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仕事の護身術:「戦略」を考えるための基礎知識

仕事の護身術・理(ことわり)の章・その1は「戦略」のお話です。

語学やスポーツは、時間をかけて体験や経験から学ぶ方法もありますが、例えば語学なら単語や文法、スポーツや音楽なら基本的な形や基礎練習方法を知っていれば、時間を短縮して学ぶことができます。基礎を学ぶと、色々な応用にも対応できます。

仕事でも知っている方が良い基本的な形があると思っています。私は理論や理屈などをまとめたものを「理の章」と呼んでいます。

この記事は戦略を立てる前に、まず戦略が何かを理解するためにまとめられています。記事は3つのパートに分けて記述されています。

この記事を読んで、自分の状況に当てはめて考えていただければ、戦略を作るための考え方は仕事やスポーツだけでなく、就活や婚活、子育てにも応用できると思いますので、参考にして頂けると嬉しいです。


はじめに

オフィスでの仕事やプロスポーツの世界では、戦略という言葉がよく使われます。私も以前、仕事で「◯◯戦略グループ」という組織で働いたことがありました。

学生時代に「大戦略」というシミュレーションゲームをしていたので、戦略という言葉は何か戦争に関係することだということは知っていました。ただ、仕事で戦略を考えるとなると、具体的にどういうものなのか理解するのは時間がかかりました。

以下の情報は、ChatGPTでも教えてくれるであろう雑学と一般的な知識です。3つ目は少し独自の考え方を含めていますが、戦略を考える際のヒントになるかもしれません。

「戦略」の起源と歴史

「戦略(ストラテジー)」という言葉は、古代ギリシャ時代(紀元前500年頃)に「ストラテジア」と呼ばれる将軍の謀計と、「ストラテゴス」と呼ばれる司令官を指す言葉から派生しています。

日本で初めて「戦略」という言葉が使われたのは、1656年に山鹿素行が刊行した軍学書「山鹿流兵法」と言われています。この時に使用された「戦略」という言葉は、古代中国の軍事教典である「孫氏(の兵法)」から引用されたのではないかと言われています。

「孫氏の兵法」について具体的に触れずに、この本が示す戦略の重要性などについて言及しませんが、社会で何か活動をする人なら一度読んでみる価値があると私は思います。

ただし、原文だけでなく現代語訳を読むだけでも結構難しいので、図解付きの解説本がおすすめです。私がおすすめする本のリンクを文末に添付しておきますので、興味があれば参考にしてください。

余談ですが、「孫氏の兵法」は古代中国の春秋時代(紀元前500年頃)に孫武(そんぶ)という軍事思想家によって書かれました。古代ギリシャのストラテゴスと春秋時代の中国の孫氏の兵法は、遠く離れた2つの文明が紀元前500年頃という同時期に、現代まで継承される軍事思想を形成していたことはとても興味深いですね。

この「孫氏の兵法」は、昔の領土争いで自分の兵をできるだけ減らさないための戦い方の基本ですが、具体的な例を抽象化して使うと、ビジネスの戦略にも応用できます。社員や予算、競合他社との向き合い方に役立つ参考図書として、世界中で人気があります。

ビジネスでの戦略とは?

戦略とは何か?を調べると戦略を説明する文に難しい単語があり、その単語を調べて、更にその説明文の単語を調べて、、というほど本来は難しいものなので、書籍でもネット記事でも多種多様な説明があります。

ビジネスでの戦略についての本はたくさんあります。多くの研究者やビジネスの有識者が様々な定義をしていますが、私の中で一番解かりやすくて納得した表現は大前研一さんの「戦略論」という著書の中に出てくる次のような定義です。

「ビジネスでの戦略とは、顧客が求めているものに対する競争相手との相対的な力関係を、自社にとってよりよいものに効率的に変化させ、持続させるための計画や作業であり、その結果、競合企業に対する優位性が継続的に維持される」

私なりに解釈するとこの定義では大切なポイントが3つあります。

1.求めているものをはっきりさせること。
2.それを提供できる自社と競争相手との相対的な優劣を理解すること。
3.自社の強みと優位性を継続するための計画や作業を明確にすること。

戦略立案の際には、競合他社との比較分析(SWOT分析、3C分析、PSET分析など)を行い、自社の優位性を確認することが必要です。しかし、比較表を作った後にどのような対策を取るべきか迷うこともあります。また戦略の中の「計画や作業」の部分だけにフォーカスして戦略と戦術を混同していることもあります。

分析を進めた結果、次にどうすべきかがわかりにくい理由は、競合他社に過度に集中してしまうからだと思います。それを防ぐためには、競争相手だけでなく、自組織内の戦略の位置づけを明確にする必要があります。

そのためのヒントとなる考え方が、「世界観実現のための7階層」というものです。

世界観実現のための7階層

戦略を分かりやすくするために、世界の有名な戦略思想家や軍事の専門家たちが国家施策を細分化した階層構造のイメージ図があります。戦略の位置付けを理解しやすいので紹介します。

