材料の信頼性④

こんにちは
材料技術者のつんちゃんです。
私の仕事は主に工業の世界でどこにどんな材料を使っていくのか、調子よく使うためにはどんな工夫をすればいいのか、ということ実験したり調べたりしています。
工業にしても農業にしても、何かものづくりをする人にとって材料の信頼性というのは必ず付きまとってきますよね。このnoteでは、安全安心な製品をお客様に届けるために、気を付けなければならない材料の信頼性について書いていきます。

さて今回は、金属に小さな力をかけたときの話をしてみたいと思います。


金属疲労という考え方

針金を何度も何度も曲げて伸ばしてを繰り返していると、やがて折れてしまう。そういった実験を見たり、または自分でやってみたりしたことはある人も多いと思います。

一度曲げただけで、針金が折れてしまわないのは、細い針金だと、曲げたときの変形の大きさが、ちぎれるほど大きくはないからですね。
針金は曲げることは人の手でもできますが、引っ張って切る(引きちぎる)ことは、かなり細い針金でも、結構難しいと思います。つまり、ちょっと変形させるだけなら簡単ですが、ちぎれるまで変形させようとすると、かなりの力が必要になるわけです。

同じような話
鉄板とか鉄骨をハンマーでガンガン叩いてみるとへこみますよね。でも、それが割れて真っ二つになったりすることはほとんどない。変形はするけど割れたりちぎれたりする訳じゃない。本当に穴が開いたり、2つにちぎれたりするまで引っ張ったり叩いたりするのは、並大抵じゃない。
しかし、繰り返し繰り返しダメージを与えれば、いつか亀裂が入るのです。

こんな風に、1回では壊れないけど、何回も弱い力を繰り返しかけることで、壊れてしまうことを、金属疲労による破壊と呼んでいます。

金属疲労はかなり小さい力でも起こります。
もし、カタログに破断強度が500MPaと書かれていても、そのストレスは、1発で壊すことのできる力であって、もし繰り返し力を加えるのであれば、この半分、もしかしたら1/3でも壊すことができるかもしれません。
そう考えると、疲労破壊というのは、とても怖い、ということが分かると思います。
世の中の機械部品で、繰り返して力がかかることはなくて、1回だけですよ、なんていう部品はほとんどないと思います。金属製であれば、繰り返し使えることを想定して使われるわけですから、疲労破壊の強度を知らずに設計してしまうと、使っていくうちに次々と壊れる、ということが起こります。

疲労破壊はどうして起こるのか

金属だろうとプラスチックだろうと、ちょっと人の手で押したり引っ張ったりしたくらいでは、その瞬間少し曲がることはあっても、すぐに元の形に戻ってしまいます。もう少し強い力をかけると、変形するけども、割れたり穴が空いたりはしません。
この時、とてもとてもミクロに見てみると、原子や分子の配列が少しずれているのです。パッと見た目は変化がほとんどないし、実際に寸法をかなり精密に測っても、変化がありませんから、気づくことはありません。しかし、それを繰り返し繰り返し行っていくと、ちょっとしたズレは、だんだんと大きくなっていき、いつか小さな亀裂を発生させてしまうのです。
とてもとても小さな亀裂です。顕微鏡で見ても発見できるのかどうか。物体の表面ではなく、内部に発生することもあるので、その場合はみることもできません。しかし、繰り返し変形させると、いずれは亀裂に発展します。
高校か、大学かの、理科や工学では、物質には、変形させてもすぐに元に戻ってしまう「弾性変形」の範囲と、一度変形させるともとには戻らない「塑性変形」の範囲があると習います。ばねは、一定以上の長さに伸ばしたら、びろんびろんに伸びて使えなくなってしまいますが、適正な範囲で使っている限りは、何回でも伸ばしたり戻したりできます。
しかし、無限に使えるわけではない。
私たちが、弾性変形なので、何回伸ばしても元に戻ります、と習うのは、真実ではありません。
実際には、少しずつ少しずつダメージを受けています。
とはいえ、もし壊れるまでの繰り返し回数が、100億回と言われたら、まぁそれは無限でもいいかもしれません。
例えば、自動車のエンジンが、平均の自動車寿命である11万㎞を平均時速25㎞/hで走行したら、4400時間動いていることになります。1分間に2000回転回っているとして、車を廃車するまでに回転する総回数は、5億回くらいです。もし、100億回力を加えないと壊れないのなら、もう無限でいいと思う、というのはそういうことです。

どのくらい長持ちするのかを見積もる方法



そうは言っても、ちょっと強い力なら、何万回くらいで壊れるかもしれないし、もしかしたら数千回で壊れるかもしれない。

私たちが普段手で使うような道具なら、数千回でもほとんど無限に使えるということでよいと思いますが、発電機、エンジン、モーター、家電など、機械の力でずーっと動いているようなものは、数千回など簡単に余裕で繰り返しますし、100万回くらいでもちょっと心もとないですよね。

私たち材料技術者は、それぞれの材料にどのくらいの力をかけたら、何回まで繰り返しても大丈夫なのか、ということを知っています。
というか、調べることができます。

多くの工業製品は、そのような繰り返し試験によって、このくらいの力がかかったら何回くらいは壊れない。というような強度の見積もりがあって、その上で機械の出力と、寿命までの繰り返し数を考え、それに見合う材料を選定しています。

やり方は、かける力を変えて、折れるまで繰り返し力を加える
それだけ。

多くの場合は、1秒間に数十回も繰り返しの力をかけられる装置を使って、非常に短い時間に何万回もの繰り返しの力を加えます。
こうして得られたデータを使って、機械の中で使われる、部品の強度は寿命を保証されているのです。

しかしながら、
材料メーカーや、部品メーカー、加工屋さんなどがカタログやホームページなどで紹介しているデータには、1回で壊れる強度のデータはあっても、何回繰り返したら壊れるかのデータはほとんど紹介されていません。

それは、このデータが、実験の方法であったり、同じ規格でもちょっとした材料成分の違いであったり、同じ化学組成でも作り方が違っていたら、大きく変化してしまう類のデータだからです。

機械加工を請け負う場合、もちろんお客様の図面通りに作ればそれでよい、と考える人が多いと思いますが、もし、お客様の使い方に寄り添って、適切な材料の選定や、精度の提案をして、よりよくより安いものを提案しようと思うのであれば、一発破壊の強度に加えて、疲労破壊の実力も把握しておく必要があります。
そうでなければ、使い始めてすぐ壊れた、などのお客様の不満につながってしまうのです。


まとめ

材料は、小さな力でも繰り返し力をかければいつか壊れる。
材料の疲労破壊の寿命を予想することは難しく、データはあるが、一般にはあまり公開されていない。
量産されている機械部品や機械製品は、きちんと疲労強度設計されているものが多いが、経験的に壊れていないので大丈夫、という使い方をしている人も結構いる。

もし、お客様からも注文が入り、疲労寿命が気になる。という方がいらっしゃいましたら、ご相談くださいね。
お客様のところで壊れてからでは遅いですから・・・・。

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