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そして、みんなで丸くなる

まるで、五年分の正月が一同に会したかのようだった。
あるいは、竜宮城のおもてなし。
いや、メインはお肉とお酒だから……酒池肉林?(なんか違う)

義実家での一泊目の夕食は、お刺身、牛肉カレー、豚ハム等々。
豪勢だった。おいしかった。
二泊目は、お昼に年越し蕎麦を食べて、夜はすき焼きだった。
いかにも高級感あふれる牛肉で、数枚食べただけでお腹がいっぱいになった。
三泊目は、朝からおせちとお雑煮をいただき、昼は親族で会食、コース料理。牛肉やお刺身、天ぷらなど、「地球が終わる直前に食べたいもの」が集結していた。
その夜は前日と同じ、リッチな牛肉を焼き、おせちの残りとともにいただいた。
最終日の四泊目、ここにきてまさかの鰻。そしてお正月を華やかに締めるお饅頭。

お酒好きな義父によって、酒スケジュールまで組まれていた。
一日目はスパークリングの日本酒で乾杯。
二日目は日本酒と白ワイン。
三日目の夜は、満を持して獺祭。

どれもこれも、大変においしかった。
けれど、この贅沢に私の身体がついていけなかった。
申し訳ないけれど、もはや文字にしているだけで胃もたれがしてくる。年なのかしら。
我ながらみみっちくて切なくなるけれど、いまこれを書きながらつまんでいる、自分だけのために煮た硬めの黒豆と、ゆで卵のぬか漬けがどうしようもなく、落ち着く。

いやあ、牛肉牛肉牛肉鰻ですって。
すごすぎてもう、うちの正月とは違いすぎてもう。
ついソワソワして、夜な夜なこっそりと持参したおしゃぶり昆布をしゃぶってしまった。
でもおしゃぶり昆布一袋では、とても中和できない豪華絢爛さ。
その賑々しさは、私たちの結婚式を余裕で越えていた。

しかも恐ろしいことに、義実家では特にやることがなかった。
「手土産とかいらないから!頼むから手ぶらで来て!」という義母の言葉を信じきれなかった私は、Twitterの検索画面に「義実家」と入れた。
「手土産」と続けようとしたら、予測変換の筆頭に「義実家 行きたくない」と出てきた。

思わずクリックすると、嫁たちの悲痛な叫びの数々が一気に画面いっぱいにあふれてきた。

「義母に嫌味を言われる」
「自分たち夫婦だけ子どもがいなくて肩身が狭い」
「男たちは酒を飲むだけ、女たちは食事の支度などで大忙し」

え、こわ。魔窟かよ

「ナートゥ踊れるかな」とか「ミッチーの年末ライブに誘いたいな」とか、言ってる場合じゃないじゃん。

「義実家 行きたくない」と口々に言っているお嫁さんたちの義実家と比べると、私の義実家はおそらく天国に等しい。

私は結局なんの手土産も持たずに義実家を訪ね、手伝いを申し出ては「勝手を知ってる人がやった方が楽だから、気を使わなくていいわよ~」とやんわりソファに押し流され、夫と義弟たちとマリオカートで駆け回り、義母とリングフィットに興じ、義父とお酒を楽しんだ。

すっごく、すっごく楽しかった。
でもその一方で「私の年末年始といえば……」という思いが、ちらちらと頭をかすめた。

一人で長々と銭湯に行ったり、友だちの家でインドカレーを食べながらインド映画を観たり、本を読んだり、従姉と食べ歩きしたり、あてどなく散歩に出たり、家族と飲んだくれたり、noteの書き納め、読み納めをしたり……。

私にとってのこれまでの年末年始は、じっくりと自分に向き合う時間だった。
対外用の顔をはぎとって、素でいられる人たちと、ワイワイしたり、ひたすら好きなことに打ち込んだり、する時間だった。
社会人になってからはより一層この一週間弱の休暇をありがたがるようになって、数か月前から今年はどう過ごそうかとワクワク考えるようになっていた。

だから来年からは隔年訪問にするか、お邪魔するとしても一泊二日くらいにしたいんですけど、いかがでしょう?

スーパー銭湯に義母と義弟と三人で行った際に、意を決してお義母さんにそう持ちかけた。

「私は賛成よ!迎える方も準備あるし、自分の実家だって大事にしたいもんね」
そうきっぱりと言ったうえで彼女は、「ただ、お父さんがなんていうか……」と顔を曇らせた。
昔お義母さんが同じような提案をしたときに、お義父さんは「長男の嫁とはそういうものだ」と一切許さなかったそうなのだ。
普段あまり意識することはないけれど、私の夫も長男である。跡取り息子的な役割はないとはいえ、それでもやっぱり気にするものなのだろうか。

銭湯からの帰り道、義母が義弟に「お父さん、どんな反応すると思う?」と問うと、今年大学四年生の義弟は「父さんは寂しがるかもしれないけど、たしかに社会人になってからの長期休みって貴重よねー!ここでは正直やることもないし、気も使うだろうし、るる姉が過ごしたいように過ごすのが一番だと思う!」と言ってくれた。

夫に相談すると、「俺は正直一人で帰っても二人で帰ってもどっちでもええわ。ただ父さんは絶対にあなたがこれから毎年俺とともに帰るものと信じ込んでいるから、そんな話をしたら破天荒な嫁扱いされるかもしれないけど」と言った。

