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9.あしたてんきになあれ/風街ろまん

第1パート

ときどき戦闘機が墜ちてくる街に
今日は朝から雨がしとしと

「戦闘機」や「雨がしとしと」という言葉に不安を抱く。暗くて冷たくてじめじめしている世界なんだと感じる。

黝(くろず)んだ水溜りを飛んだ少女は
とっておきの微笑
ぽつん 

黒ずんだ水溜り×少女という似つかわしくないシチュエーションに加えて、少女は微笑んでいるのだ。不気味すぎる。

第1パートは「しとしと」や「ぽつん」という表現で静けさに満ちている。その静かな感じもまた怖い。嵐の前の静けさか。

第2パート

旧(ふる)いふぃるむのようなざぁざぁ雨に
戦車のような 黒雲びゅうびゅう 

さて嵐がやってきた。
「旧いフィルムのようなザァザァ雨」とは映像に入るノイズとか砂嵐のようなものか。結構うるさく雨が降っているようだ。
黒雲を戦車に例えている。うなりをあげながら黒い雲がびゅうびゅうと激しく進攻してくる様子が想像できる。

第1パートは静かなシチュエーションだったが第2パートはうるさい。不気味さというよりはシンプルな暴力性を感じる。

人攫いの夢に怯えた少女は
いっちょうらの涙を
ぽつり

少女は悪天候に完全に怖がってしまっている。そして恐怖から「人攫い」の夢を見て泣いてしまう。ぽつり、夢で良かった。

あしたてんきになあれ
あしたてんきになあれ

当時の時代背景を説明すると、70年代はベトナム戦争で政治的に不安定であったし、よど号ハイジャック事件・三島由紀夫の割腹自殺など政治の不安定性から生じる事件が相次いでいた。
そういう情勢の中で少女が不安になってしまうのも無理はない。「あしたてんきになあれ」と祈る。

現在でもこの願いが過去のものだとは言い難いだろう。あしたてんきになあれ。

第3パート

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さっきまで駆逐艦の浮んでた通りに
のっぴきならぬ虹がかかった
その虹で千羽鶴折った少女は
ふけもしない口笛
ひゅうひゅう
あしたてんきになあれ
あしたてんきになあれ…

晴れてきて良かった。はっぴいえんどへ向かっていって良かった。少女はふけない口笛をふきたくなるほど嬉しいのだろう。
「千羽鶴」は祈りの象徴だ。このまま快方に向かいますように。

まとめ

歌詞ばかり気にしていたが、どんどん細野晴臣がずっと裏声なのが気になってきた。そして曲調はファンキーだ。絶妙にダサいのが独特な情感を抱かせる。
また主人公の「少女」という個性がとても際立っている。戦争の対義語は少女なのではないか。そしてこの歌詞を書いた松本隆の心は少女なのではないか。

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