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11.春らんまん/風街ろまん

沈丁花
向ふを行くのは お春じゃなゐか 
薄情な眼つきで 知らぬ顔 
沈丁花(じんちょうげ)を匂はせて 
おや、まあ
ひとあめくるね 

お春ちゃんを主人公は見つけた。「おーいお春ー」とでも呼んだのだろうが「薄情な眼つき」で完全にシカトされている。

沈丁花とは、春のジンチョウゲ/夏のクチナシ/秋のキンモクセイと言われる三大香木の1つ。つまり春の物語なのだと分かるどんな香りかと言うと柑橘っぽいさわやかさのある甘いグリーンフローラル。(シャネルやイソップから香水として出ているくらいには有名らしい)春の匂いと共にお春が語られていることから綺麗な女性がイメージされる。

シカトされたにも関わらずたくましい主人公は「一雨くるなぁ…」と言う。何か事件が起こる予感

梔子
はるさめもやふのお春じゃゐか
紺のぼかしの蛇の目傘に
花梔子(はなくちなし)の雨がけぶる
おや、まあ
これからあひびきかゐ

「春雨模様のお春」とある。春は天気がコロコロと変わる季節だ。お春も気分がコロコロと変わるらしい。どういう意味なのかハッキリとは分からない。しかしそんなことを言える主人公、あなたは何者なのだと言いたい。お春とある程度の友人関係があるのか。

花梔子は先述した三大香木の1つであり、夏の花である。甘い匂いの花。時間が進み夏の物語なのだと分かる。夏のある日、お春を見つけた主人公は「逢引かい」とデートに行くお春を見送る

ここからは筆者の想像だが、おそらく春に付き合った彼氏とのデート。春雨模様とは彼氏との関係が良い時/悪い時の気持ちの変化。彼氏の惚気/愚痴を主人公に話しているのだろうか。もしかすると関係性はあまりなくお春の噂が主人公に回ってきているだけなのかもしれない。いずれにせよ三大香木に例えたこと踏まえると、主人公はお春のことが気になっているのだろう。

巴旦杏
婀娜(あだ)な黒髪 お春じゃなゐか
淡くれなゐに頬紅そめりゃあ
巴旦杏(はたんきょう)もいろなしさ
おや、まあ
春らんまんだね

婀娜とは女性の艶かしさや色っぽさを表す言葉。しっかりと手入れされた黒髪なのだろう。薄紅(ピンク色)のチークを塗ったほっぺは巴旦杏(スモモ)も色あせて見えるくらい綺麗だと言っている。主人公、完全に惚れちゃっている。

スモモが夏から秋にかけて旬なのでそれくらいの時期かと思われる。しかし主人公は「春らんまんだね」と言う。これはお春に ”春”が来たというのが自然な読み。結婚したのだろうか。

暖房装置の冬が往くと
冷房装置の夏が来た

そして冬が過ぎ、夏が来る。あれから1年たった。

ほんに春は来やしなゐ
おや、まあ
また待ちぼうけかゐ

主人公に”春”はこない。待ちぼうけらしい。自分から動けと言いたい。

向ふを行くのはお春じゃなゐか
薄情な眼つきで知らぬ顔

そしてある日お春を発見する。まだお春に未練があるどうしようもない主人公。でも気持ちは分かる。がんばれ主人公。

まとめ

お春にずっと片思いする主人公。結局、お春と主人公の関係性が全く分からないまま終わる。しかし毎回「おっと雨が降りそうだな」「デートかな??」「幸せいっぱいでいいね〜〜」と完全に強がっている。いや自分から動けよ。

とても残念な主人公だがそれは巨大なブーメランとして自分に返ってきた。とても親近感が湧いた。

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