そのイメージ図は、アメリカ海軍の元少将であり戦略思想家として知られるJ.C.ワイリー(Joseph Caldwell Wylie)著"Military Strategy: A General Theory of Power Control"の邦訳「戦略論の原点」に掲載されています。

ただし、著書の中でワイリー自身は解説しておらず、訳者があとがきで他の研究者、例えばエドワード・ルトワックなどの提案として紹介されていますので、ワイリー自身のオリジナルということではないと思います。

※余談ですが、私がこの本の存在を知ったのはnoteのCXOである深津貴之さんの10年位前のツイートでした。

世界観実現のための7階層

図にあるように上位から7階層が定義されています。国家戦略と軍事戦略をあわせて戦略として6階層とする場合もあるようです。それぞれの階層は一般に次のように定義されています。

世界観(Vision):国家として世界における人間の存在や物事の意味を捉える考え方です。理想像として「どのような国家を作りたいか」を明確にし、人々の行動や価値観を形成する基盤となります。

国家政策(Policy):政府が国内外の問題に対処するために採用する方針や計画です。具体的な目標を設定し、経済、社会、外交、教育、環境、安全保障などの分野で実現するための手段を決定します。

大戦略(Grand Strategy):国家全体の目標を達成するために、政治的、軍事的、経済的、心理的な諸力を総合的に運用する計画のことです。戦争だけでなく、平時の外交、経済、文化、科学技術なども含みます。

軍事戦略(Military Strategy):戦争の発生を抑止し、戦争が開始された際に国家の軍事力を準備、計画、運用するための指針です。陸軍、海軍、空軍などの軍種ごとに分類されることもあります。

作戦(Operation):戦略の実行段階であり、組織の目標達成に向けて具体的な手段を計画・実施する重要な要素です。作戦は期間や予算を定め、組織内の部門やチームに対してアクションを指示します。

戦術(Tactics):戦略の実行段階であり、組織の目標達成に向けて具体的な手段を計画・実施する重要な要素です。作戦で決定された日時までに勝利するために効率的かつ戦果を最大化できる戦い方を選択します。戦闘単位である師団、連隊、大隊などで運用されます。

技術(Technique):物事を取り扱ったり処理したりする際の方法や手段を指します。軍事においては兵器の多様性や個々の性能、また諜報活動のノウハウなども含まれます。

この図において、最も重要なのはビジョンです。どのような世界や社会、チーム、家族、自分自身が理想であるかを明確にしていない限り、戦略やモチベーションが高まることはないでしょう。

そして、ビジョン以外の6つの階層は、ビジョンを実現するための手段と言えます。世界観を実現するための政策、そのための大戦略、そのための軍事戦略⇒作戦⇒戦術⇒技術という関係になります。

図中にピンク色の三角形を(勝手に)書いてますが、世界観や国家政策はできるだけ1つに決まっていた方が良い一方で、上位階層の柔軟さを生むためには技術や戦術の選択肢が多い方が良いと言えます。

これまでお読み頂いて、勘の良い方はお気づきかと思いますが、この階層構造は会社組織の構造と同じです。会社が軍隊の組織構造を参考にして作られたのか、組織を統率するための構造を考えたら結果的に似たのかはわかりませんが、各階層ごとの役割を当てはめると似ています。

7階層にあてはめた会社の組織構造

自分や組織が自律的に仕事をするためには、上位の方針に沿って判断する基準が必要です。その基準を理解するためには、上位の方針を深く理解する必要があります。また、自分の役割が会社のビジョンを実現するためにどのように関わっているかも理解する必要があります。

組織の階層は密接につながっており、最終的には企業のビジョンと技術が結びついている必要があります。つまり、自分がなぜこの仕事をしているのか、自分自身や他の人に対して明確に説明できる必要があります。

この階層構造と各階層の意味さえ理解できれば、売上を増やすための戦略立案やサービスの差別化を考える際にも、会社のビジョンから技術までを結びつけて役割を果たすことができます。

そして、組織内での自分の役割や仕事の優先順位は、階層ごとに明確になります。自分自身がどのような仕事に取り組むべきか、どの部分で協力が必要かも明確になります。そうすることで、次に取るべき行動が見えてくると思います。

この階層構造の考え方は、集団で戦うときだけでなく、自分の人生の組み立てにも役立つ考え方です。次の図は私が考えた一例ですが、どんな大人になりたいかや、大切な価値観は何か、そのためにどんな生活をするかといった人生プランを考えるときに、一つのガイドラインとして使えると思います。

自分の理想と日常を結ぶ階層構造の例

おわりに

今回は戦略という言葉を深堀りして、その起源やビジネス応用、そして戦略の位置付けを理解するための階層構造などをご紹介しました。

仕事の護身術でお話したい内容のいくつかは、この階層構造の1つにフォーカスして深堀りするものもありますので、この考え方をご紹介させて頂きました。今回の記事が皆さんの日々の仕事や生活に少しでもお薬に立てれば嬉しく思います。

最後までお読み頂きありがとうございました。


【参考:本文中でご紹介した書籍のアソシエイトリンクです】


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