破天荒な嫁、上等。
一人で散歩に行きたいとやんわり伝えたときの、「心配だから誰かついていってあげなきゃ!行きたいところがあるなら誰か車出してあげな」という義父の気遣いが最後の一押しになった。
ありがたいけど、ありがたいけど!違うんだ、そうじゃねえんだ。
来年からはちょっと息抜きさせてもらわないと、私、もう、無理。申しわけなさで息ができなくなりそう。

大晦日の晩酌中にそれまでの年末年始の過ごし方を尋ねられた瞬間、私はピラニアのように食いついた。

私の実家は、両親ともに各々の実家に行くスタイルだったこと。
母の実家の埼玉へは母と子どもたちで帰り、父の実家は私たち家族が住んでいるのと同じ町だから、父だけで帰ったり私たちが帰ったあとに家族みんなで祖母に会いに行ったりしていたこと。
子どもたちが部活やサークルで忙しくなってからは、各自好きなように過ごしてきたこと。

るるるさん、がんばれぇー!
お義母さま、熱い声援ありがとう。

そして、続けた。
今夜今ごろも、私の中学時代の友だちはみんなで映画を観ながら盛り上がっているであろうこと。
私の友だちは夫婦になってからも、お互いの実家にそれぞれ帰っている人が多いこと。
地域にもよると思うけれど、義実家みたいに全員がきっちり集まっているおうちは、今は意外と少ないのかもしれない。
もちろん義実家のこともうんと大事にしたいけれど、それと同じくらい、これまで大切にしてきたこと、好きなことも大事にしていきたい。

そんなことを話すとお義父さんは、「本当はお友だちとの集まりだって行きたかったよね……るるるさんには他にも大事な人がいるんだもんねえ。そちらも、大事にしてほしい」と目尻を下げて言ってくれた。

「るる姉やったじゃん!父さん、るる姉はもう来年から来ないで(笑)」と私以上に喜ぶ義弟。

お義父さん、ごめんなさい。
周囲のご家族の反応から「お許しいただかなくては!」と勝手にラスボスに仕立て上げて対峙してしまったけれど、普通にOKくださってありがとうございます。
義母さんが嫁いできたころと比べて丸くなってくれたのか、私にかけてくれた言葉とは裏腹な思いもあるのかもわからないけれど。
子どもができた場合とか、今年とはまた状況が変わることもあるかもしれないけれど。
とりあえずそのお言葉、信じさせていただきますね。

そこからは一気に気が楽になり、もとからおいしかったお酒とご飯がより一層おいしく感じられた。

賢明なる読者諸兄はすでにお気づきのことと思うけれど(一度使ってみたかったフレーズ)、実はこの投稿自体が義父への保険だったりする。
万が一彼が年末に「去年はそんなこと言ってたけど、二人で帰ってくるよな?」的なことを言ったときには、「あらやだお義父さま、昨年はこうおっしゃっていたじゃありませんか。コメント欄でも「なんて柔軟なお義父さま!」って大絶賛でしたわよ(まだ言われてない)」と切り返すつもりだ。

したたかな嫁で、すみません。


そしていま私たちは、各々の布団のなかで丸くなっている。
義実家から帰ってきた次の日、私と夫は同時に喉の痛みを覚えた。
正直、そうなる予感はしていたのだ。
私は定期演奏会やコンクール、ちょっと気を張る仕事が終わったあと等々、気を抜いた瞬間に風邪を引く癖がある。
今回の気の張り方としては、おそらく風邪は避けられないだろうと感じてはいた。
でもまさか、夫まで倒れるとは思わなかった。彼は彼なりに、気を張っていたのかもしれない。
東京に戻った日に二人でPCR検査を受けたが、二人とも陰性だった。
結果が出たころ夫はちょうど発熱と激しい咳に苛まされていて、「こんなにつらいのにコロナじゃないってなんなんや!」と嘆いていた。

なんだかんだ風邪なので、しっかり栄養をとってひたすら寝れば、徐々に体調は回復していく。
今朝私が鼻をかんだついでに「蓄膿 蓄膿 私は緑〜 垂れるの大好き どんどんゆこう♪」と「さんぽ」の替え歌を歌っていたら、トイレから出てきた夫がうねうね踊ったのち、「またつまらぬ歌で踊ってしまった……」と呟いて去っていった。
そんなこんなで、お互いわりと元気である。

だいぶ回復してきたので、昨日は久しぶりにゲーム「どうぶつの森」で自分の部屋の模様替えをした。

1つ目の部屋。トイレあり

明らかに、『アナと雪の女王』のエルサの影響を受けている。
今年私は、「ありのままの姿」をガンガン見せてどんどん自由を謳歌していきたい。

ただ、雪と氷でできた部屋はお世辞にも「少しも寒くないわ♪」なんて言えないので、まずはもう一つの部屋(スーパー銭湯)でゆっくりとあたたまりたい。

2つ目の部屋。現在4つの風呂がある

思えば去年の私の年越しは、スーパー銭湯だったことですし。
スーパー銭湯にいがちな嫁として、今後しっかりとアピールしていくつもりだ。

お読みいただきありがとうございました😆