神を掲げ、パナソニックの全従業員が、綱領、信条とともに、この七精神を唱和している。

松下幸之助の経営精神を見ると、その大きな特徴として、幸之助が答えた有名なエピソードがある。

何を作っている会社かと聞かれたときの答えが、「人をつくっている会社」という回答であった。

その真意は「人をつくり、人を大切にする」ということであり、「人あればこそ」の考えを持っているので、会社は成長発展を続けることができたということである。



《正直、誠実、責任の集大成として現われた稲盛和夫の経営理想》

稲盛和夫と言えば、「アメーバ経営」という経営理念が、すぐに浮かぶが、詰まる所、それは「全員参加経営」という経営管理の手法である。

アメーバという小集団に組織を分ける。

何のためかと言えば、分けられたそれらの小集団のメンバー一人一人が、主役となり、知恵を絞り、努力して、自主的に経営参加を果たすという目的があり、その結果、全員参加の経営が達成されることを意味する。

アメーバ経営の目的には、「部門別採算制度」、「人材の育成」、「全員参加経営」が意図されていて、それが経営の効果を生み出すということである。

稲盛和夫氏の「アメーバ経営」と合わせて「稲盛会計学」の七つの基本原則、この二つを稲盛は「車の両輪」と言っている。

その二つをじっくり見ると、無駄のない引き締まった経営思想が貫徹し、精巧な光学機械を見るような感じを覚える。

なぜ、稲盛はそういう細かいことにこだわったのか。

「企業は永遠に発展し続けなければなりません。そのためには、贅肉のない、引き締まった肉体を持つ企業にしていかなければなりません」というのが、稲盛の経営理想であるからである。

「信頼関係を構築するためには、幹部だけではなく末端の社員にも、よく見えるような『ガラス張りの経営』でなければなりません」、

「トップ自身が率先垂範して公明正大な姿勢を貫くことで、人間として普遍的に正しいことを追求するという経営哲学が貫かれ、社内に風通しのよい職場がつくられていきます」

と稲盛は言っている。

これは、誠実で、ごまかしがなく、きれいな経営を行うことが、会社の維持発展につながるということを、京セラにおいて、また、JALの再建の重責において、最大限に実行してきたという稲盛自身の証に他ならない。

《危機的な状況を乗り越える力》

現在の日本、そして世界は、何か得体の知れない大きな変動に遭遇しており、経済の面でも、アフリカ諸国や中南米は勿論、欧米や日本などの先進諸国まで先の見えない難局に直面している。

人類歴史そのものが、まるでこれまでの悪業罪禍の禊(みそぎ)を受けているように見える。

利己主義に走り過ぎた欧米の経済行為、はっきりとした指針や国家政策を持たないまま漂っている日本、こういう世界的な危機感を覚えるとき、稲盛和夫は、不況時こそチャンスと捉えよと忠告する。

「企業は不況を境に体質を強化し、次の飛躍に備えることで発展していくのです。

不況が厳しければ厳しいほど、明るくポジティブな態度で、全員一丸となって創意工夫を重ね、努力を尽くして難局を乗り切ることが大切です」。

こういうメッセージの中に、稲盛和夫の精神力の強さ、ポジティブ思考を見るのであり、また、京セラグループが幾多の難局を切り抜けてきたその企業発展の足跡を見る思いがする。

「不況という苦しい局面を迎えたときに、職場や企業の真の力が問われます。

本当に苦楽を共にできる人間関係が出来ているのか、そうしたものを大切にする職場風土、苦労を分かち合える社風が出来ているのか、などが正面から問われるのです。」

このように語る稲盛の言葉は、結局、経営というものは、最後には、人間関係、人間そのものが問われるのだと諭している。

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